第17話

 流石に領都と云うだけあって、フォルタレッサは大きな街、いや都市だった。

 まず、目に入るのは都市の中央にある丘にそびえる大きな城塞で壁や城壁を白い石材かもしくは白く塗っている為、いかつい外観にも関わらず、とても清楚に見える。

 その足元に広がる城下町は東西南北、半径約3km前後の円形に第一の城壁で囲まれている。

 その外側には半径3km近くの街が広がり下町を形成している、更にその外縁には麦畑らしき緑のじゅうたんが広がっていた。

 そして、外縁の畑などの農地の更に外側、中心からだと約7km前後の場所には、また更に長大な城壁が巡らされている様だが、さすがにここから全容を把握することは出来ない、それほど大きい都市だともいえる。

 都市の外縁を囲む城壁には、東西南北の4か所に門があり、一行は北門に向かっていた。

 例のごとくホセが先触れに走り、一行の通過には何の問題も起こらず、第二城壁となる都市の最外壁を通過すると、一面に広がる麦畑には風が渡り、まるで緑の海の様だった。

 馬車は日本と同じく、左側通行で約15分ほど麦畑の中の道を進むと、やっと家々や商店が道に沿って立ち並ぶエリアに到着した。

 更に中心から放射状に延びる道と同心円状に交差する道が幾重にも重なる様に街が構成されている為、交差点が増え、馬車の速度も更に遅くなり、速足で歩く程度まで落ちていた。

「領都では、基本、城塞から放射状に延びる道が主要道路となるのでこちらの通行が優先となっておりますが、かと言って速度が速すぎると、いざと云う時直ぐに止まれませんので、平時はこの速度まで落とさないといけないのです」

 シルビア嬢が説明してくれる。

「最も、馬車の絶対数も少ないですし、同心円状の道の方は変則ロータリーになっていて、まっすぐ交差点に進入は出来ないので、馬車同士の事故はほとんど起きません」

 よく見ると、同心円状の道との交差点は、上の部分が半円のY字状になっており、こちらの主要道路に進入する為には、ぐるっと時計回りに迂回してからでなければ入れない様になっている。

