第11話
「……ぬぅん? 朝か……」
いつの間にか開け放たれた遮光カーテンの下に揺れる、レースのカーテン越しに、窓から差し込む柔らかい朝日と、小鳥の
これぞ、正しく朝チュンだった。
「ふっ、昨日のあれは、夢だった様だな……」
夢ではなかった。
隆も呆然としていたとはいえ、気を失っていた訳ではないので、克明にすべてを覚えていた。
隆の暴れん棒が暴発した事も含め、風呂であったあれこれを思い出し、赤面して顔に手を持ってこようとしたところで、左腕が動かないことに気付いた。
「ん? なんだ? 柔らか……」
「……んっふっ」
なんだか色っぽい声を上げているマリアだった。
「お約束だな……」
よく見ると隆の左手は、隆の左肩を枕にして脇の下に挟まる形で寝ているマリアのお尻を
「てか、ち、近い……」
肩に頭を乗せているのだからもう、ちょっと口を寄せればキスできる距離にマリアのふっくらとした柔らかそうなピンク色の唇もあった。
更にパジャマ越しとは言え、暴力的ともいえるマリアのお胸様は隆の左胸を挟む形で押し付けられてふにゃふりんと変形していた。
このままでは朝からまた隆の暴れん棒が暴発してしまう、と危惧した隆が声を掛けながら、自由な右手でマリアの肩をゆするとマリアはゆっくりと目を開けた。
「マリアさ……、マリア、マリア、朝ですよ」
「……おはよう、……お楽しみ?」
「いえ、左手がしびれて動かないだけです」
「……そう」
「…………」
マリアは、それだけ言うとお尻を掴んでる隆を責める事も無く、しかし、隆にくっ付いたまま、じっと隆の目を見つめるだけで離れようとはしなかった。
朝日が反射しているマリアの金色の瞳には複雑な色が浮かびは消えて、物凄く美しかった。
「いえ、そうじゃなくって、もう起きませんか?」
「……目覚めの、……キスは?」
「そういう習慣は有りません」
「……じゃ、……わたしが、……する」
「え? ちょっ!」
隆はマリアにキスされてしまった。
しかも、舌まで絡めてくる、物凄くディープなやつだった。
隆の上に圧し掛かるような体勢で覆いかぶさっているのでマリアさんのお胸様も自由奔放に大変な大暴れをされていた。
しかもしかも、物凄く長い、隆はこれ息継ぎはどうすんの? 息が出来ないんだけど? と、思い始めた頃やっとマリアは離れてくれた。
てか、鼻で息すればいい事に思い至らない隆だった。
何故なら、これが隆のファーストキスだったのだ。
「……次は、……タカーシから、……して?」
「えぇー、ハードル高いなぁ……」
ファーストキスを済ませた隆は、一回り大きく成長…はしていなかったが、とりあえず朝食はどうするのか考えていると、ノックと伴に、昨日のメイドさんが入ってきた。
「おはようございます、よくお休み頂けましたか?」
「おはようございます、はい、何も思い出せない位ぐっすりと…」
クスッと小さく笑ってメイドさんが持っていた服を差し出した。
「こちらがお召替えの服になります、それから、昨日洗濯させて頂いた服がこちらです」
そう言いながら、マリアと隆の服をそれぞれ差し出してきた。
「着替えが終わりましたら、食堂にご案内いたします」
マリアの服はやはりシンプルな淡いブルーのワンピースだった、絹の様な滑らかな光沢のある生地で、ブラウス部分は長袖の前開きボタン止め、シンプルなフリルがあしらわれた前立てはすっきりとした印象だった。
ウエスト部分にはシルバーの幅広のリボンをベルト代わりに巻いて後ろで蝶結びにしてあり、アクセントになってる。
スカート部分はギャザーを寄せてふんわりと仕上げられていたが、ひざ下25センチ位までの、ちょっとロング丈? で、清楚なイメージのある上品な仕上げだった。
「……どう?」
「はい、上品でマリアにとてもよく似合ってますね」
感想を聞きたそうなマリアが尋ねてきたので正直な気持ちで笑顔で褒めてみた隆だった。
それを聞いたマリアは、凄く嬉しそうにはにかむのだったが、それがまたとてもはかなげなのに、喜びが溢れ出る様子が自然で、マリアの美しさが際立つのだった。
そして、シルビア嬢が、隆のスエットはこちらではあまり馴染みのない衣装の為、悪目立ちするのではないかと隆の為に用意してくれた服は、シンプルな白いシャツと黒いズボンだったが、生地はとても滑らかな着心地の良いものだった。
