第9話
「えっと、レベル100って言うと、どの位なんでしょうか? 例えば一般的な冒険者だと、どのランク位でしょう?」
マルコも、シルビア嬢も返答に困った。
レベル100オーバーなんて、伝説や物語でも聞いたことが無い。
「え、えぇと……、レベルと冒険者ランクは、あまり関係がありません。」
「冒険者ランクは、ギルドへの貢献度が、基準になりますので……」
マルコが答えた。
「そう……ですね、例えば、我々鷹の爪は、Bランクのクランですが、我々のレベルは私でレベル30、ホセや、ダヴィなどは多分20前後、ハイメとミゲルでも25前後ですね」
「マリアは、多分40近いと思いますが、それでも30台のはずです」
隆が目を向けると皆頷いている。
シルビア嬢が後を引き継ぎ言った。
「タカーシ様、レベル100とは人類で、いえ世界最強と言われる生物のドラゴンであったとしても、未だかつて誰も到達した事の無いレベルなのです」
隆は思った。
(ドラゴン、居るんだ……)
最初の頃にちょっとだけ触れたが、この世界の大人の平均レベルは10前後、冒険者として、日々魔物と対峙している者たちですら、20~30に達する事がせいぜいなのだった。
マルコや、シルビア嬢の話を纏めると、レベルとは、魔物や人間も含めた生物を倒す事で、その魂を開放する際同時に放出されるマナ(生命エネルギー的なもの)を吸収する事で、経験値が蓄積され、それが一定量に達すると上がるのであるが、次のレベルに達するために必要になるマナが、等比級数的に増大する為、レベルが高くなればなるほど、とんでもなく、上がりにくくなるのが普通だった。
そう、例えば人間でも、剣や魔法の修行を何十年も積んだ、達人や賢者と呼ばれる者達ですら、レベル50に届く者は歴史上でも数人、もうほとんど、伝説級の偉人達として、物語になっているくらいなのだ。
もっと言うと、この世界最強である、何万年も生きると云われるエンシエント・ドラゴンですら、レベルは80前後と言われているのだ。
隆がこの世界に来てからまだ、8時間前後。
マルコやシルビア嬢からの話を聞いて、さすがに隆も自分のレベルの上がり方が異常に速いと気付いた。
「それと、タカーシ様は多分、収納の魔術を習得されていらっしゃると思いますが、かつて,その魔術を自在に使いこなしたと云われているのは、500年前の英雄戦争の時に活躍なさった、大賢者様ただ一人です」
そう言えば、隆が収納魔術を使えるようになったのは、弓の練習(魔物大殺戮)でレベルがだいぶ上がってからだった。
補足のようにマルコが言った。
「実はマリアも使えるらしいのですが、1時間も使っていると魔力が尽きるらしいので荷物の短距離、短時間移動にしか使えないそうです」
「う~ん、自分の場合、魔力が減ってる感覚もないですね」
「……魔力回復量、……多いから」
横から隆に張り付いているマリアが言った。
「……余剰魔力で、……
さて、ここで話し込むと、いくら時間が有っても足りないと云う事で、ここで一旦切り上げ出発することになった。
そして、ここからは草原地帯なので見通しも良く、休憩もする必要がないので斥候は出さずこのまま一団で進む事に話が纏まった。
「では、ホセとミゲルが馬車の後方左右に付いてくれ、前方左右をハイメと俺で、ダヴィは引き続き御者を頼む」
最初からマリアは勘定に入れていない采配だった。
出発してすぐの馬車の中、カンテラを車内中央の天井に設置してある薄明るい中で相変わらず隆の隣にはマリアが張り付き、向かいにはシルビア嬢とエレナさんが座っていた。
このままだと先ほどの焼き直しになると踏んだ隆は、とりあえずマリアを放置して話を聞くことにした。
「まず、ここは何処であるかからお話をお聞きしてもよろしいですか?」
「ここは、フォルタレッサ領北部、領都フォルタレッサと、魔の森際の街フロンテラを結ぶ街道の途中です」
「えっと、国名は何と言いますか?」
「カスティーリャ王国です」
はい、隆には全く聞き覚えのない地名と国名だった。
しばらく目を閉じて考え込んでいた隆は、再度シルビア嬢に質問してみることにした。
「それでは、日本、東京という国名、地名に聞き覚えはありますでしょうか?」
「いいえ、一度も聞いたことがありません」
ここで隆は思った、この人たちにはちゃんと本当のことを話した方が良いのではないだろうか? ここで誤魔化したり、適当な話をするメリットが何も思いつかなかった。
今一度シルビア嬢の優し気な目を見つめ、ふと、視線を感じて、隣のマリアを見ると、マリアは真剣な顔で隆を見つめていた。
しかし、その瞳には一切の悪意は感じられず、初めて出会った人とは思えない親愛が灯っていた。
信頼には、信頼が返ってくるものだ、相手に信頼してほしい時には、まず自分が相手を信頼すべきだ。
そう思った隆はマリアに微笑みかけた後、
「聞いてください、推測ですが、自分はこの世界の者ではありません」
隆は、今日昼前に家を出てから、シルビア嬢たちに出会うまでの話を、詳細に順を追って話した。
「異界渡り……でしょうか?」
「昔、見たこともない世界に唐突に飛ばされてしまい、迷い歩いた末に、不思議な力を得て帰還されたという導師のお話を、本で読んだことがあります」
「異界渡り、ですか?」
「帰還の方法などは、そこに書かれていましたか?」
「はっきりとは覚えていませんが、書いてあったと思います」
シルビア嬢の言葉にマリアが隆の腕を掴む指に力がこもった。
「……帰っちゃう、……の?」
「う~ん、まだ騒ぎにはなっていないと思うけど、このままだと、あっちでは失踪ってことになると思うし、帰る方法があるなら、帰らないといけないと思うんだ」
「……居れば、……きっと、……楽しい」
悲し気な顔を俯けながら隆の腕にギュッとしがみつくマリア。
「(うぉっ!、柔らかテロr……)」
「マリア様、タカーシ様も今すぐお帰りになる訳ではありませんので、大丈夫ですよ」
シルビア嬢がとりなしてくれたが、頷くものの決して隆の腕を放そうとはしないマリアだった。
マルコは馬車の斜め前を進みながら思った、もう夜なのに静かすぎる。
日は落ちてしまったが、辺りは月明かりで柔らかく照らされて、そこそこ視界が通る。
しかし、草原を渡る風が、静かに通り過ぎる波紋が見えるだけで、この辺りで夜になると動きが活発になるはずの、
「リーダー、魔物、全く出ませんね」
後ろからホセが上がってきて言った。
「後方からついてくる気配も全くないです」
「あぁ、前方、左右、遠いところに気配があるのだが、我々が進むと離れて行くな……」
「これ、多分タカーシ様のいらっしゃるお陰ですよね?」
「そうだな、馬車から時々物凄い気配が放たれてる、意図されているのかどうかは判らんが、助かるな」
そう、隆は意図などしていないのだが、馬車が揺れ、マリアがすり寄る度に、ドキっとなり、普段以上に気を張る事となるのだが、実はその度に鋭い気を発してしまっていたのだった。
いうなれば、佐藤隆(童貞力)バリアだった。
非常に、残念な感じのするバリアだった。
そうこうするうちに遂に、フロンテラの街が見えてきた。
「ホセ、先触れをお願いできるか?」
「了解です」
ホセがシルビア嬢の到着を知らせ、開門してもらうために走った。
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