台風の目
キスかぁ…伯母の予定が変わって、用事が無くなったと喜んでいたらこれだ。私の存在はバレてないが、嫌なものを見てしまった。あれだけ思わせぶりな態度を取っていたのに…連花…あぁもう、禁断の恋なんてクソ食らえだ。しかし負けてばかりではいられない、こちらも動かなくては…
本当は学校を休みたかった。しかし親に心配をかけたくもないので、仕方なく歩いて今は校門の前だ。今はゆずちゃんに会いたくないなぁ…不思議だ、昨日まではあそこまで会いたがっていたのに、今はゆずちゃんと顔を合わせることを考えるのすらしんどい。
「蓮花さん、顔色悪いけど大丈夫?」声をかけられた。見知った声である。
「あぁ、先生、おはようございます」とりあえず挨拶を返す、挨拶は大事だ。
「うん、おはよう」
「それで…まぁ、いいか」先生は何か言いかけて、やめた。
「元気ないね、階段でこけたりしないでよ」そう言って先生は校舎の方に消えていった。
しばらくして気づいたのだが、その日ゆずちゃんは学校に来ていなかった。少し安心なのだが、それでも授業に集中したりとか、友達と会話を楽しむとか、そんなことを出来る気分ではなかった。そしてぼーっとしてる間に時間は過ぎていって、気付けば放課後。昼飯を食べたのかさえ思い出せないのだった。
「帰ろう」ため息交じりに独り言ち、立ち上がり、歩き出す。
校舎を出たところで呼び止められる、まるで私が来るのを待っていたかのように先生が立っていた。
「ここで話すのはあれだから、相談室来てくれるかな?」
先生に話すかは悩んでいたが、先生の方から来てくれるなら、断る理由も無かった。昨日あの場所で声をかけられた記憶がある、恐らく見ていたのだろう。不思議と落ち着いて考えている私がいる、いや、落ち着いているようにも思えるが実際は違うのだろう。
「はい」
私が答えるのを確認すると先生は背を向けて歩き始めた。私はその後を無言でついていく。相談室に着くと、先生は机の向こう側に座る、私は手前側だ。机を挟んで向き合う形となる。私はこの部屋では不思議と落ち着いていて、自然に話始めることが出来た。
「そうか、そんなことが」
私が事の次第を伝えると、先生は小さく頷いたきり黙ってしまった。そしてしばらく俯いて何か思案した後、私に自身の考えを伝えた。
私はそれを聞いてただ無言で頷いた。
「マズったなぁ」私はベッドに腰掛け一人で呟く。勢いとはいえ蓮花にキスしてしまったことを悔やんでいた。落ち着いてくると思考が安定してきて、自分の愚かさに気づく。いくらあんなものを見てしまったからといって、こちらが焦ってしまっては意味がない。
「はあぁ」自然とため息が出る。こうして私が頭を抱えている間にもあの教師は蓮花と話しているのか、恨めしい。
「ははは…」次は自然と笑いがこみあげてくる。自身の性格を自分自身で嘲笑う。学校や他人と会う時はいつも猫を被っている、仮面を付けている。しかし、これから蓮花と距離を詰めていくならば、それを脱がないといけない時がくるだろう。そんな面倒を作ってしまう自分自身がとても滑稽に思えていた。そして、距離を縮めていきたいなら、動かなければいけない。よし明日にでも、「あっ」明日は休日だった。
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