第20話

 出来上がった剣を、先ほどテーブルに置いた剣の隣に置くと、隆はにっこりと微笑んで言った。

「出来ましたー」

 あっけに取られていたカルロス伯爵だったが、気を取り直すと、新たに現れた方の剣を手に取り子細に確認を始めた。

 ……どこにも、違いが見いだせなかった。

「…………」

「この鞘は自動修復も付いたマジックアイテムなのだが、その機能まで再現されているのか?」

「ちょっとよろしいですか? はい、こちらもマジックアイテムになっていますね」

 シルビア嬢が鑑定を使ってくれた。

「刀身もアダマンタイトを混ぜたミスリル製なのだが、全く同じ配合で、同じ刀工が打ったとしても、ここまで同じになる事は有り得ないのだが……」

「……どちらも、本物と言わざるを得まい」

「まさか、全く同じ剣が出来るとは思わなかったので安易に頼んでしまったが、国宝級の剣が2本になってしまった……」

 ちょっと、途方に暮れた感じの伯爵様だった。

「お父様……」

「まずかったでしょうか? よかったら、違う形に作り直しましょうか?」

 そう云うと隆は自分で作った剣を再び手に持つと、目を閉じた。

 隆が手に持った剣の周りには可視化した魔力が渦を巻く様に集まりだし、魔方陣の様な文様を形成すると、一瞬明るく輝き弾けた。

 隆の手の中には浅い反りの入った細身の両手剣が握られていた。

「……タカーシ様、一度作った物を作り直すなんて、今までしてませんでしたよね?」

一寸呆れた溜息をつきながらシルビア嬢が言った。

「すみません、何となく出来るかなって思って……、やってみたら、ちょっと大変だったけど、やっぱり出来ました」

 テヘペロと擬音が付く様な軽さで隆が答える。

「た、タカーシ様、拝見しても?」

 好奇心が抑えきれないと言わんばかりの顔で伯爵が言った。

「勿論です」

 隆が答えると、待ってましたとばかりに剣に手を伸ばし、そのこしらえの確認から始めた。

 浅く反りが入っている剣の鞘は黒檀の様な艶消しのダークブラウンで、ツタが絡んだような複雑な文様が石突から鍔本に掛け絡みつく様に金で象嵌ぞうがんされていて、それ自体が一つの芸術品となっている上に、状態修復の魔法が掛った魔道具でもあった。

 鞘自体もそうだが中に入れた剣も勿論、修復してしまう優れものだ。

 つばは雲の様な文様が入った小判型でミスリルで仕上げられており、つかも滑り止めの為か固い組ひも状に編み込まれたと思しき繊維状のミスリルが巻かれた黒檀で出来ていた。

 ハバキで鞘に固定されている刀身をゆっくりと引き抜くと、伯爵は思わず感嘆の声を上げてしまった。

「お、おぉぉぉぉぉ、なんという美しさだ!」

 現れたのは波打つ様な刃紋が連なる刃渡り90cm前後のハマグリ刃の片刃(※刀身の片側だけがやいばとなっている、反対側は峰)の太刀だった。

 刀身には、何万回と繰り返し鍛えなければ現れないだろうと思われる、ミスリルとアダマンタイトの層がダマスカス鉱の様な紋様となり刀身全体位を覆い通常より厚めで幅広の凌ぎ部分にはかれていた。

