十 , 旅立ち

腕を広げ、肺いっぱいに澄んだ空気を吸い込む。


小さなこの街で、唯一外の世界と繋がる門の真ん中。朝焼けを眺めながら、僕は隣に立つ少女に目を向ける。


旅をするには比較的小さな荷物に、腰には愛用の長剣ロングソード。眠たげな瞳に長いまつ毛が特徴の、表情があまり豊かではない顔。


これからたくさんの冒険を彼女と一緒に過ごすのだろう。


胸が踊るような冒険ばかりではないだろう。泥に塗れ、命の危険に晒されることだって多いはずだ。


それでも。


それでも、僕はルーシャと旅がしたい。


ルーシャの助けになりたい。彼女が背負っている何かを、少しでも軽くしてあげられるのなら。それが僕にできるのなら、それをしたい。


「ルーシャ、行こう」


そんな気持ちを込めて、彼女を促す。


「…うん」


ルーシャは頷き、表情を硬くしながら荷物を背負いなおす。


「アラン」


呟くように、こちらを見ずにルーシャが僕を呼ぶ。


「これからの旅、わたしに付いてくると、きっと大変なことが沢山起こる」


ルーシャは、ばつが悪そうにそう言う。


「だから、旅をしていて、不安になったり、旅をやめたくなったり、わたしと別れたくなったら、その時は」


吐き捨てるように、ルーシャは言葉をゆっくりと紡ぐ。


「ルーシャ」


僕はそんなルーシャの言葉を、切り捨てるように彼女の名前を呼んだ。


ルーシャがゆっくりと、不安げな顔をこちらに向ける。


ルーシャの肩を両手で掴む。


「僕は絶対、ルーシャを守ってみせる。そりゃ、今は頼りないかもしれないけど。それでも、僕は今よりずっとずっと強くなって、ルーシャのそばに居続けたいんだ」


真っ直ぐにルーシャの瞳を見つめて言う。


「それが、今の僕のやりたいことなんだ」


そこまで言ったところで、ルーシャがふいと体ごと顔を反らし、僕の手が彼女から離れる。


「…そこまで言うなら、もう何も言わない」


顔を背けるルーシャの耳は、少し赤いように見える。


「…ばか」


ルーシャはそう呟くと、深呼吸をして、再び前を見据える。


「それじゃあ、行こう」


どちらからでもなく、二人でそう言って。


僕とルーシャは歩調を合わせ、この街で唯一外と繋がる門をくぐる。


ここから、僕とルーシャの物語が始まる―――。

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