第3話 告別式の帰り道

 一カ月後、カキとベルは共に、先日殉職したアツの告別式に出席していた。式が終わり、カキとベルは帰り途の途中、重い雰囲気の中、仕事の話をしていた。


「最近、禍災の出現が多いよね……」


 ベルが話す通り、ここ一カ月、禍災の出現が頻繁に起こっていた。ここ数年は一年に一度程度でしか出現していなかった禍災が、この一カ月だけで十体も現れていた。幸い、全てリンとカセンの活躍により、隊員の犠牲は一人も出てはいなかった……。アツを除いて……だが。


「ベルちゃん……、もし私が特殊能力を使うとしたら、止める?」


 カキはベルに問いかける。ベルが自分のことをどう理解しているか確かめたかったのだ。


「止めないよ」


 ベルは真剣な表情でカキを見つめる。


「カッキーが何を思ってそんなことを聞くのかはわからない……。でも私はカッキーを止めるつもりはないよ。カッキーが自分の命を差し出すべき時だって思った時なんでしょ? カッキーは命を粗末に扱う人じゃない。カッキーが能力を使う時は絶対意味がある時だって信じてるから……」

「ベルちゃん……ありがと……」


 やっぱりベルは親友で理解者だ、とカキは思った。


「今日も二人揃ってるなんて、仲が良くて結構ね」


 カセンだった。カセンもまた、告別式の帰りの道中だったようだ。


「ベル、そんな最弱と一緒にいたらあなたも錆びるわよ?」


 相も変わらずカキに対して嫌みを言うカセンにベルはムッとした。


「カセンちゃん、カッキーは私の大事な友達なの。悪口を言うのはやめて!」


 ベルの怒りの言葉を聞き流すように、カセンは「フンっ」と首を傾ける。ベルはカキの様子を伺った。感情的なカキが、直情して殴りかからないか心配だったからだ。しかし、ベルの予想に反して、カキの表情は冷静そのものだった。


「アンタねえ、そうやって私達エクスティンギッシャ―をいじめて思い通りに動かそうとしてるんじゃないでしょうね?」

「はあ? なに言ってんのよ、あんた」

「この1カ月、他のエクスティンギッシャ―に聞いて回ったけど、あんた、例外なく、どの子にもいじわるしてるみたいね……。中には、いじわるされ過ぎて仕事に対する情熱を失った子もいたわ。あんたの思惑どおりじゃない?」

「なんのことかしら?」

「とぼけてるわね。アンタは私達の仕事への情熱を削ぐことで私達エクスティンギッシャ―に能力を使わせないようにしている……」

「はあ? 何でわたしがわざわざそんなことを……」

「リンさんから聞いたわ。ショウさんのこと」


 カセンの眉がぴくっと動いた。カキはそれを見逃さなかった。


「本来、私達エクスティンギッシャ―は死ぬことも恐れない情熱を持っている。その情熱を奪ったんだから大したもんよ。でも、アンタのやり方は間違ってる。そんなのショウさんも望んでないわよ」

「あんたに何がわかるのよ!?」

「なにもわからないわよ。こんな子供みたいなことして、私達の命を守ってるつもりになっているやつのことなんて。……他のエクスティンギッシャーの情熱はなくさせることに成功したみたいだけど、私の情熱をなくすことはできないわよ。私は特別に負けず嫌いだから。行こう、ベルちゃん」


 そう言うと、カキはベルとともにその場を去った。


 カセンは「ムカつく、ムカつく!」と地団太を踏んでいた。

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