僕の仲間
「じゃ、とりあえず電話かけてみるね」
咲は早速といった風にケイタイを取り出した。
「どこに?」
「ケイちゃん」
「……ああ」
確かに何か手がかりを知っていそうである。ケイはともかく、ヨウさんとか特に。
咲がケイタイを耳にあてて数秒後、「もしもし、あたしです、咲です」と無事つながったようだ。
「ケイちゃん? ちょっと聞きたいことがあるんだけど、今……え? もうすぐ来る? なん……着いた!?」
咲のそばで、僕と硝も顔を見合わせる。電話を終えた咲も一緒に三人で呆然としていると、下の方で足音が聞えた。まもなく「咲ちゃーん!」と元気な少女の声が階下から聞えてきた。
僕ら三人が慌てて一階に降りると、仁王立ちするケイと、その背後でアタッシュケースを持ち、申し訳なさそうに眉尻を下げるヨウさんがいた。
「ぜーんぶヨウから聞き出してやったもんね」
ケイは今にも高笑いせんばかりに得意げだった。
「すまない。注意はしていたのだが……調べ上げた資料が見つかってしまった」
「あ、いや、こっちこそ巻き込んでしまうことになってしまって―――」
「ハイハイ謝罪合戦は中断してねー」
両手を大きく振って自分の存在を誇示すると、ケイはヨウさんに目配せをした。表情を深刻なものに切り替えたヨウさんは彼女に向かってうなずくと、僕らに外に出るように言った。
「少し離れたところに車を止めてある。話はその中でさせてくれ」
「あの、どこに………」
「ケイに連絡を取ってきたということは、おそらく事は一刻を争う事態になったのだろう? 私たちにも手伝わせてくれ」
こちらの返事を待たないまま、ケイとヨウさんは酒石修理店から出てしまった。僕はおじさんから渡されたものもろともリュックに突っ込むと、硝と咲とともに慌ててそのあとを追った。
足早に広い道に抜けると、ケイはすぐそこに止めてあった真っ黒い車の助手席に乗り込んだ。僕らもヨウさんに促され、後部座席に身を詰めた。
「ケイちゃん、ナツがいる場所が分かるの?」
ヨウさんが運転席に乗ると、咲がそう切り出した。ケイはバックミラー越しにそのヘーゼル色の目をこちらに向けている。
「ヨウの調べが正しければ、十中八九これから行く先にナっちゃんはいる。ヨウ」
「ああ。玖円君、私なりに今回のことを調べて分かったことがいくつかあった」
車は灰街を抜け出て、明かりの少ない高速道路に入った。
「確かに輸出用のアンドロイドを積むために数隻の貨物船が日本に来ていることが分かった。そしてどうやら、その船に臓器移植用のアンドロイドも積まれていることも。しかし奇妙なのはここからだ」
ヨウさんはいぶかしむように眉間にしわを寄せた。
「どうやらそのアンドロイドが積まれた方の船はすでに香港へと発った。そしてさらに、その数は白墓が提供した機体数より少ないらしい」
「それってつまり……ナツ以外にも?」
「そういうことになる」
言葉を失って呆然とする。するとケイがしびれを切らしたようにキッと僕を見上げた。
「きっと、ナっちゃんはそこらへんの裏ルートに流されるわけでもないの。だからあたしたちも下手に手出しできないし、アドバイスもできない。だから私たちは、玖円ちゃんの返事次第では引き返すことだって仕方がないとも思ってるの」
「いや、行くよ」
自分でも驚くくらい、すんなりと返事が出てきた。
もう、迷ってなんかいない。
「だから、手伝ってほしい」
そんな言葉に対する躊躇いも、今はない。
隣の硝と咲がこっちを見て少しだけ笑っているものだから、僕は少し気恥ずかしくなってしまった。
ケイとヨウさんはしばらく黙っていたが、やがてヨウさんのほうから口を開いた。
「それならば私も心配することなく君たちを案内することが出来る」
「みんなでお出かけみたいで、なんか楽しいかもー」
ケイがそんなのんきなことを言うので、車内の空気がちょっとだけ和らいだ。
「もう、ケイちゃんってば」
「気ぃ抜きすぎだろ」
「抜いてもいいんだもん。ヨウがちゃんと守ってくれるし」
「だが、せめて護身術くらいは覚えたらどうだ。私がいなくても自衛できるように」
「運動嫌い」
みんないつも通りの会話をしている。
今この輪の中に、彼女だけがいない。
彼女にいてほしい。
僕はみんなの会話に耳を傾けながら、膝の上のこぶしを握りしめた。
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