第14話

 さて、女扱いされて切れてしまったが為、犯罪者集団を全員捕獲した隆だったが、話は1時間ほど前に遡る。




 マリアに完全に左腕を拘束されている状態で、昨日と同じく進行方向に背を向ける形で馬車に乗った隆だったが、正面に座る物問いたげな視線を送ってくるシルビア嬢に対して、馬車が走り出すとすぐに説明を始めることにした。

「えーと、自分の食べ物を出す魔法ですが、最初は魔方陣の様な物が出ていたのに、慣れたら先ほどの食事の時の様に魔法陣無しで、すぐに出ましたよね?」

「あの時、何て云うか、ピーンとくる、閃きみたいな物があって、あ、これ出せるって判ったんです」

「で、部屋に戻って試してみたのですが……」

 言いながら収納から今自分が着ている、貰った白いシャツと黒いズボンと寸分違わない服を取り出して見せた。

「ちょっと時間は掛りましたが、こんな感じで、同じ服が作れちゃったのです」

「見せて頂いても?」

「勿論です、どうぞ」

 隆が服を差し出すとシルビア嬢は手触りなどを確かめた後、鑑定の魔法を使った。

「はい、差し上げた服と同じ材質の、同じ型のものですね」

返された服を再び収納に仕舞いながら隆は続けた。

「その様ですね、それで、思ったんです」

「見た事が有る物と全く同じものは簡単にできるけど、色違いとか、型違いはどうかな? って」

「それで、マリアに好きな色を聞いて、試しにやってみたら、思った以上に簡単に作れてしまったのです」

「つまり、何でも作れば作るほど簡単になって行くということですか?」

「はい、どうもその様です」

 そう言いながらシルビア嬢の着ているグリーンのドレスをちょっとアレンジした淡いヴァイオレットのドレスを作って手渡した。

 魔方陣の様な文様は全く現れなかった。

「この輝くような光沢と滑らかな手触りは……、アラクネではないですね、鑑定でも判りません」

「あ、すみません、ドレスと言えばシルクとつい思ってしまって、えっともしくはシルク、という素材です」

「もしかして、タカーシ様の世界の素材ですか?」

「はい、虫の繭から糸を取り、織った布です」

「アラクネに似てはいますが、繭からですか、素晴らしいですね」

「色合いも上品で……」

 隆は名残惜しそうにドレスを返そうとするシルビア嬢に言った。

「どうぞ、お納め下さい」

「まぁ!、よろしいのですか?」

「ええ、そのつもりで、今お召のドレスと同サイズになる様に作りましたので」

「えっ!? ……タカーシ様、それは、わたくしの身体のサイズが判ると言う事ですか?」

「!!!! い、いえいえいえいえいえいえ!!! ち、違います!!!」

「数値とかで無く、見たままの寸法をそのままコピーする感じで、サイズなどは一切判りません!! ほ、本当です!!」

 隆は焦った。

 シルビア嬢の表情は柔らかく微笑んでいたのだが、目がマジだった。

「…………うふっ、信じましょう」

 じっと、隆の目を見つめていた目線から恐ろしいほどの殺気が消え、今度こそにっこり笑ったシルビア嬢だったが、目で人が殺せると言う言葉の意味をほんの一瞬で嫌というほど味わった隆であった。




 その後、隆の魔法で何が出せるのかの実験を繰り返してみたが、隆が知っている物に関してはほぼ何でも、例え正確な構造を知っている訳ではないものも、その機能なども詳しくは把握していなくとも作成が可能だった。

 例えば、スマホなどの電子機器や、時計などの精密機械など。

 他に、金貨やその他の貨幣、更には隆が知らないものでも、一度見せてもらえればその機能も含めてコピー可能であることも判った。

 そこでシルビア嬢に頼まれて彼女が身に着けていたマジックアイテムである毒無効の指輪を3個ほど欲しいと言われたので、作って渡した。

「これは、素晴らしいと同時に、非常に取り扱いの難しい魔法ですね」

「そうですね……」

隆にも意味は分かったが、マリアはそうでなかった。

「……なぜ? ……精霊たち、……喜んでる」

「う~ん、そうですね……」

「例えばマリアが、世界に一つしかない貴重な魔法のリングを持っていたとしますね?」

「……ん」

「それと全く同じ指輪がもう一つ出てきてしまうと、価値が下がってしまうでしょう? そうなると困るじゃないですか?」

「……困らない、……タカーシに、……あげる」

「あー、ありがとうございます」

「で、なくて、う~ん、どう説明したらいいんだろう」

 シルビア嬢が新たな例を挙げてくれた。

「それでは、今街で売られている串焼き肉が300ゼックだとしましょう」

「もし、タカーシ様が金貨を大量に作って、それが市場に出回ってしまうと、串焼き肉の値段が倍の600ゼックになってしまうかもしれません」

「……それは、……困る」

「……タカーシ、……自重、……して」

 マリアさんご立腹りっぷくである。

「大丈夫ですよ、そんなことは絶対にしません」

 まぁ、逆に串焼き肉の肉を大量に卸せば、150ゼックになるだろうが、それは秘密だった。

「とにかく、今まで無かった物が急に増えると、経済に混乱が起こるんですよ」

「……そう」

 串焼き肉が高くなりさえしなければ、あとはどうでもよさそうなマリアだった。




 そんなこんなして、色々な物を作成、収納したり、取り出したりを繰り返すうちに、収納魔術の熟練度も上がった様で、物を出し入れするのに掛る時間や魔力が格段に少なくなって来ていた。

 結構、集中する必要があった離れた場所の物を収納する事も、息をするがごとき気安さで出来るまでに上達してしまった。




 そんな折、そろそろ休憩かな?と思っているところに、馬車が止まり辺りが騒がしくなったので隆は皆に声を掛けて外の様子を見に出るのだった。

「休憩場所についたかな? 一寸、様子を見てきますね」

 馬車のドアから身を乗り出した隆は尋ねた。

「どうかしましたか? もう休憩ですよね?」




そうしてその後は、前話で語られたディアボロ傭兵団最後の日のお話へと繋がるのだった。



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 一寸短いけど馬車の中でのお話ですのにゃ。

 此処で挿入するべきか迷ったのですが、隆君の収納魔術が炸裂する下地がここで作られていたなどの説明とか、抜けてるところがあったので入れてみました。


 それと、星とレビューありがとうございます。

 頂けると嬉しいものですねw

 つたないお話ですが、第1話のフラグ回収までは最低でも続けますので、乞うご期待なのですにゃw(ΦωΦ)ノ

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