第10話

 ホセが、先触れとしてシルビア嬢の到着の報告と、時間外の開門を要請していたおかげで、スムーズに街の中に入る事が出来た一行は、全員そのまま領主がこの町に滞在する用事がある場合に使うやかたへと向かった。

 本来ならば、護衛の冒険者たちは、ここで一旦別れて宿を探すのであるが、何しろ到着が遅くなった為、これから宿を探すのは困難であるとシルビア嬢が判断した事と、隆の件について鷹の爪のメンバーに口止めしなければならないなどの、忖度が働いた為だった。

 館では、それこそ午後の内に、早駆の先触れが来ていたにもかかわらず、シルビア嬢の到着が遅れた為、捜索の準備などで大変な騒ぎになりかかっていたが、遅れたとはいえ無事に到着したため、今は落ち着きを取り戻していた。

「タカーシ様、今晩はこちらの部屋をお使いください……」

「……湯浴みは、用意出来次第お付きの世話係が呼びに参りますので、暫くお寛ぎください」

 と、シルビア嬢に案内されたのは、落ち着いた雰囲気の漂う、上品な造りの約20畳ほどの部屋だった。

 床は毛足の密集した何らかの幾何学文様を、緻密な作業で織り上げたであろう絨毯が敷き詰められ、二人掛けソファーと、ガラスのテーブルを挟んだ対面には、単座ソファーが二つ。

部屋の片隅には、と言っていいのか、部屋の約1/4を占めるほどの大きな、しかし、部屋に合わせたシックな色調の天蓋付きのベッドが、鎮座していた。

「ちょっと、いや、やたら広いけど、なかなか落ち着いたいい部屋だなぁ」

 部屋を見回し、独り言ちながら二人掛けのソファーに腰を下ろすと、ノックとともに一人の老紳士が茶器の乗ったワゴンを押して入室してきた。

「失礼いたします、どうぞそのままお寛ぎ下さいませ」

 思わず立ち上がった隆に柔らかく微笑みながら老紳士は言った。

「私、領主様よりこの館の管理を任されておりますセバスティアンと申します」

 でた、セバス!

「この度は、シルビアお嬢様の危機をお救い下さり、まことに感謝の念に堪えません、ありがとうございました」

「いえいえ、自分などたまたま通り掛りに助力しただけで、シルビア様を守ったのは鷹の爪の皆さまですよ」

「ご謙遜を、ホブゴブリンに率いられた、100匹近いゴブリンの群れのほとんどを、お一人で退治されたと聞き及んでおりますよ?」

 なんだか、もう話が盛られていた。

 この調子だと明日には数百匹になってるのではないだろうか?

 そう言えば、あの時のゴブリンの魔石はホブゴブリンの分も併せて、総て鷹の爪のメンバーが回収してくれていた。隆は遠慮したのだが、隆が倒した分については纏めて換金した後で渡してくれる手はずになっていた。

