第2話 写真と「まとも」と「変な」出会い

(注:これ書いたの前です。リアルタイム投稿じゃないです。俺はランダムな予約投稿が主です。投稿時間で生活が特定されることを必ず避けます。分単位での投稿が可能なのはある意味、便利。)


 なんかここしばらく、阿瀬みちさんとか藤浪くんと対話していた俺は、必死で自分のことを説明しようとして、忘れていた傷口まで開けてしまったようだ。


 自意識過剰が頭をもたげ、苦しむ俺。


 せっかくワン・オブ・ゼムの目立たない生活をエンジョイ?していた俺だったが、過去の傷でちょっとおかしい。


 裏通りを歩いてて、ネズミ駆除のウィンドーの剥製のかわいいねずみちゃんの写真を撮っていた俺は、きちっとスーツを着た、いい歳のおじいちゃんに声をかけられた。俺、もっと全部撮ろうと思ってたのに、結局、1カットしか撮れなかった。


 最近、俺はやっと一回りして、周回遅れで同じ場所に来たところだった。


 実のところ、数ヶ月前に、俺は良い出会いをした。マグナム・フォトに所属してるというフォトグラファーと友達になった。俺、ロバート・キャパみたいに生きたいなと思って、あっさり挫折したから、脇の下に、でかくないカメラを持ってる人、というのに反応し、俺から声をかけたのだった。それは、今から……忘れたけど、2〜3ヶ月前か。


 FUJIのカメラ。俺は、小さいカメラに買い換えようと考えてるんですが、それ、どうですか?と突然、電車の中で訪ねた。白とグレーの髭を生やし、耳に大きなヘッドフォンのその人は、なんというか、めちゃめちゃ渋い。驚いたことに、向こうは俺のことを知っていた。時々、朝一緒になるだろ、僕は知ってたよ、この電車によく乗ってただろ、と彼は言った。


 モバイルにあった彼の撮った写真を見せてもらって、俺はショックを受けた。この人は本物だ。さすが……伊達にマグナムの看板背負ってない。俺は、くらくらするくらい、なんだろう、すごい、ちょっとした俺の中の歴史的瞬間な出会い、と思った。


 俺は実のところ、見る目だけはある。日本で言えば、誰くらいすごいかな。個人名を上げるのは憚られるが、日本の伝説のフォトグラファーのリアルな写真の味とは違う、シャープな切れるような作品だ。なんだろうな、ここまですごいと衝撃を受けたのは、写真を見て初めてだ。


 コンセプト。完璧だ。


 単に偶然に良い写真が撮れたような感じのフォトグラファーとは根本が違う。写真を撮る人、カメラマンの知り合いは多いが、ここまで俺が金槌で殴られたみたいなショック受ける作品も珍しい。


 それがなぜなのか、完璧に計算しつくされた一瞬を常に切り取る能力がある、そして、その切れ味が本当にシャープで、冷たいくらいに、うまく言えないけれど、おとぎ話をきっかり画面に落とし込むが如くに、リアルな描写を体現し、ぼかしたりごまかしたりしてない。


 これは才能。そうとしか言えない。数見てきた中で、本当に秀逸、誰かの真似とか、なんとか風とか、そういうのが一切ない。無駄なものを全て削ぎ落としたコンセプトだけで成立する世界。これは手元に置いておきたいような世界だ。


 勝てる写真。何に勝てるって、ごまかしなく、剥き身の武器を手にしたような感覚になる写真。


 俺は、まあ、写真というのは味だから、好き嫌いがあり、全ての人が同じ感想を持つかどうかは一概には言えない、とは思ったが、それにしてもすごい。さすがマグナム。俺は、マグナムにまだ所属できるのか、ということについて、軽くショックを受けた。ついこの間、というか、かなり前かもしれないが、本当に有名な人が亡くなったところ。生きているということが、本当に価値ある、まだあの人は存命、ということが歴史的な価値のような巨星が落ちたが、もちろん、彼は会ったことある、と言っていた。すごい。なんというか世界というのはこんなふうに狭いのがすごい。俺はいつも世界って狭いとは思って生きていたが、もしも、写真を始めた頃の俺だったら、頭のネジが一個飛ぶくらい喜んだろう。今も嬉しいけど。


 俺は写真は無理だな、と思って長い。俺には才能がない。才能がないことが自分にわかってて、続けるというのは本当に無意味だから、俺はある段階から、放り投げたようになった。


