アウトローとは。
おそるおそる背後を振り向く。よかった、追手は振り切れたらしい。あいつらときたら俺を捕まえた途端もふもふもふもふもふと体中をなでまわすんだ。それがたまらなく気持ち悪いったらない。俺は男だ。立派なオスだ。いつ何時もクールなアウトローでなくてはいけない。
「あー、にゃんにゃんだぁ」
くそっ、またあの餓鬼、俺のことを追い回してやがるのか。つくづく厄介な野郎だ。
「こら、まー君、そんなね、お外でフラフラしてるような野良猫なんか追いかけちゃ駄目でしょ。ばっちいのよ。バイ菌もいっぱいなのよ」
「えぇー、いーやーだー」
あの餓鬼の母親だろうか。いちいち一言多いんだよ。誰がバイ菌だらけだって? ふん、結構毛だらけ、猫灰だらけだってんだ。しかしこう言われては意地悪もしたくなってみるもんだ。すりすりと餓鬼の足もとで甘い声をあげてやる。ふん、ちょろいもんだぜ。
「あ、にゃんにゃん、くるよー。おいで、おいで」
「ああ、こら、まー君。なんてこと」
ぐしゃぐしゃ もふもふ
くっ、何度触れられても慣れないな。気持ち悪いったらないぜ。
「こらっ! ばっちいって言ってるでしょ!」
「にゃんにゃん、かわいー」
ふん、見たか、ババア。ばっちい、ばっちいって何度も連呼するんじゃねえやい。
もしゃもしゃ ふもっふもっ
くしゃくしゃ ふわふわ
もふもふもふもふもふもふもふもふ……
どれだけ撫で回されていたかわからないが、なんだろうな。この餓鬼、ただの餓鬼かと思ったらなかなか、手つきがいい。だんだん悪い気がしなくなってきたぞ。何者だ、この餓鬼。
「にゃーんにゃーんるーんるーん」
謎の歌を口ずさみながら延々と俺をなで続ける。おい、母親もそろそろ引き離してくれよ。散々俺のこと汚ねぇだのなんだの言ってたじゃねえか。
ぐるるる、と自然と喉が鳴る。しまった、あまりの心地よさに我を忘れっちまった。見上げると、いかにも嬉しそうな餓鬼の顔だ。俺のツボを引き当てたのがそんなに嬉しかったか。くそ、このままじゃあ俺はなすがままじゃねえか。やめろ……やめろよ!
「にゃんにゃん、大人しいねえ。いい子、いい子」
こっちが抵抗せずに黙っていればいい気になりやがって。こっちだってな、今すぐ飛びついて手元ひっかいてやろうとかな、そんなこと考えてるんだぞ。俺の研ぎ澄まされた爪を舐めるんじゃねえぞ。
だが、俺が手を上げないのはここにいるのが女子供だけだからだ。大人の男がいれば容赦なくそいつに飛びかかっていたところだ。しかし、女子供に手を上げるのは俺のポリシーに反する。男のやることじゃないからな。
「まー君、そろそろいいでしょう?」
「ママー、この子、飼いたい!」
おい、馬鹿野郎、滅多な事をいうんじゃねえやい。ふぎゃ、と変な声が出ちまっただろうが。
「ねー、いいでしょー」
母親、不機嫌な顔つきでこっちを見ている。そうだ。その調子だ。そのまま拒否するんだ。そして俺を自然に還してくれ。頼む。
「……本当に大人しい猫なのね」
「いいでしょ? このにゃんにゃん、いい子だよ。毎日僕が面倒みるから!」
おいおい、何納得しかけてるんだよ。野生の野良猫なんて飼うもんじゃない。それを教えてやるのが親ってもんじゃねえのかい。
「今日だけおうちに連れて帰って、パパと相談ね。それならいい?」
「ほんと!? やったあ!」
おいおい、嘘だろ? 冗談じゃねえや!
ふんぎゃあ!
餓鬼の腕からひらりと身をかわし、俺は再び草原に降り立った。ふん、俺は最高にクールでアウトローな猫なんだ。人間に飼われるなんて御免だね。尻尾をつんと振りたてながら、俺はその場を後にした。
だけど、たまにあの餓鬼に会うくらいなら悪くないかもしれない。全身に受けた温かさやくすぐったさを思い出しながら、上機嫌に俺は一声鳴いてやった。
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