第13話

 隆の顔を見た3人はいやらしく口角を上げて、口々に言った。

「おぉ~、上玉だ、この女は俺が貰うぜ!」

「お頭、ずるいですぜ! 俺達にも味見をさせて下さいよ?」

「お頭っ! お、俺も俺も! 約束ですぜっ!?」

「…………」

 隆は無言で辺りを見渡した。

 目の前の3人の他、休憩場所には20人近い男と縛られたホセ。

 50mほど後方からは、同じく20人近い集団が隠れている所から道を塞ぐように出てきた。

「えっと、これって強盗ですか?」

「んぁ? 違う違う、俺たちゃ傭兵団だ」

「なんて言ったか? あー、ほら、徴用ちょうようってやつだ、お嬢ちゃん」

「お嬢ちゃんには、俺たちの世話をしてもらう、主にしものなぁ~」

 そう言うとげらげら笑う3人。

 女扱いをし始めてから、隆の雰囲気が変わった事に全く気付いていなかった。




 隆の雰囲気が剣呑けんのんなものに変わった瞬間マルコは思った。

 (これは、こいつら終わったな……)

 他のみんなも思った、

 (こいつら絶対ただじゃ済まない……)

 それほど隆から溢れる怒気のオーラは凄かった。

 そう、隆はブチ切れていた。

 なんでこいつら気付かないんだろう? と思い始めたとき、やっと気付いた様でお頭と呼ばれた男が言った。

「おぃおぃ、お嬢ちゃん、抵抗はすんなよぉ、お仲間の首が飛んじゃうぞぉ?」

「へぇー? お仲間って、彼のことですか?」

 隆が指さしたのは御者台。

 そこにはセバスティアン氏とぐるぐる巻きにされたホセが座っていた。

「あ? なんでここに?」

 誰にも何故かは判らなかった。

 まずい! と思ったお頭と呼ばれた男は、手を上げて仲間に攻撃準備の指示を出したが、ちょっと遅かった様だ。

動くなっ! 矢の雨が降る事になるぞっ!」

「へぇー? 何処から降るのかな?」

「どこって……」

 後ろを振り向いた男達が見たものは、休憩場所にたむろする馬と、辺りに散らばった弓や剣などの武器類と、何故か仲間たちが着ていたはずの服が脱ぎ散らかされていた。

 馬車の後方を見るとそこにも後詰めの兵の姿はなく、同じような惨状だった。

「おい、小娘! 俺の仲間達をどうした!」

「え~? そんな人達っていましたぁ~? 貴方一人だけだったでしょう?」

 隆がそう言うと、男の後ろからどさどさっ! と音がした。

 振り返ると一緒にいたはずの二人の副官が馬と服と武器を残して消えていた。

「!?!? え? 何故? んぁ? 俺一人だったか?」

 混乱していた、が当然と云えよう、何しろほんの数秒の間に40名以上の仲間が文字通り消えたのだ。

「そうそう、貴方は一人です、それと訂正しますが……」

 隆を見つめ、脂汗を流しながらガタガタと震える男の目には恐怖しかなかった。

「自分は、男だっ!!」

 そう隆が叫ぶと同時に、お頭の男も服を残して姿を消した。

 鷹の爪の面々とついでに、セバスティアン氏はぷるぷる震えながら思った。

 (絶対に、絶対にタカーシ様を女扱いだけはするまい!!)と。

 そう、鷹の爪の面々は最初、隆を女だと思ってはいたが、女扱いだけはしていなかったのだ。




 ぐるぐる巻きのホセが縄を解かれ、猿轡さるぐつわを外された頃、やっと隆の怒りも収まった。

「あぁ、すみません、切れてしまいました」

「ホセさん、お怪我とかはありませんか?」

「!! だ、大丈夫ですっ!! ピンピンしてますよっ!! ははははは」

「そうですか、それは良かった」

 またぞろ、ネクターの木の実とか出されたらたまらないと思ったホセは、健在ぶりをアピールした。

 そして、申し訳なさそうにマルコに向かって言った。

「リーダー面目ない、奴ら最初3人だけだったので油断しました」

「まぁ、あの人数だったからな、仕方がないだろう」

 マルコもホセの失態を責めずに、ひきつった笑顔で言っていた。

「休憩ですよね……これ、どうしましょう?」