 俺は、ゾッとするような思いで、彼のモバイルの中の写真を眺めた。そばに置きたいような写真。俺は初めてコンセプトを真面目にやってる人に出会えて、この出会いは稀有だ、と心の底から喜んだ。俺には仲間が必要だ。


彼は報道カメラマンとしてやってるわけじゃなく、編集の方だという。それにしても、自分の見た写真の中じゃ、ほぼ一番くらいのレベルの写真。


 コンセプトフォト、こんな切れ味の良い写真、写真やカメラの話をすると、簡単な雑談でも話が尽きない。まるで時間が飛ぶように進み、電車はさっさと到着してしまう。俺はこの出会いについて、勝手に我ながらすごい勘だと、思わず話しかけた俺自身を讃えた。


 そこから毎週のように電車で話したが、なんとその人は、ものすごく人懐こい人で、一瞬で旧知の親友のような空気を醸し出すような人だった。俺は、ずっと低迷していた「つまらない日々」との「この落差」に身震いした。こんな写真を撮る頭の構造の人と、「普通に会話できる」というのは、俺にとってすごい刺激の機会だった。そして、運がいいことに、俺が電車を同じ時間に合わせられる日は、自然に約束せずとも、会うことができる。俺は約束はなるべくしない主義の人間だから、降って湧いたような幸運で、彼が時々送ってくる写真を見ては、俺もまた撮りたい、と思い始めていた。


 今日、午後、俺は裏通りのカオスを歩いていて、おじいちゃんに声をかけられた。お茶でもしませんかと、すぐそこのファーストフード店を指差す紳士。一体何才くらいの人か、介添えがいるくらいの年齢では、と思った俺は、老人孝行のつもりで、いいですよ、ちょうどトイレを探していたので、と答えた。


 俺、正直リアルではめちゃめちゃ好青年。自分が年取ったら……ということを思わず感じてしまうから、お年寄りには自然に親切にしてしまう。手を握られる俺。



 まあ、老人は、若者の手を握りたがる。俺、慣れてる。


支えないと、こけたら病院一直線ぐらいの歩き方で紳士、一体どこから来たんだろうか。タクシー?


 なんと驚いたことに、歩いてきたんだと。本当か?


 俺はまた、ハイヤーかなんかで送ってもらってここにいるのか?と思うくらい、紳士の身なりとこのカオスなアフリカみたいな裏通りはちょっと不釣り合いだ。俺も、この通りは初めてだ。


 いや、君のそのハット、すごく似合ってるね、と紳士は言った。どうも、と俺は言った。通りすがりに、素敵な帽子が似合ってる、といつも声をかけられる俺。


 俺、自分が着たいものを着ると、めちゃめちゃに目立つから、王子くんじゃないけど、「目立ちたいなら、自分らしくない服を着る」「自分らしくないように着る」ということをしなければならない。


 俺は、男のアクセサリーには否定的なんだが、自分はつけていた。それって何かな、仕方ないじゃん、似合うんだから。


 俺は、今日、なんとなくイルカのリングをつけていた。もらったやつだ。岬くんってこんなのが似合う、ともらったやつ。とても大事にしていた。それって何、イルカが幸運を運んでくれるってやつ?


 俺は実は、内面はこういう感じだから、正直、内面知られると、ちょっとアレだ。こっそりベッドに大好きな++++をいつも抱えて寝る。


それって、兄貴がくれたやつ。お前、これお前にやる、と。好きだろ、と。


 兄貴はゾッとするくらい俺のことを知っていて、俺は、え!いいの?と聞いた。

ついでに兄貴は、ゲーセンでとってきた、小さな++++まで俺にくれた。


うわあああああ。


 正直俺、素の俺を、あまり他の誰にも見せたくない。馬鹿にされるし、だいたい俺は、実は中身はすごく幼い。


 Bがいつも、お前の反応は、だいたい4歳ぐらいか、良くて8歳くらいまでの子供だから、と言う。


 俺には自覚があるので、それで、いつも自分を隠さないといけない。俺、8歳くらいの時、もうちょっと大人びてたと思う。


 で、とにかく、俺とおじいちゃんは、ファーストフードの店に入った。



 おじいちゃんは注文しない、本当にいいの?と聞いても、いいと言うから、自分だけコーヒーとチョコレートクロワッサンを頼む。俺、ハンバーガーはもう食べないって決めたんだよ。


