第1話 発足
「なあ、柊木、お前、魔導図書委員やってくれないか?」
「はい?」
新入生の授業が開始する時期にさしかかり、ドタバタと騒がしい職員室で、国語担当教師の田中の声が際立つ。それは普通に生活していれば、なかなか聞かない単語だったからだろうか。なに?マドウ・・・?
俺、柊木 幽(ヒイラギ カスカ)は戸惑い、首を傾げる。
「・・・うん、それが正常な反応だ」
田中は苦笑しながら、机の上に置いてあるパンフレットを幽に手渡す。
「二年前、魔法が初めて実行されたってのは知っているよな?」
「はい、そりゃあ、世界中が注目した出来事ですもん」
「魔法」という分野・・・他にも超能力とかは人類が最もやってみたいことの一つで、世界の至る所で当然のように研究されていた。どうにか、魔法・超能力というものを科学的に証明し、それを実行できないかと。
そんな中、日本のある研究員が当時高校1年生だった少女に協力してもらい、魔法の実行に成功したというニュースが流れ、世界中の研究員は嫉妬と羨望の眼差しを向け、日本とその研究員に注目を向けた。
・・・ だが、その魔法というのは致命的な欠陥があったのだ。
「確か、使える人間が限られる上に、判別方法もわからないんでしたよね」
「そう、それが原因で注目度が激減でな、それどころかそんな不完全なものを発表してしまったもんで、日本の科学方面の評価がガタ落ちってな」
冗談交じりに笑う田中。といってもこれは笑える事態ではなく、この研究は人類の長年の夢だっただけあって、その落胆は大きく、言い表せないほどの打撃を日本の科学業界にもたらしてしまったのだ。
田中はそこまでいうと、幽の持っているパンフレットを軽く指でピシッと弾く。
「そこで魔導図書室なんだ」
「いや、全然わからないです」
マドウって、「魔導」って書くこと以外は・・・。
「まあ、聞けって」
またも彼は苦笑し、タバコを吸おうとしたのか懐に手を入れるが、ハッと今いる場所が職員室であることを再認識し、残念そうに手を元に戻し、頭に待っていきポリポリと頭をかく。
「魔法に関しての認知を高めて、少しでも研究の成果になるって魂胆だな。ウチも少子化で年々新入生が少なくなっているからな・・・」
「ああ、なるほど・・・」
つまり、国はこう考えたのだ。
少しでも魔法に興味がある人間が出て、魔法を使えばその人はいい被験者になる。つまり、勝手に生徒が好奇心で魔法を発動させるのを待てばいいというものだ。
それは、最初に魔法を発現させたのが高校生であったからであろう。もしかしたら高校生、という条件が魔法を発動させるきっかけなのかもしれないと。・・・といってもその確率はかなり低いが・・・。
学校としては、ほかの学校にはない特徴を得られ、宣伝にもなる。
ここのところ少子高齢化が数年前よりも加速し、学校そのものが減少してくるのだ。うちの高校のかなりのマンモス校だったはずで、数年前は7クラスあったらしいが、現在では3クラスしかいないという状況になっている。
そりゃ、必死になるわな。
・・・それは、わかった。百歩譲ってわかりはした。
「あの・・・田中先生・・・」
「なんだ?」
「よく見るとここに、『第一魔導図書室の詳細』って、書いてあるんですけど、この『第一』ってのは・・・」
「あぁ、大したことないぞ、ここが『世界初の魔導図書室』って意味だから」
「いやいやいや! なんですかその大役! 嫌ですよそんなん!」
そのあまりの壮大さに、戸惑いを隠せない幽は猛烈に拒否をする。
彼は元々、目立つことを嫌うタイプの人間。球技大会とか卓球あたりを選んで早く終わらせて図書室で本を読む。
世界規模の話に、こう反応するのも当然だった。
「そこをなんとか頼むよぉ」
「拝まれても嫌ですよ!だいたい、なんで自分なんですか?」
「あー、図書委員の中で唯一サボらないから」
「適当すぎる!」
世界規模の話なのに理由が酷すぎる。日本よ、本当にいいのかそれで。
「こっちとしても委員会決まっちゃった後だし、図書委員からの引き継ぎって事でササっとやっちゃった方がいいのよね」
「本音ただ漏れじゃないいですか。」
予想はしていたが、なかなかに理不尽な大人の事情である。
こういうめんどくさいのはやりたくないし、そんな事情を知ってしまったらやる気も起きない。
「どうしてもダメか・・・?」
「・・・他を当たってください」
そんな大役を任されたら、俺ののんびりライフがなくなってしまうではないか・・・。
そう言い、多少申し訳ないと思いつつ、俺は失礼しますと頭を下げ、職員室の扉に向かおうとし・・・
「あぁ〜ダメかぁ・・・古典の赤点大目に見ようかと思ったのになぁ・・・」
「それ本当ですか」
俺は人生最速のスピードで、国語教師の前に戻っていた。
◇
柊木幽、彼はそこそこ真面目で目立つのが大嫌いな男子高校生で。
なによりも古典が苦手で、それ以上に現金なやつだった。
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