 刃の無い方の峰には手元から二本のアダマンタイトの線が切っ先に向かい収束して伸びて中段に構えると真っ直ぐに伸びる道の様な景色を呈している。

 日本刀としては幅広でやや肉厚な刀身ではあるが、元の両刃の剣と比べると細身の太刀に仕上がっていた。

 完全に太刀に魅せられて無言だった伯爵は、皆に見つめられていることに気付きハッとして我に返ると、隆に詰め寄った。

「タカーシ様、この剣ぜひ譲ってください!、そうですな、10億ゼックでいかがでしょうか?、不足ならシルビアとマリベルも差し出しましょう」

 あ、伯爵様、云ってはいけない事をポロリと漏らしてしまった。

 女性陣から漏れ出した不穏な空気に気付いた伯爵はしまった!という顔をしてごまかす様に話し出した。

「い、いや娘達の件はもちろん冗談です、冗談ですとも」

「だがこの剣は先程の国宝の剣が見劣りするほどの一品、ドワーフの刀工が総力を結集したとしても、一本打てるかどうかの傑作で間違いない!!」

「タカーシ様、是非、是非ともお願いいたします!!」

 もはや、土下座せんばかりの勢いだった。

 てか、エルフが居たんだから居るとは思っていたが、ドワーフも居るんだ……と隆は思った。

「カルロス様、落ち着いてください、ただ、見せる為だけに作ったりしません」

「その太刀はカルロス様に差し上げますので、ご安心下さい」

「!! 本当ですかっ!? 言質げんちは頂きましたぞ!!」

 隆が頷くと子供の様なはしゃぎ様で太刀を高々と掲げて叫んでいた。

「ヤッター!! 私のモノだ!! 早速名前を付けなければ!! この清楚な雰囲気はやはり花の名が良いだろうか……」

 伯爵、刀剣マニアだった。

 しかも、名前を付けて愛でちゃう、ちょっと危ない感じのマニアだった。

 太刀の名前がその白いミスリルと黒いアダマンタイトの色合いから百合の花を連想させ、そして精霊が打ったも同然と聞き『エスピリタルリリア』に決まり、伯爵も落ち着いたころで、話を戻すことになった。

「まず、傭兵団だが、城塞の地下牢に収監する、その後、その罪に応じた罰に処する」

「次に傭兵団の所有していた武器、財産は被害者が確認できるものは返却、その他は領軍の接収とする」

「傭兵団は、領軍が演習中に偶然発見捕縛した事にする」

「こんな所で宜しいですかな?」

「はい、お手数をお掛けしますが宜しくお願い致します」

「いえいえ、こちらとしても、領内の問題の一つが解決している上に、領軍の評判も上がる、良い事尽くめです」

「それはそれとして、気になるのは最初のゴブリンの大群だ、あの場所にそんな多くの魔物が出ることは、ほとんど考えられない」

「スタンピードの兆候でないか、調べさせる必要があるだろう」

「外壁警備にはより一層の注意を呼びかけ、どんな小さな兆候も見流さない様に伝えよう」




 説明が終了し、今後の方針が決まったので、早速隆は先ず傭兵団から取り上げた金目の物をその場のテーブルの上に出し、伯爵は呼び出した出納係に確認を依頼した。

 その後、伯爵と共に地下牢へ行き、40数名の傭兵団員を各房へ10名ずつ押し込めた。

 全員裸だったので、固い石の牢に投げ出されて痛いは、寒いは、で状況も判らずきょとんとしていた。

 ピサロとその副官2名は最も厳重な牢にしかも地上1mの高さに呼び出したので現れると同時に落下して裸で転げまわる事となった。

 隆は女扱いされた事を、まだ根に持っていた様だった。

 上に戻った隆は、次に練兵場へ行きその休憩室らしき場所に傭兵団から取り上げた武器、防具などそれぞれ剣、槍、弓、鎧などに各々おのおの振り分けて山積みにした。

 その中の数点、ピサロの持っていた剣や膂力を上げる指輪など被害届が出ている物は、元の持ち主に返却されることが確定していた。

 その後厩舎へ行き馬30数頭を各馬房へ入れると、総てを終えた隆は左腰に太刀を佩いてご満悦の伯爵と再び練兵場を通って城内に戻ろうとしたのだが、そこで声を掛けられた。

「ご領主様、しばしお待ちを!」

 声を掛けてきたのは隆と同い年位のがっしりとした体格の若者だった。

 立ち止まった伯爵に一礼すると、隆の方に振り向いて言った。

「貴殿が、マリア様を連れまわして居るというか?」

「初めてお目に掛る、私はエルシドと言う者だ」

「これはご丁寧に、初めまして、佐藤隆さとうたかしと申します、以後お見知り置きを」

 にっこり微笑んで隆は返事を返した。

 練兵場の端には50名近い兵士たちが訓練をやめて休んでいたがほとんどの兵士が、隆の笑顔に胸を撃ち抜かれていた。

「おぃ、あれが例の……」

「とても(男とは)信じられんな」

「ばかっ!? みだりに口に出すな、大変な事が起こるらしいぞ!」

 休憩中の兵たちはひそひそと、口々に囁いていたが、隆には全く気にならなかった。




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 ※の解説、うざいかなっ?と思ったのですが、西洋と違い日本の鍛冶業界では、ほとんどの刃物が片刃(片側だけに刃があり反対側は峰)の為、片刃とは鉈の様に、片面だけから研いで刃付けを行った刃物を指し、両刃とは日本刀の様に両側からテーパーを掛けたものを云うそうです。

 知識のある方程、取り違えるとのことなので、解説的に入れてみました。

 さぁ、バトルの予感!?

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