 実のところ、俺は、ここのチェーンの大きなハンバーガーの愛好者だった。本当に本当に本当に好きだった。食べてると幸せを感じるから。


 それって不思議なことだったんだけど、うちの父さんが日曜によし、一緒に行くか、と良くドライブスルーで連れて行ってくれたからだと思う。うちの父さんはワーカホリックな人だったけど、食べることには結構貪欲、なんでも良く食べるほうだった。


 聞いてるとおじいちゃんは、さっきも来たらしい。へえ。


 俺はまるで取材するみたいに、何時に起きて、朝から何して、それからどうして、みたいな話をメモを取りながら聞いた。


 俺、メモ取るの癖なんだよ。



 時々、メモ取るな、と言われることがある。そんな大した話してないし、と。そう言う人は、大した話をしてるからそう言う。


 俺は話を聞きながら、分析した。一応テーマは、長生きの秘訣はなんですか、と。


 おじいちゃんは嬉しそうに、本当に色々話してくれた。俺、体調悪いんです、と言うと、それまでも接近して、俺のことを触りまくっていたが、お腹を弄られる。


 散々今週、そんな話が出たばかりだが、このおじいちゃんは、良い方のおじいちゃん。老人だから、若者が触りたいんだよ。俺はその気持ちわかるから、こういう人は全然問題なし。


 問題は、性欲全開で迫ってくる人なんだよね。って言うか、このおじいちゃん、Jさんとプロファイル似てるじゃないか。


 俺は、ダンスが大好きだと言うおじいちゃんに、ダンスが健康の秘訣なんですね、と相槌を打った。俺、病歴とかいろんな人から聞き書きしてるから、生活パターンと病歴と、食事は必ず詳しく聞く。どこで育って、どんな職業について、いつ結婚して、子供は、孫は?と。


 俺、フィールドワーカーだよね。何に使うんだ、そんな情報。


おじいちゃんは俺にまた会いたい、と言った。まあ俺は、襲われる危険性ないなら、と思い、良いですよ、と言った。77歳。ここまでの高齢だと、まあ、俺を襲うのは無理だろ。


 それでもおじいちゃんが触ってくるときにすごく感じたのは、このおじいちゃん、俺より生命力あるな、ということだった。俺よりもずっと、何と言うかエネルギーが強くてしっかりしてる。俺はむしろ、このおじいちゃんからこっちにエネルギーがくる、と言うことについて、ちょっと助かった感じがした。


 だって、俺、今死にかけだもん。


 俺は他人のエネルギーの感じとかも読める。むしろ、痛い場所に手を当てられると、そっちからこっちに届くから、痛みが和らぐ。


 誰か女の子にそんなふうに一緒にいてもらうべきだよね、とおじいちゃんが言う。俺が、そうなんですよ、それが俺に必要で、と言った。


 何となくおじいちゃんは、気の毒そうな顔をした。で、モーリシャスに旅行した時に、現地の女ですっごく性格の良い子に一緒に過ごして、癒してもらった、って話になる。


 いいっすね〜


 それいつのことですか?と俺が聞くと、10年くらい前かな、と。67歳。すごい、俺、今でも飛行機乗るのはもう無理なくらい体力自信なくなってる。



いや俺、もう直ぐ死ぬかなっていうくらいもう正直、ダメな日々で。


 おじいちゃんは、それはいけないねえ、散歩、ご飯、運動、楽しいこと、全部必要だよ!と言った。おじいちゃんの生活は朝7時に起き、カフェオレにクロワッサン、それからオレンジ一個に、オリーブオイルをスプーン一杯飲むと言う。


 うーん、オリーブオイルか。シュガー・スプーンくらいの大きさ。


 聞いたことはあるが、おじいちゃんがアルジェリア人のせいか?


