第24話

 ともあれ、現在の状況の確認の為もあるが皆で城壁の上に移動することとなった。

 高さ約15mは有りそうな巨大な城門は、石造建築のビルに嵌め込まれている形になっており、門の左右、及び門の上の内部は兵士たちの詰め所と休憩室が用意され、常時警備兵が詰めている。

 内部の螺旋階段を20mほど上ると城門の建物を貫く様に馬車が1台は走れそうな通路が延々と伸びている城壁の上に出る。

 更に5mは上まで伸びた螺旋階段を上ると屋上の物見台へと出ることが出来る。 物見台の上からは天気も良い為か、高い障害物も無い為か、川沿いに北へ延びる道とところどころにある小さな森、そしてその奥には大森林が緑色のかすみのごとく広がっているのが見渡せた。

 さらにその奥には、雪を頂いた延々と連なる山脈まで見えていた。

 しかし、大森林まではここから30km近く有り、魔物の姿はまだ確認できる状態ではなく、云われてみれば何か動いているかも? 程度にしか見えなかった。

 隆は、何か見えないかじっと見つめていると、突然視界が狭まって森の切れ目辺りの景色がズームされた。

「ぬぉぁっ!?」

 思わず叫んでしまった隆に伯爵は尋ねた。

「タカーシ様、どうかされましたか?」

「すみません、突然視界が切り替わって、びっくりしてしまって」

「?」

「森との境界辺りがアップで見える様になりました」

「!! 遠見の術ですか? 素晴らしい! 状況はどうでしょう?」

「今まさに、続々と魔物が出て来てますね…」

「ゴブリンの集団が一番多いですが、豚みたいな顔のデカいのが5、6匹ずつの集団で、角が生えてるもっとデカいのも2、3匹ずつ集まって出て来てますね」

「あとあれは、熊ですか?、単独でちらほらと黒い毛皮のデカいのが居ます」

「オークにオーガ、バトルベアですな、厄介なのも紛れているな」

「居ないな……」

 ぼそっと零した隆の声に反応したのはシルビア嬢だった。

「何がですか?」

「いや、ほらネクターの木の所で出会ったでっかい兎です、出てこないのかな?」

「あぁ、ジャイアントホーンラビットですね、あれはこちらから攻撃しない限り襲ってきたりはしませんので、こう云うスタンピードなどの場合、出てきません」

「良かった、あいつ強そうだったから、そういえば自分が見た奴も襲っては来ませんでしたね、全身傷だらけで、物凄い覇気を出してましたが……」

「まぁ、それは森の主だったのかもしれませんね?」

 そんな話をしている間も、どんどん魔物が森から溢れる様に出て来ていた。

 一部は道を東の方に移動している魔物も居たが、ほとんどの魔物が南下してきている。

 先頭は既に、あの速度ならここまであと1時間ぐらいのところまで接近しているがまだ森から魔物が出続けていた。

「これは、1万2万では済まないかもしれんな」

「森の東のフロンテラの街は大丈夫でしょうか?」

 隆が聞くとギルド長が答えた。

「あぁ、あの街はこっちより城壁が高くなっていて、オーバーハングしているので魔物の侵入はほぼ無いでしょう」

「ただ、こっちが片付いたら救援に行かないと何日も魔物に囲まれた状態のままになるかもしれないですな」

 街の出入りが出来なくなると言う事は籠城戦だ、小さな街では長くは持たないだろう。

「そんな訳で、あまり悠長にもしてはいられん、早々に片付けるとしよう」

「下の連中に連絡、騎馬隊と冒険者は合図とともに門から出て殲滅戦だ、が深追いはするなと伝えてくれ」

「はっ、連絡に行って参ります」

 伝令が走り去り、下ではあわただしく整列したり点呼したりが始まっていた。




「さて、そろそろ第一陣が見えてくるな」

 伯爵がそう言ったと同時に、道の先約800mの所にゴブリンの集団が見えてきた。

 伯爵が合図を出すとまず、門が開き騎馬兵が500騎城門を抜けて飛び出していった、続けて冒険者たちも走って飛び出す。

500mぐらいまで近づいた第一波の集団に対して速度落とすことなく突っ込む騎馬兵は当たるを幸いに魔物を切り飛ばしながら走り抜ける、それを何度か繰り返すと第一波の魔物はほとんど倒され残りは散り散りに逃げて行った。

