第16話
ホセが湯を沸かし、色々な野菜や、干し肉を入れてスープを作っている間に、隆は10人が座れる大きなテーブルと、椅子を魔法で作った。
ついでなので、テーブルクロスも敷いて、立派な感じに演出も忘れずに。
ホセのスープが出来上がったころを見計らって、例のシャトーブリアンステーキ300グラムを全員に出した。
今回は肉だけでなく付け合わせにブロッコリー、カリフラワー、皮付きポテトフライに、ニンジンのグラッセもつけてみた。
遠慮するセバスティアン氏とエレナさんも、シルビア嬢と一緒に説得して同席していたので、突然現れたステーキにちょっとびっくりしていたが、おっかなびっくり手を付けると、二人とも目を見開き、次の瞬間には、無作法にならないギリギリのスピードで、ナイフとフォークを動かしていた。
「お代わりが欲しい人は言ってくださいね、すぐ出しますので」
「タカーシ様、お願いできますか?」
言った途端、マルコ達鷹の爪の面々(マリアを除く)がおずおずと手を上げて
みんな、付け合わせも平らげていたので、それも併せて出してあげたのだが、2回目のそれもすべて平らげてまだ余裕そうだった。
ステーキ300グラムというと、結構な大きさだと思うのだが、それを2つもなど胃が凭れそうな量だがケロッとしていた。
冒険者というものはみんなこんな
食事を終えるとホセがまたお茶を用意してくれたのでのんびりと飲んでいるとマリアが袖を引いてきた。
「どうしました?」
「……タカーシ、……アイス、……欲しい」
遠慮がちに上目遣いで
「はいはい、今度は違う味はどうですか?」
「……試す」
「皆さんも甘い物は大丈夫ですか?」
訳が判らない男性陣は、疑問に思いながらもうなずいた。
女性陣は期待に目が爛々と輝いている。
「本当は甘い物を一度に沢山食べるのは良くないのですが、まぁ1日位大丈夫でしょう。」
言いながら、女性陣にはイチゴのアイスクリームを、男性陣にはチョコレートのアイスを用意してみた。
「先ほどの物と違いピンク色なのですね? ベースはミルク、でもこの香りは……イチゴですか?」
「……イチゴ、……美味、……甘い、……冷たい」
「ん、むふぅ~、幸せです~」
シルビア嬢は冷静に分析している様だが、物凄い幸せそうな顔だ。
マリアは喜んでる…様子だ、美味と言ってるし大丈夫だろう。
エレナさんはよほど甘い物が好きなのだろう、完全にとろけ切った状態だ。
男性陣は最初、茶色っぽい中身に眉をひそめていたが、甘いものという言葉を信じて口にしてみると、ほんのり甘いミルクベースのアイスクリームにカカオの苦みが程よく馴染み、却って甘味が引き立っている。
何より、冷たい。
こんな食べ物は見た事も聞いたことも無かった。
「これは、苦味が甘味を引き立てているのですね、更に酸味もある様に感じますね、そのお陰ですか? 芳ばしい香りが鼻に抜けた時の後味がとても爽やかだ」
「苦いのが気にならない、むしろそれが良いですね、芳ばしい不思議な味だ」
セバスティアン氏もマルコも気に入っている様子、他の4人は相変わらずあっという間にペロッと平らげてしまい物欲しげにしている。
「もう一つ食べますか?」
隆が聞くと物凄い速さで全員頷いている。
「チョコとイチゴ、どちらにします? バニラというのもあるんですが…」
「「「「「「全部下さい!!」」」」」」
欲望に正直な者達だった。
「……タカーシ、……味見、……したい」
「まぁ、マリア様、ずるいですわ」
「タカーシ様、わたくしも味見をさせて頂きたいです」
「…………」
マリアが隆の食べかけチョコアイスを指さして言うとシルビア嬢も味見したいと言ってきた。
エレナさんは目を爛々と輝やかせて頷いている。
マリアには隆の食べ掛けで半分ほど残ったカップを上げるとして、シルビア嬢に食べ掛けを試してもらう訳にはいかないので、新たにチョコアイスを1個出して手渡した。