 それでお昼ご飯は、レンズ豆とか、ズッキーニとかのスープ。俺が、お菓子屋ポテトチップ、コーヒーばっかりの生活で、と言うと、ダメダメ、お菓子はダメ、と言った。


 朝のクロワッサンのバターに、ジャムつけないんだと。多分、クロワッサンはバター必要ないから、おそらくタルティーン(薄切り田舎パンやバゲットをトーストしたもの)なんだろう。


で、午後はと言うと、音楽聴いて、踊って、映画見て……


 いい生活ですね、と俺は言った。おじいちゃんは上品だから、どんな職業についていたのかは、何気なく聞きそびれたが、趣味が良さそうだ。お腹の話が出た時に、ちらっとシャツの中を見せたおじいちゃんの素肌は見えずに金の鎖が見えた。こっちの人は、金をつけるから。身につけてる財産感覚で。


 俺も、実は銀より金のコレクションするのが正解、と近年考えて長い。帰りになんとなく裏通りの金の鎖を眺めて通り過ぎた。


 なぜおじいちゃんと俺が、こんなふうに長話することになったのかは、俺は、たまたまお腹空いてて、トイレに行こうと思ってたのと、この人、それこそ命がいつ終わってもおかしくないんだよな、と思うと、俺はたくさん悲しい死に実は人よりも長く立ち会ってきて、それは本当に偶然ばかりだったのだけど、会う人と最期になっても後悔しないように振る舞う癖が、幼い頃からついていた。


 俺は子供の頃から、親切で優しく、面倒見が良い子供。それというのは、俺が、生き物の声や植物の声が聞こえる気がする、物の思念がこちらに勝手に伝わる、というような感覚と多分関係していた気がする。


 俺は、時間の流れもそうだったけど、物なんかの記憶を読んだりするのも、ごく普通の感覚で、それがみんなもそうだと思い込んでたくらい、共感性が高い人間だった。幼い頃の俺は、自分の生理的な欲望、お腹が空くとか、眠いとか、母さんの愛情が俺に向いてないと弱かった俺は不安だったのもあって、他の兄弟よりも手がかかる子で、他の兄弟を思わずして押しのけてるようなところがあった。そのことについて、自分が自分勝手だということについて、すごくいつも罪悪感を感じて育った。


 自分勝手でないと、生命の危機にあるから、どうしても真ん中に来たくなる。


 そのことについて、子供の頃は、何故、俺はこんなに自分勝手なのか、他の兄弟がいなければ何かが違う、と思わず思ってしまうことについて、それは無意識だったから、意識の上には上がってなかったものの、親の愛が足りないといつも飢えている状態だった。


 おじいちゃんと別れて、郊外行きの電車に乗り込む。息を呑むようなイケメンと同じ車両になった。最近、そんなことばっかり話してたから、妙に意識するじゃねーか、と俺は、ネタにするのも恥ずかしいし、とちょっと逡巡した。俺らしくない。



 ごく普通の俺なら、まず100パーセント声をかけ、旅行?と聞くに決まってる。ここ数日、藤浪くんや阿瀬みちさんと、散々イケメン談義したせいで、俺、恥ずかしくてとても。


なんでさ、俺がこんな照れなきゃなんないのか。


 俺は、前にそんなふうに声をかけたのはいつだったか考えた。ってことは、俺が、声かけようと思うくらいのイケメンというのは、人生で2〜3人も会ってないんだぞ。


 俺の標準は高いから、下手な芸能人じゃ、びっくりしない。目の前にいるイケメンは、「Catch me if you can」の時の、レオナルド・ディカプリオそっくりだった。もうちょっとプラスで優等生感がある。


 俺は、このチャンスは逃せない、とバッテリーをチェックした。最悪なことに、モバイルのバッテリーはもう切れかけ。チャージするしかないからチャージして、いや実はこういう企画なんですが、写真撮らせてもらえませんか?と言うべきか、考えながら、チャージされるのを待つ。


 ウィルスに感染したのか、モバイルがここ数日、急激にバッテリーダウンが続いてた。俺、企画は長い間、立ち消えに近い状態で、だって滅多にインスピレーション感じる人に出会わないんだから、仕方ないだろう、と思ってた。馬鹿なライフワーク的個人企画。


 遠くから見て、イケメンが移動した。実はグループ。さっきがチャンスだったのに。一人で座ってて、隣は空いていて。でも、イケメンは、電車がやっと空いたから、元いたグループに合流するべく移動し始めた。きっと学生の春休み旅行じゃないか。この路線でじっと外を見るなんて、通学や通勤じゃない。この国の人間じゃないな。


