お友達

今、私たちは学校から10分ほど歩いたところにある喫茶店にいる。私たちの学校はさすがお嬢様校というべきか、かなり規則にうるさい。だから午前中に授業が終わる今日、一旦家に帰ってからの集合だ。

「宮部さんはコーヒーがお好きなのですか?」

私たちということは当然、私の他にもう一人いるわけだ。目の前の彼女は積極的に私に話しかけてくれる。

「えぇ、まぁ」

さっきから歯切れの悪い返事ばかりだ、それしか返せない。自然に振る舞いたいのだけど、意識すればするほどに緊張して言葉が出なくなる。

「私はあまり飲まないんです、苦いのでね。子供舌と言うのでしょうか。いつも今のように紅茶ばかり飲んでいます」

そうなんだ、お嬢様だものね。やっぱりお嬢様は紅茶を嗜むものなんだなぁ。

「私は紅茶飲まないなぁ、でも白井さんはお嬢様って感じだから納得だな」

「お嬢様ですか、そんなことないですよ。ただの紅茶が好きな女子校生です。ですので、そんな緊張されなくても良いのですよ」

そう言いながら、彼女は私に優しく微笑みかけてくれた。そしてそのお陰か、今まで緊張でガチガチだった私の心と体から、自然と力が抜けていくのだった。

それから私たちは、学校生活であったたわいもないこと、例を挙げると、授業が絶望的につまらない教師や、多すぎる宿題について話した。私はまだまだ緊張していたので、変な返答や態度があったかもしれないけど、彼女はしっかりと話に耳を傾けて、適度な相づちと話を膨らませる返答を続けてくれた。そして私がほとんど冷めてしまったコーヒーを飲み干そうとカップに手を伸ばした時、「そうだ宮部さん、せっかくこうして一緒にお茶を飲む仲になったのだから、お互いを名字で呼び合うのをやめてみませんか?その方が親しみを持てるでしょう?」彼女は唐突に提案してきたのだ。私が話そうかとても悩んでいたことを、いとも簡単にだ。

「えっ、それはつまり、私が白井さんをゆずちゃんって呼ぶってこと?」

あっ、ついゆずちゃんって言っちゃった。いつも先生の前ではそう言ってたから…

「ゆずちゃんですか、良いですね。じゃあ私は蓮ちゃんと呼ぼうかな?」

良い、とっても良い!!それがいい!!でもそんな心は表に出さず、努めて冷静に。

「うん、ゆずちゃんよろしく」

「はい、よろしくお願いしますね、蓮ちゃん」

こうして私たちは夕日がフロアを赤く染める午後の喫茶店で「お友達」になれたのだった。




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