実は、これらの服はアラクネの糸を織って作られた高級品で、非常に高い耐久性があり、汚れにくく、火にも強い優れものだった。
旅装とするには、この上にローブを羽織るだけで十分という、シンプルながら機能的な衣装であった。
着替え終わったマリアと隆は、メイドさんの後を付いて行くと、広い食堂に案内された。
そこには、既にシルビア嬢と鷹の爪の面々が着席していて、歓談しているところだった。
「おはようございます、遅くなって済みません」
「おはようございます、大丈夫ですよ、私たちも先ほど席に着いたばかりですから」
隆が声を掛けると、シルビア嬢は笑顔で答えた。
「よくお休みになれましたか?」
「はい、ありがとうございます、お陰様でゆっくりと休めました」
「では、皆様揃いましたので、朝食に致しましょう」
シルビア嬢が奥に控えるメイドさんに向けて手を上げると、先ほど隆たちが入ってきたドアとは部屋の反対側にあるドアが開き、メイドさん達が、料理を満載にした皿を乗せたワゴンを、いくつも運び込んできた。
まさか、朝からこんなに食べるのか!と、びっくりしていると、それぞれの目の前に置かれた皿に、メイドさんがこちらの希望する品と、好きな量を、サーブしてくれるシステムだった。
隆と女性陣は、一皿に少しづつ色々な料理を乗せてもらうのに対して、鷹の爪の男性陣は大胆にそれぞれの料理を一皿ずつ貰っていたが、すべて綺麗に平らげてしまっていた。
「朝からすごい量を平らげましたね、大丈夫ですか?」
隆が、思わずつぶやいてしまうとマルコが代表として答えた。
「体が資本ですからね、問題ありません、むしろ、いつもと比べて少ないくらいです」
「私としてはまだ、ステーキ位なら平らげて見せますよ、ははははは」
それを聞いたシルビア嬢は申し訳なさそうに言った。
「申し訳ありません、急な事で保存の利かない新鮮な肉類は仕入れて無かったそうです」
「あぁ、お気になさらず、それこそ、昨夜からの歓待には大変恐縮しております」
「……ステーキですか」
隆はちょっと考えてみた、昔食べた最高級A5ランク神戸牛シャトーブリアンのステーキ、美味かったなぁ…。
すると、隆の頭の中にピキューン!となにか閃くものがあった。
「うん、ステーキ、用意できますよ」
「魔法で」
「「「「「「「えっ!?」」」」」」」
それだけ言うと、ちょっとだけ集中した隆だったが、料理召喚魔法?の熟練度が上がった為か、魔力の大きな渦も出来ずにテーブルについている8人の目の前に木の受け皿に乗せられた熱せられた鉄板の上に、ジュウジュウと焼きたての音とスパイスの効いた良い香りのする分厚い300グラム神戸牛シャトーブリアンステーキが現れた。
ご丁寧に純銀製のカトラリーも添えられていた。
隆君、何でもありだった。
「あ、鉄板は物凄く熱くなってますので、触らないように注意してくださいね?」
(食事の量の話をしていると、なにか閃いた顔をしたタカーシ様がまた突拍子もない事を言い出して、気づくと、目の前にステーキが用意されていた。
前回は、我々だけだったが、今回はフォルタレッサ家の使用人達も居るのだ、あまり、人目のある場所であの魔法? を使わない様に、後でそれとなく注意しておく方が良いだろう。)
とマルコは思った。
しかし、目の前のステーキだが、何だろう? 肉厚ではあるがそれほど珍しいほどのものではない。
よく見慣れたステーキだった。
確かに、香辛料の良い香りはしているが……と思いながらナイフを入れるとなんと柔らかな肉だろうか、それほど鋭いとも思えない銀のナイフで簡単に切れてしまった、切り口からは香り立つ肉汁が溢れる様に出てくるし、火は通っているのに中はピンク色で新鮮な肉特有の弾力が残っていた。
切り分けた肉を口に入れると芳醇な香りと肉のうまみが口の中いっぱいに広がり、咀嚼するとまるで溶ける様に消えてゆくのだった。
「「「「「「「…………」」」」」」」
みんな無言だった。
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