 俺は、この国の人は案外イケメン少ないんだよ、と考えた。だいたい、ミックスされてて普通なわけだけど、なぜかそうなんだ。いないわけじゃないけど、声をかけられなかったのを悔やむぐらいの美形にはほぼ出会わない。一度、Bの友人の兄弟がひどいイケメンで、俺は、珍しく目をウロウロさせた。イケメンすぎてどこ見ていいのかわからない。



 まあ、そんな人に出会うのは、海外を旅しても、まずないことだ。俺はものすごく目が肥えてるから、まるで彫刻の出来を品定めするのと同じように一瞬に判断できるから。それは俺が子供の頃から既に持ってた能力で、当たり前だけど、俺はずっと美術の成績は良かった。子供の頃から、日本じゃなく西欧圏であれば、毎日が楽しいと思っていたが、それはそうだ。ものすごく美しいものに突然出会うことが日本よりも多い。


 別に日本のことを悪く言うわけでなくて、単に、造形的な好みの問題で、西洋人から見ると、日本人の2次元的な顔の作りなどがのっぺりして可愛らしく見えることもあるのだから、「目」というのは、慣れもあるし、いつも見ているもの、どこに美を見出すかで、全く価値判断が違ってきてしまう。珍しいもの、滅多に見れないものが美しく見えたりもするから。


 美しさのバランスというのは、本当に精妙で、これは美しい、これはそうでない、というのは、「ほんのちょっとしたこと」だ。俺は、なぜこんなふうなのかというと、「常に美しいものを見ていて普通」という環境で育ったせいだと思ってる。既に小学校の時は、周りに彫刻を眺めるみたいに、どのラインを取れば最も美しいのか、と考えながら周りを観察し、美しくないバランスのものでも、美しく見える角度、バランスに固定してしまえば、美しく見える、と周りの奴らの顔を見ながら考えたりしていた。特に大人の場合は、老化してしまうから、生命力という意味で、子供にはかなわない。


 俺の基準は常に「美しいか・美しくないか」だったから、一緒にいて、バランスが気になって仕方ない人の側にはあまり行かなかった。それはすごくなんというか不遜なことなんだろうけど、もうちょっとこうならな、とフォトショがあれば、よく見えるように直してやろう、というように、俺の中でそれは自然な作業だった。


 いつかネットで誰かと話してて、俺は全く美しさなんかについて喋った覚えがないのに、「美意識の人ですね」と言い当てられて、驚いたことがある。俺も、俺の兄弟たちも「これがこうなら美しい」ということを無意識に思う癖がついていて、それはとてもアンバランスなことだった。なぜなら、俺たちは行動は別に、そんなに洗練されてない。


 俺が分析するに、父さんの不器用なところを受け継いでしまったのだろう。


 だから、そこまで俺たちが美しさにこだわってしまうことについて、他の人は気づきにくい。だから、自然にどこか、浮き上がったような感じになってしまう。俺たち兄弟は、自然に「美しいか美しくないか」を話題にして、そのことについて、くだらないと思ったり、恥ずかしいと思ったりすることがなかった。美しさというのは、当たり前にそこになければいけないファクターだった。


 俺は、諦めて電車を自分の駅で降りた。写真やビデオを使う企画は、近年、ものすごく著作権がめんどくさい。だから俺は、書くことで補完するからいい、と、どうせ撮っても使いにくしな、と、あっさり家路に着いた。


 生半可なイケメンじゃ、どこにでもいるから、全く食指が動かない。そしてカメラというのは、カメラ写りがあるので、どんなに見た目が美しくとも、カメラのファインダー越しには全くダメ、ということがよくある。


 実は王子くんがそうだ。王子くんが、そうなんだ、皆から言われる、写真写り悪いね、と。逆に、ファイダーを覗くと、びっくりするくらいよくなるパターンもあるから、正直、わからないものだ。


 俺は、今日は変な1日だったなあ、と思った。ネズミの剥製に、おじいちゃんに、イケメン。Bがもし、俺を見ていたら、またイジられるところだ。


 違う、そんなつもりじゃない!!


 俺は、なぜか知らないけど、Bといると、いつも恥ずかしいと思わなきゃいけない。なんか知らないけど、そういう場所に追い込まれる。


 違う、違う、そんなこと考えてない!!


 俺はそう言いながら、あれ?もしかして俺ってそんなこと考えてたのか?と素直だから、そんなふうに思って、いたたまれない気分になる。


 なんか知らないけど、Bは俺を嬉々としていじるのが趣味なんだよな。








 



















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