第四章

一 , 商隊

ルーシャと街を出てから、三日ほど経った。


相変わらず、休みすぎなんじゃないかと思う程に休息を挟みながらの旅路で、僕が思っていたよりも次の街に到着するには時間がかかるらしい。


「ルーシャ、あと何日くらいで着くかな」


何度繰り返したか分からない質問を、太陽がちょうど真上に昇り、木陰の中で座って休みながら投げかける。


「アランはせっかち」


ルーシャはこともなげにそう言うと、水袋を取り出し、一口飲んでから。


「今のペースのままだと、早くて五日ってところじゃないかな。たぶん、六日はかかると思う」


わかりきっていた答えだった。


「何度聞いてもそれは変わらないよね。こう歩いてばかりだと、気が滅入って来ちゃって」


はじめの一、二日程は、目に映るものすべてが新鮮に見え、心躍る冒険の日々だった。


だが、三日も経ち、そしてこのあたりの景色は見渡す限りの草原。やや荒い街道以外、全くと言っていいほど目新しいものはない。


強いて言えば、今背にしている木をはじめとした、小さな森林地帯ぐらいだろうか。


「そういえば、食料は足りるのかな。思ってたより時間がかかってると思うんだけど」


これは初めての問いかけだった。


「わたしはいつも、荷物が増えるからあまり携行食は持ち歩かないの」


服についた草を払いながら立ち上がり、ルーシャは言う。


「だからたぶん、今持ち歩いている携行食だけじゃ足りない」


荷物を入れた革袋を漁りながら、ルーシャはなんの問題もないという風に言ってのける。


「じゃあどうするの」


僕の当然の問いかけに、ルーシャは取り出した荷物――投擲用の短剣ダガーが収められた鞘が複数取り付けられた、革製のベルトを見せながら言う。


「狩りをするの。このあたりに森があることは事前に調べて分かっていたから。危険な魔物も少ないって聞くし、狩り場にはうってつけ」


そう言って腰にベルトを巻き付ける。


「アランも着いてくる?狩りの仕方、旅をするなら学んでおいたほうがいい」


その問いかけに首を縦に振り、僕は荷物が入った革袋を背負う。


ルーシャも自分の荷物を背負い、森へ入ろうかとしたその時だった。ふと、ルーシャが動きを止め、周囲を見渡す。


「ルーシャ、どうしたの」


僕が問いかけると、彼女は僕に、いつもどおりの平坦な声で答える。


「馬の足音がするの。それも、結構な集団じゃないかな」


そう言って彼女が目を向ける先には、複数の馬車が見える。


商人達が安全確保のため、なるべく魔物避けになるよう集団を作って移動する。商隊キャラバンだ。


「狩りを教えるのはまた今度になるかもね」


鞘帯シースベルトを外しながら、ルーシャは言う。


「あの商隊キャラバンに、護衛として同行させて貰えないか交渉してみましょう。商隊キャラバンならわたしたちよりは早く街に着くだろうし、食料も保つ。幸い、行き先は同じみたいだし」


それに、とルーシャは付け加える。


「最悪、食べ物を買うことだってできるかもしれない」


少しずつ、商隊キャラバンが近づいてくる。僕とルーシャは、自分の存在をアピールするように、手を大きく振る。


先頭の馬車に乗った御者がこちらに気づいたのか、手を振り返してくる。


敵意がないことを示すために両手を広げ、商隊キャラバンの接近を待つ。こちらに手を降ってきた御者が、馬車の中にいる人物と会話をしているのが遠目に見える。


やがて商隊キャラバンの先頭と、会話ができる程度の距離まで近づいてきた。


「やぁ旅人さん!休憩中かい?」


御者が笑顔で声を掛けてくる。少なくとも、敵意は感じられない。


「えぇ。これから出発する所だったんだけど、護衛をする代わりに同行させてもらえないかしら」


ルーシャが胸に手を当て、丁寧にお辞儀をして答える。


僕も合わせて腰を折り、御者の顔色を伺う。


「どうもそんなところだろうと思ってね。さっき、商隊長リーダーと話をつけてたのさ」


こちらの様子を一通り眺めてから、御者は再び口を開く。


「少しばかり資金繰りが悪くて、護衛の手が足りてないんだ。金は取らんから、その代わりに護衛をしてくれると助かる」


おそらく、僕らの装備や出で立ちを見て、護衛に足るか判断したのだろう。


…最も、その場合戦力として当てにされているのは僕よりもルーシャのほうだろうけど。


「ありがとう。それじゃあ、馬車に乗せてもらうわね」


こうして、次の街に到着するまでの、商隊キャラバンとの旅路が始まったのだった。

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