第15話

 一度目の休憩を終え、一同は何事も無かったかのように領都に向けて出発した。

 シフトは入れ替えて前衛にマルコとハイメ、後衛にダヴィとミゲルだ。

 斥候は変わらずホセに任せている。

 ここから先は川に沿って3時間ほど南下すると領都に到着する。

 川沿いなので、休憩しようと思えばどこでも出来るが、一時間半ほど進んだところで一回お昼の休憩を入れて、その後は基本休憩なしで領都へ向かう事になった。

 相変わらず、隆のおかげで弱い魔物は姿を見せず快適な旅路が続くことになった護衛一行(マリアを除く)だった。

 



 馬車の中では相変わらず隆の腕にマリアがくっつき、対面にシルビア嬢とエレナさん主従が座っていた。

 話題は魔法について、隆が使える魔法は、何でも作成魔法(笑)と収納魔術だけなのでこの世界の魔法に興味があったのだ。

 ここは当然マリアさんの独擅場どくせんじょう! ……とはならなかった。

 マリアさん、残念な位、説明が下手だった。

「……魔素、……集中、……ってする」

「……って、……なる」

「……ん」

 隆は思った、(って、なんの擬音だろう?、は力を籠めるとかか? そして、最後のはなんだ?)

 たしか、ファイアーアローの説明だったはず。

「む、難しそうですね?」

 得意げに胸を張るマリアを見ると、そう答えるしかなかった隆だった。

「タカーシ様、最初は生活魔法から覚えたらいかがでしょうか?」

 見かねたシルビア嬢が助け舟を出してくれた。

「生活魔法ですか? もしかして火を熾したり、水を出したり出来るあれですか?」

「はい、普通は皆さんそこから始めますので」

「なるほど、道理ですね、では早速……」

 隆は人差し指を立て、火の灯ったロウソクをイメージしながら魔素を指先から放出する様に流してみた。

 すると、ポッと音がしそうな感じでロウソクの炎の様な暖かなオレンジ色の炎が現れた。

「おぉ~! 意外に簡単に出ました~」

「まぁ、さすがですね、普通ならイメージ通りの現象を魔力で再現する為のコツを掴むまでが難しいのですが」

「……ん、……もぃ、……なってる」

 これが、だったんだ……

 ふと思いついた隆は、イメージをロウソクからガスバーナーに変えてみた、すると炎はオレンジ色から徐々に青白く変わり勢いも増して指を横にすると炎も横向きに噴射していた。

「この方が点火はしやすそうですね、と、どうされました?」

 隆が出した青白い炎の噴射を驚愕に目を見開きながら見つめる3人がそこにいた。

「……タカーシ様それはどうやったんですか?」

「え? ただ、イメージをロウソクからガスバーナーに変えただけですが?」

? ですか、どのような物でしょう?」

「えーと、火が燃えるのには空気が必要ですよね? なので燃えるガスと一緒に空気を混ぜて噴射させそこに点火するとこのような高温の火になるのですが……、それをイメージしてみました」

 それを聞いたシルビア嬢達は3人とも一斉に指先に火を灯し、そこに空気を送り込むイメージで魔力を込めだした。

 最初に出来たのはマリアだった。

「……出来た、……青い炎」

 続けてシルビア嬢もエレナさんも成功した。

「出来ました!」

「私もです!!」

 なぜか、エレナさんも大喜びで火を横にしたり、斜めにしたり、縦にしたりしていた、その度に胸がほわんほわんとなっていた、危険だった。

「魔法はイメージが大切と思ってはいましたが、発想も大切だったんですね、こんな単純な事に、今まで気づかなかったなんて、まさに目から鱗です」

 感心しきりなシルビア嬢だった。

 エレナさんは火を真下に向けてしまい、上がって来る熱気で指を火傷しそうになっていた。

 エレナさん、普段ほとんどしゃべらないのに、こんな性格だったか?? 火を見ると興奮しちゃうタイプとか??。

 はしゃいでいるエレナさんは非常に危険だった、おっぱい的な意味でも……。

とにかく、はいろんな意味で危険なので次に移ろうと決心した隆だった。




「では、次は水ですか……」

「んんん? 水……」

 そう言えば、馬車内でみんなで火を出していたのだから気温も上昇している、喉も乾いてしまったなぁ~、コーラとか飲みたいなぁ~、と思ってしまったので、隆が出したのは、水でなくキンキンに冷えたペットボトルのコーラだった。

