デート未満

翌朝、朝日に頬を撫でられ目を覚ました私は、寝ぼけた目を擦りながら鏡を覗き込んだ。

「あ~、ちょっと残ったか」昨日のことで少し目は赤くなっていたが、少し湿った枕を見ても、枕が泣いてたんだろうと思えるぐらいには、顔も気持ちもいつも通りだった。何故昨日あそこまで考え込んでいたのか不思議になるくらいだ。

「蓮花、朝ごはん出来たよ」母が呼ぶ。返事をして、鞄を持って階段をゆっくりと降りる。うん、いつも通りだ。

今日も父親は早いのだろう、リビングには母親だけだった。それにしても、昨日の夕飯とは打って変わって美味しい白飯だ。一晩寝ただけなのに、ほらもうこんなに良い気分だ。そして私はそんな気分のまま、足取り軽く学校に向かうのだった。


学校の授業は退屈だ。もちろん面白い先生だっている、でもやはり退屈だ。ゆずちゃんといる時に比べたら退屈だ。

友達とのお喋りは退屈だ。もちろん面白い話も多いし、良い人たちばかりだ、でもやはり退屈だ。ゆずちゃんといる時に比べたら退屈だ。

なので今日もゆずちゃんといるのだ。二人で買い物に行くのだ。

「ゆずちゃん!ごめん、待った?」

「大丈夫ですよ。今来たところです」

しまった、何着てくか迷っていたら時間を忘れてしまっていた。遅れを取り返すために風をびゅうびゅう切りながら走ってきたけど、結局少し遅れてしまった。そしてびゅうびゅう風を切るぐらい走ったわけだから、それ相応に服も髪も乱れてしまっている。

「汗凄いですね、走って来たんですか?」

「あれ、走ってる時の風で乾いたと思ったんだけどなぁ」

「今ダラダラ垂れてきてますからね」

ゆずちゃんはふふっと上品に笑う。その笑い方はとても彼女に似合っている。私が同じように笑っても、友人に苦笑されるのが関の山だろう。待ち合わせには遅れてしまったが、ゆずちゃんに笑って貰えたので少し気分も晴れた。


それからの時間は、時が経つのを忘れるほど楽しかった。事実、私は幾度となく自分の腕時計の故障を疑ったし、わざわざスマホで時間を見たりした。しまいにはゆずちゃんに時間を聞いたりもした。その時ゆずちゃんは地球儀型カレンダー(アンティークというやつか)から顔を上げて、私の腕時計を見てちょっと訝しみながらも快く教えてくれた。

「5時半ですよ」

分かっていたがショックである。まだ高校生、ゆずちゃんも私も遅くまで出歩くのは親から許しが出ない。ただ、もう時間が無いなら行くところは一つだ。

「カフェ行こう!」

「そうですね」

ゆずちゃんは快諾してくれる。そう、デートの締めはゆずちゃんと友達になれた例のカフェである。あぁ、そう言えばデートではなかった。でもそれも今だけだ!


夕暮れのカフェでゆずちゃんと二人、奇しくもお友達になった時と状況は同じだった。ではあの時と同じく関係を進展させられるのかというと、そんな意気地は私にはなかった。

「そういやゆずちゃん、今日はどんなもの買ったの?」

出来るのは他愛もない世間話や、雑談だけ…

「そんなに多くないですよ。このカレンダーぐらいです」

「わぁ、なんだかオサレって感じだね!」

と、そんなことを話すうちに時間が過ぎて、もうお別れの時間。時が経つのはとても早い、正に光陰矢の如し。

「もう時間ですね」

「そうだね…」

「私が門限厳しいばかりに申し訳ないです」

「そっそんな、ゆずちゃんは悪くないよ。私の家だって似たようなものだから」

ゆずちゃんはすぐに謝る、自分のせいにしてしまう。それは良くないよ!と伝えたいけど、そんな勇気もない私なのだった。














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