「いやいや、確か50匹前後しかいませんでしたよー」

「湯浴みの準備が整うまでの時間、お茶を用意いたしましたので、ごゆるりとお過ごしください」

「はい、お気遣い感謝します」

 隆が答えるとセバスティアン氏は再度柔らかな微笑みを残し部屋を出て行った。

「…………」

「……で? マリアさんは何故ここに?」

 そう、シルビア嬢がこの部屋に案内してくれた時から、既にずっと隆に張り付くようにくっ付いて来ていたマリアだった。

 その為、隆は二人掛けのソファーに座ったのだった。

 セバスティアン氏が用意したお茶も、ちゃんと2人分注がれて、それぞれの前に置かれていた。

「……マリア」

「あー、すみません、マリアは何故ここに?」

「……迷惑?」

「いえ、特には……」

 ちょっと前にも同じ会話をしたなぁ、と思い出している押しに弱い隆だった。


 お茶を楽しみつつ、しばらく待つと、またノックの音とともに、湯殿への案内役だろうと思えるメイド服の少女が現れた。

「湯浴みの準備が整いましたので、どうぞお越しください」

 少女の後をついてゆくと、結構な広さの脱衣所に案内され、タオル類と湯上りに着る下着や、薄着(パジャマ?)と、ガウンなどを渡された。

「お召し物は、そのまま籠に置いたままにして頂ければ、洗濯して明日にはお届け致します」

「判りました、ありがとうございます……」

 隆はお礼を言ったが、メイドさんはそのまま動こうとしない。

「?」

「……」

 疑問に思いつつも如何したら良いか判らずそのままメイドさんを見つめていると

にっこり微笑んだメイドさんが言った。

「お手伝い致しましょうか?」

「いえ、いえいえいえ、一人で脱げます!?」

 このメイドさん何を言ってるのだ!? シルビア嬢のことだから、抜かりなく、隆が男であると、通達しているはずである。

 それとも、ここはそうゆうものなのか? そういえばお付きの世話係とか言っていた?。

 判らないながらも服を脱ぎ始めると、メイドさんも一緒に服を脱ぎ始めた。

「ちょー!?!? なんで脱いでいるのですか?」

「えっ? 脱がないと、濡れてしまいますので?」

「えっ!?」

「えっ?」

 もしかして、体を洗ってくれる三助さん的なお仕事も、含まれているのだろうか? と思った隆だったが、言葉が出ずにフリーズして、ただメイドさんを見ていると、後ろからマリアの声がした。

「……大丈夫、……私も、……やる」

 後ろを振り返ると、そこには、一糸纏わぬ、すっぽんぽんの、全裸になったマリアが居た。

 白く、透き通るような肌は、まるで大理石の様にきめ細やかで、ローブから見えていた、ほっそりとした手足が示していた様に、身体全体の線は細く、華奢な印象なのに、その胸だけは、バランスが崩れないギリギリのところを推し量ったかのように、美しさを保ったまま、だがしかし、正直に言おう、デカかった。

 まさしく、柔らかテロリストの正体が、そこにあるがままに、さらけ出されていたのだった。

「……あまり、……見つめる、……恥ずかしい」

 恥ずかしいなら脱ぐなよっ!! と思いつつも、隆は恥ずかしがって身をくねらせるマリアを凝視してしまってた。

 もっと正確に言うなら、身をくねらせるたびにたゆんっ♪ となる胸に目が釘付けだった。

 完全に動かなくなった隆を、結局自分も裸になったメイドさんが、全裸に剥いてしまった。

「あら、お元気ですねっ!」

「聞いては居りましたが、本当に男性だったのですね」

 一部だけお元気になってしまった隆を、上気したピンク色に染まる頬に手を添えながらじっと見つめていたメイドさんは、ハッと我に返ると、マリアと一緒にそれぞれ隆の手を引いて湯殿に連れて行った。

 そして、二人掛かりで、隆を文字通り泡だらけにして、全身くまなく、洗い上げてしまった。

 そう、くまなくだった。

 お元気になってしまった部分も、もれなく、当然のように洗われた為、そんな刺激に慣れていない隆は、当然、暴発してしまったが、既にフリーズ状態の隆はそんな事態になったことも、幸運(?)にも気付かず(正確には気付かないふりをしたと言う)、呆然としたまま、両側をマリアとメイドさんに挟まれ、湯船に浸けられ、十分温まると、湯から上げられ、またまた、二人掛かりで全身拭かれて、着替えさせられベッドに連れていかれた。

 本来ならば、このまま夜伽までも、メイドさんの仕事だったのだが、それは隆の事情を知る? マリアに止められた。

 が、マリアは当然のように、隆の隣にもぐりこむと、ぴとっとくっついて幸せそうな寝顔で一緒に眠ってしまったのだった。

 そして、二人が寝静まるのを確認したメイドさんは、静かに明かりを落として、そっと部屋を後にするのだった。

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