 これとは、30頭近い馬と、数台の馬車、大量の武器、食料その他大量の傭兵団の財産だった。

「……これもそうなんですが、あの、タカーシ様、盗賊どもはどうなったのでしょうか?」

 マルコはあからさまに傭兵団を盗賊扱いだった、そして、隆は何でも無い事の様に答えた。

「あぁ、全員収納しました」

 そう、収納魔術だった。

 隆の収納魔術には生物はダメとかの制限が一切なく。

ネクターの木の実を捥いだ時の様に、目視出来る範囲なら触れていなくても収納できるというぶっ壊れ性能なのだった。

 しかも、収納された時点で時間も止まる為、亜空間倉庫内が生存可能環境では無いにも関わらず、死んでしまう事も無いのだった。

「ホセさんを回収したのも、収納魔術を使いました~あはははは」

 ホセは、自分が一度、亜空間に収納されたと知って息をのんだが、よく考えてみると、特に何も感じなかったのを思い出し、ほっと息をついた。

 その場にいた全員が思った。

『収納魔術ってそう云う物だったっけ???』

 と、言っても収納魔術を自在に使いこなしたと云われているのは、500年前の英雄だけだし、マリアは隆の魔法そのものを全肯定しているので、おかしいのかどうかなど、誰にも判断が付かなかったのだった。




 とりあえず、ホセにお茶の支度をしてもらっている間に、馬30頭と多数の武器類、そして金目の物や、食料を収納した隆は、残りの汚い衣装などを纏めて馬車と一緒に燃やしてしまった。

「また、危ないところをお救い頂いてしまいましたね」

 ホセの用意したお茶を飲みながらシルビア嬢は申し訳なさそうに言ったが、その眼差まなざしには確かな信頼と熱が籠っていた。

「……タカーシは、……あげない」

「まぁ、マリア様ちょっと位なら、分けて頂いても……いけないのでしょうか?」

「……ちょっと、……だけなら」

 マリアは、相変わらず隆の腕を抱える様に身体を寄せながら言ったが、多少の妥協はするつもりの様だった。

(マリアさん、ちょっとなら良いんだ……)

 隆はそう思ったが口には出さないだけの分別は持っていた。

 シルビア嬢ははにかみながらマリアに応え、続けて隆に尋ねた。

「マリア様、ありがとうございます」

「それで、タカーシ様、その頭目らしい男と、話すことは出来ますか?」

「あー、簡単に好きな所に呼び出す事も出来るんですが、さっき怒りのあまり服を脱がしてしまったので、今呼び出すと全裸で出てきます……」

「服も、燃やしてしまったので……」

「そうでしたね、強盗行為をしようとしていたのですから有罪は確定ですが、事前に何処の誰かだけでも分かればと思ったのですが……」

「あ、それでしたら判りますよ? 収納すると名前が判るんです」

「えっと、『ディアボロ傭兵団のピサロ』ですね」

 それを聞いたセバスティアン氏が即答した。

「その名前は聞いたことがあります」

「かねてより賞金の掛っている、お尋ね者たちの集団と、その頭目で間違いないですね」

「タカーシ様のお手柄ですね、これでこの辺りも少しは安心して旅することが出来るようになるでしょう」

「あ、その件なんですが、手柄は『鷹の爪』の物にする事は出来ませんか?」

「出来れば目立ちたくはないので」

「タカーシ様、我々はマリアも入れて6人です」

「戦闘のプロでもある40人以上の傭兵団を、我々だけで、しかも無傷で捕縛したと云うのは、ちょっと無理があると思います」

 マルコが答えた。

「例えば、500人規模の領軍が遠征先でたまたま見つけて、包囲して捕らえた位でないと信憑性しんぴょうせいが無い話になってしまいますね」

「そうですね、その方向で話を纏めましょう」

 シルビア嬢が同意してくれた。

「無理を言ってすみません」

「いいえ、わたくしもその方が良いと思いますので、問題ありません」

 隆の謝罪と感謝に、シルビア嬢はにこやかに答えた。

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