「甘い物を大量に食するのは、本当に体に良くないらしいですので、これはエレナさんと分けてお食べ下さいね?」
「判りました、エレナ、半分ずつですよ?」
「承知いたしました、お嬢様、お先にお召し上がりください」
エレナさんは残念そうだが、我慢してもらおう。
「マリアは、自分の食べ掛けでも良いですか?」
「……ん」
マリアは隆の食べ掛けでも嬉しい様子だった。
ここで『あ~ん』とかの恥ずかしい儀式が展開されるのかと身構えた隆だったが、どうやらここにはそう云った習慣は無いのか、マリアが知らないだけか、イベントは起きなかった。
そんなやり取りをしている間に男性陣は既に先ほど出したイチゴとバニラとチョコのアイスを全員3つとも平らげた後だった。
まぁ、彼らの場合神経をすり減らす警戒作業や操車をまだ続けなければならないので馬車の中に座っているだけの隆たちとは違って問題ないだろう。
昼食を終えた一行は残りの行程を消化すべく領都に向け出発した。
此処からは道も良く、ある程度の速度は出せるので急げば1時間少しで領都に付く事が可能だった。
ここにきて、初めてシルビア嬢は、何故エリクサーが必要であったのかを隆に打ち明けた。
「実は、2日ほど前、我が家の食事に毒が盛られました」
「我が家では毒無効の効果のある指輪を一つしか持っておらず、その時はたまたま私が身に着けていたのです」
「幸い、直ぐに気付いた父が止めた為、摂取量は微量で済んだのですが、父も母もそして妹も体調を崩すには十分な量を摂ってしまい、臥せって居ります」
「解毒も間に合っているので、命に別状はないのですが、このまま自然に治癒するのを待つと1か月は苦しむことになってしまいます」
「特に、妹はまだ15になったばかりなので、病床に臥せっている姿がかわいそうで、早々に直してあげるには、エリクサーが必要だったのです」
「なるほど、そんな事情があったのですか……、それで例の指輪があと3個欲しかったのですね」
「そうなのです、タカーシ様には感謝してもしきれません」
「因みに、犯人は既に捕まって、その背後関係も掌握済みですので、ご安心ください」
シルビア嬢の説明によるとどうやら、従兄弟にあたる人物との家督相続に関する内輪もめの様だが、命まで狙ってくるのはちょっとやりすぎな気がするのは隆が現代日本人だからだろうか?。
とにかく、シルビア嬢としては許せない事であるとしても、最悪の事態には至らず、不幸中の幸いと思っている様だ。
「タカーシ様の持っていらっしゃるネクターの木の実は、新鮮だからでしょうか……? ダヴィ様に使用された時には、ほとんどエリクサー並みの効果を発揮していた様ですが、今後のことも考えると、保存の利くエリクサーにしてしまうのが一番だと思っています」
「しかし、エリクサーを作るのにも時間が掛るのですよね?」
「そうですね、薬師に渡して早くても3日は掛るかと……」
「でしたら、到着次第、自分の保管してるネクターの木の実をすぐに使いましょう」
「もぎたての状態で保管されていますので、きっと薬効は高いはずです」
「あ、昨日差し上げた木の実はそのまま、薬師に回して、いざと云う時の為に、エリクサーに加工しておくと良いでしょうね」
「え? でも貴重な木の実をそんなに提供して頂いて宜しいのでしょうか?」
「全く問題ありません、実は大量に保管しているのです、いくつでも、どうぞお気になさらずにお役立てください」
「ありがとうございます」
シルビア嬢はちょっと涙ぐみながらお礼を言ってきたが、隆としては、たまたま見つけた、大量に持っている美味しい木の実でしかないので、逆に恐縮してしまう思いだった。
そうこうしているうちに、ついに領都フォルタレッサが道の先に見える所まで一行は到着したのだった。
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