 一緒に外に出た冒険者達は、騎馬兵の蹂躙による魔物の魔石の回収と、単独または少数でまだうろうろしている魔物の始末をして回っていた。

 それを、第二波、第三波と繰り返して行くともっと大きな集団が近づいて来た。

新たな大集団を確認した伯爵が合図を送るとそれを確認した伝令が角笛を3回吹き鳴らした。

 すると今まで蹂躙を続けていた騎馬兵と冒険者は一斉に城門目指して戻ってきた。

 全員が城門前に戻ったのを確認するとワンドを構えたマリアが徐に詠唱を始めた。

 マリアの詠唱が進むにつれて、魔物の大集団の中心上空に風が集まり出した。

風はやがて大きな竜巻に育ち、物凄い速さで回転を始めると同時に摩擦で発生した稲妻を辺りにまき散らし始めた。

 更に暫くすると竜巻の中から青白い炎の矢が大量に形成され始め一緒に回り始めた。

「む? 青い炎? ……のファイアーアロー?」

 ギルドマスターが独り言ちた。

「あぁ、もう応用されているのですね、タカーシ様に教えて頂いた炎の温度を上げる方法を利用されているのです」

 そう云うとシルビア嬢は指先から青白い炎を出して見せた。

「なっ!? そんなに簡単に出来るのですか?」

「理屈さえわかれば簡単ですよ」

 そうこうするうちに完成した稲妻をまき散らしながら青い炎の矢を射出する竜巻は魔物の集団の中に降りると蹂躙を開始した。

 それはまさに蹂躙だった、至近の魔物は竜巻に巻き込まれ吹き飛ばされ、周りにいる魔物には電撃が降り注ぎ、離れたところの魔物には炎の温度が上がった為貫通力の増したファイアーアローが次々と生成されては飛来していた。

 しかも、その竜巻は意思が有るかの様に魔物の多く集まる場所に向かって移動し続けてやがて消えていったときには最初の集団の1/10以下の数になっていた。

 残りの魔物達は待機していた騎兵と冒険者達によって片されていった。

 それでも全部を倒しきることは出来ず、数百匹の魔物達がバラバラにではあるが、城壁沿いに、東西に逃げて行ってしまっている。

 しかし、兵たちはそれを追おうとはしていなかった。

 疑問に思った隆が伯爵に聞くと鷹揚に頷きながら教えてくれた。

「はい、討ち漏らしは想定内の数ですので大丈夫です、そして、東門、西門の外にはそれぞれ1000名の兵が待機して、魔物を掃討しながらこちらに向かってくる予定です。」

「あぁ、なるほど、それなら安心ですね」

 隆は納得して頷いていると大魔法を成功させたマリアがやって来た。

「マリア、お疲れ様です、凄い魔法でしたね」

「……ん」

 そう云うと隆の腕に寄り掛かる様に縋り付いてきた、やはり疲れるのだろう。

「マリア嬢いつも以上の威力だったな、恐れ入ったぞ!」

 ギルドマスターは驚きの色を隠さず、マリアをほめていたが、続けて尋ねるのも忘れなかった。

「で、あと何回出せる?」

「……ん、……あと、……3回」

「おぉ、凄いな、あの規模の魔法をあと3回も出せるとはさすがマリア嬢だ」

 ギルドマスターがそう言うと、伯爵は、眉を顰め考え込みながら言った。

「だか、ちょっとまずいかもしれんな、下手をするとあと10回ぐらいはあの規模の波が来るかもしれん」

「では、次の波は自分が対処しましょう」

 隆がそういうと、伯爵は嬉しそうに言った。

「やって頂けますか?」

「勿論です、皆さんが頑張っているのに、何もしないなんて、ありえませんよ」

 そう云うと隆はにっこり笑ったのだった。

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