 これならば多分、高速で突っ込んでくることは、ほぼ出来ない。

 よく考えられている。

 そして、主要道路を走行する方もこの速度まで落としていれば、こちらに入りたがっている馬車を発見した場合にも、すぐに止まって道を譲る事も出来る。

 譲り合いは大事である。

「なるほど、凄い合理的に出来てますね」

「タカーシ様の国では違うのですか?」

「そうですね、自分の国では、交差点に信号機と云う電気仕掛けのランプ点滅装置を設置して、それを管制システムで連動させ、進めや、止まれを、運転者に指示しています」

 その他、交通管制システムや、ナビゲーションシステムについて、説明しようと思ったが、何も知らない人に、判りやすく説明できるほどの知識がない事に気付いた隆だった。

 何より、交通量の違いがあり過ぎて、こちらの世界の事情に全く合致しない為、想像することも難しい話になってしまうので説明は諦めた。

 そんなこんなで第一城壁に辿り着いた一行は、こちらも問題なく通過して城下町に入った。




「それでは、我々はここまでの同行となります」

「これから、ギルドに依頼達成の報告と、魔石の換金に向かいます」

「マリアは……、すみません、そのまま同行させてあげて下さい」

 マルコは馬を降りるとっこちらにやって来ていった。

「はい、護衛任務、お疲れ様でした、Bランククランの名に恥じぬ素晴らしい護衛でした」

「ギルドへは、こちらからも追加報酬の報告を差し上げますので、明日、再度お尋ねになってくださいませ」

「マリア様に関しては、こちらで責任をもってお預かり致します、ご安心ください」

「皆様、ありがとうございました」

「それから、……あの件はどうか、ご内密に」

 シルビア嬢は、追加報酬の件を書き加えながら、依頼達成報告書にサインを入れ、最後だけ小声でそう言った。

 書類を受け取り、頷いたマルコは、今度は隆に向かい頭を下げた。

「タカーシ様、ゴブリン襲撃の件、ダヴィの治療やホセの救出、それと美味しいお食事の件と、色々とありがとうございました」

 後ろに並んでいた鷹の爪の面々(マリアを除く)も一斉に頭を下げた。

「とんでもない、自分はたまたま、その時に出来ることをしただけです」

「こちらこそ、見ず知らずの自分に暖かな対応をありがとうございました」

「そうだ、これ、後で皆さんで飲んでください」

「麦から作った、ちょっとだけ強めの蒸留酒です、30年熟成ものですよ」

 そう言って、隆がローブの懐から取り出したのは、綺麗なカッティングが施されたなガラス瓶に入った、隆が一度だけ味見させてもらい、その味に感動した、日本の某有名洋酒メーカー製の高級ウィスキー5本だった。  

 ラベルには漢字が、一文字でかでかと書いてあるが、こちらの人間には模様にしか見えないだろう。

 そんなことより、また魔法で出したのだろう事は、マルコ達にはまるわかりだった。

 そして、誤魔化す為に懐から取り出したのは判るが、どう考えても懐に仕舞う物でも、懐から出てくる大きや数でもなかった。

「あ、あ、あぁぁ~! はい、あ、ありがとうございます! あはははは」

「それと、自分たちはここから2ブロック東に行ったところにある『フクロウの止まり木亭』を定宿にしていますので、何かあったら何時でも来て下さい!」

 マルコ達は周りの兵たちに見えない様に慌てて誤魔化しながら、ウイスキーを受け取るのだった。

 隆には、マルコ達の仕事振り、特に領都に帰り着くまで一滴のアルコールも摂取しないプロ意識に感動したため、仕事が終わったら上げようと、ずっと思っていたのだが、マルコ達にとっては、至極当たり前の事だったので、ここに来ての酒のプレゼントは嬉しいと思うと共に、戸惑う事でもあった。

 最後まで、気の抜けない事をする隆だったが、みんな嬉しそうに手を振りながら去っていった。




 鷹の爪の面々と別れたシルビア嬢と隆たちは再び馬車に乗り、今度は10騎近い衛兵に護衛されながら城下町の目抜き通りを進む事になったのだが、逆に進むスピードは速くなった。

 衛兵は前後に2騎ずつ付くと、残りの6騎は先行してわき道からの侵入を順番に規制しながら進むため、道も良く整備されている事も併せて、城壁外で進む以上のスピードで進む事が可能だった。

 外縁でもそうすればいいのにと思うが、防御の最大の要ともなる、長大な第二城壁の警備兵を一時的とは言え10騎も引き抜くと、警備に支障が出る為、よほどのことがない限り衛兵による護衛は付けられない。

 同じ理由で、また、経済効果も考えた上で、公式行事以外の街から街への移動時も衛兵でなく、冒険者を雇うのが常であった。

 買い物や、そぞろ歩きを楽しむ人々で賑わう城下町を走り抜けると、目の前には空堀に囲まれた白い雄大な城塞が見えてきた。

 堀には頑丈な跳ね橋が掛けられていて、一行はそのまま城の中に入って行ったのだった。




 城に着くと早速、シルビア嬢は既に呼んでいた薬師に、昨日隆に貰ったネクターの木の実、食べ掛けの木の実、そして今朝、隆が魔法で作った木の実を渡し、それぞれ、どれか判る様にエリクサーに仕上げる様にと依頼した。

 それぞれの薬効のサンプルも取るように指示していたのは流石だった。

「それではタカーシ様、どうぞ、こちらにご同行ください」

 そう言うシルビア嬢に付いてゆくと、一枚の重厚な扉の前まで連れてこられた。

「シルビアです、ただ今戻りました」

 ノックをしてそう告げるシルビア嬢に応えて部屋の中から落ち着いた、しかし少々やつれている男性の声が聞こえた。

「入りなさい……」

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