第2話 職業/身分 バイト戦士。

 高校を卒業し、大嫌いな勉強を乗り越えやっとの思いで大学へ進学。

 ああ、これだけなら情熱の血と汗滲む立派なサクセスストーリー、俺たちの戦いはここから始まるべくして始まるのだ! などという、とっても胸熱展開必死なのだが……。

 残念ながら、この物語はフィクションです、実在する人物、団体とはいっさいうんぬんかんぬん、だ。

 それどころか、よく使われているこの文句を用いるのも不敬だろう。正しくは、大幅脚色あり、申し訳ございません、だ。謝っちゃったよ、どうしよう。どうもしない。

 にもかくにも。朝、八時五十分。出発の時間だ。場所はもちろん、職場だいがく。いや、間違えた。職場バイトだった。

 午前中バイトに費やし、午後に講義に出て、サークル活動をして帰宅。そんなスタイリッシュイケメン大学生にはなることはついぞ叶わなかった。スタイ履修、無理であった。挑戦もしたわけではないけれど。あとイケメン枯れろ。

きっと、スタイリッシュの”ス”は僕を前にしてみればすの字に変化し、いつの間にかタ以降の文字も逃げだし、最終的にすの字も目の前から姿を消してしまうことだろう。何言ってるか分からない。激しく同意。はげどう。

 大学にはたくさんの人間がいる。広くに、本当にたくさんの人種がいる。正直、あまり詳しくないが……。

 将来をしっかり見据えて、社会に出る前の勉強や活動にしっかり取り組み、また、そうして成長するため大学へ通う者。

 今ある期間を大切にし、周りとの交流だけではなく、そこにしかない経験をするために、サークルやバイトに努める者。

 社会経験をなによりも重視し、大学に入りながらも講義をそこそこにという選択肢を自ら取る者。(つまりはバイトの比重を多くするということ)

 例はこの限りではないが、多くの人間が、大学という場所で自らを磨き、輝かせることに力を入れている。

 少なくとも、僕には。僕の目にはそう映った。

 ーーーーだから僕は、逃げた。

 眩しかった。心臓が、いばらとげで締め付けられたような錯覚を覚えた。体がなまりのように重く感じたこともあった。トイレに駆け込んで腹を痛めることも頻繁になった。

 足を引きずりながらも、嫌なものから必死に目を、体全体を背けて僕は走った。

 そうして一年目の単位をほとんど落としながらも、中途半端に”バイト戦士”として今に抗っている。それが、僕の精一杯からの逃避行だった。

 ”バイト戦士”、それは僕の好みである物語から派生した言葉だという説や己をかえりみず会社の仕事と闘うようにして向き合う者の例え、企業戦士から生まれた説など、様々だ。

 また、大学に入りながらもバイトとの両立という均衡きんこう垣根かきねを超えてしまった者の蔑称として扱われていたこともあったとか。なかったとか。僕には、この説が一番、性に合っているな。

 そうこうしている内に、目的地へと到着していた。

 二階建てのリフォームしたての建物。ビルと言うには少し、いや、明らかに高さが足りないが外観はオフィスビルのようにガラス張りで格好がついている。そもそも、ビルの定義を知らないのだが。

 建物の手前の屋根付きの駐輪スペースに相棒のロードバイクを置いて小走りで自動ドアを突っ切る。

 ぼうっとペダルを漕いでいたせいか、時間が割とギリギリであった。

 急いで着替えて、出勤したことを記録するためタイムカードを読み込ませようとする。

 すぐにピーーと電子音がし、パソコンの画面にエラーと表示されてしまう。

 タイムカードに拒絶され、遅刻への危機感から、ジリジリと焦りが大きくなってゆく。

 ……ハハハ。これは、バイト戦士と名乗るのも許されないって事なのかしらん。









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