「タカーシ様、水魔法は指先や手のひらからコップなり鍋なりに水を灌ぐ魔法ですよ……、今出されたそれは、何ですか?」

「……えっと、ペットボトル入りの清涼飲料水です……」

「とても、飲み物とは思えない色の水ですね……」

「慣れると、とても美味しいのですが……、まぁ、確かに云われてみれば、見た目は清涼とは言い難いですね……」

 言いながらペットボトルの栓を捻った。

 プシュッといい音と共にシュワシュワした泡が出てきた。

「これは、もしかすると鉱泉水ですか?」

「ご存知でしたか? 天然物ではありませんが、似た感じのものですよ」

「昔、健康に良いと言う事でちょっと頂いた事が有ります、薄い塩味の付いた酸っぱい水で、あまり好みではありませんでした」

 味を思い出したのかシルビア嬢は眉間に皴を寄せていた。

「これは大丈夫ですよ、甘みと酸味が程よい感じだと思います」

「でも、大量の砂糖が入っているので、健康に良いとは言い難いですが……」

「!! お砂糖ですか!! ぜひ試してみたいです!!」

「お嬢様、ここは私が毒見を……」

「エレナ、毒見なんて、タカーシ様に失礼ですよ」

「!! 失礼いたしました、タカーシ様、甘い飲み物なんて珍しくてつい……」

 顔を赤くして恐縮するエレナさんが可愛かった、おっぱい的にも。

 つい見入ってしまうと、マリアの腕に力が入った。

「……浮気、……ダメ」

「し、しません、ほんとです!」

 言いながら誤魔化す様にコーラを3本出してみんなに配った。

 どう考えても、なし崩し的にだが、もう完全にマリアの物になっている隆だった。

 隆もまた、こんなに可愛いマリアに懐かれて満更でもなかった。

「冷たいうちにどうぞー、あ、一気に飲むとげっぷが出てしまいますので少しずつ飲むのがお勧めです」

 炭酸水に関しては、好き嫌いが別れる処だが、この三人に関しては問題はなかった様だ。

「……甘い、……ぱちぱちする」

「色がちょっと気になりますが美味しいですね」

「甘いですぅ~、美味しいですぅ~」

 マリアは炭酸の刺激が気に入った様子、シルビア嬢はやはり色が気になるみたいだった。

 エレナさんは甘味に目が無いご様子だった。

 そこで、隆はコーラに合う甘味として、カップ入りバニラアイスクリームとスプーンを出してみんなに配った。

「甘いコーラにさらに甘い冷たいお菓子なんですが、割と合うと思うのです、試してみて下さい」

 この組み合わせはダメになるヤツだった。

「…………」

 マリアはもう喋らなくなって、アイスクリームとコーラを交互に口に含んでご満悦だった。

「こ、これは、ミルクですよね? ん? でも、この甘い風味はなにかしら……」

 シルビア嬢もさすがにアイスクリームにはやられたご様子でしきりに何かぶつぶつと呟いていた。

「甘い物に、甘い物の組み合わせなんて~、究極の組み合わせがあるんですね~、初めての経験です~」

 エレナさんはとろけていた、あの凛とした佇まいの武道家然としたエレナさんはもうそこには居なかった。




 そんなこんなでちょっとしたティーブレイク?? に突入してしまったが為、水魔法の実践は次の休憩場所まで試してみることは出来なかったのだった。

 しかし、馬車を降りた隆は結局、ホセが用意していた鍋に水を満たすというお仕事を、あっさりと一発で成功させたのだった。

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