第12話

「もしもし、薫

もうすぐ誕生日だな。

その日は…やっぱり、ダメだよな?」


「うん…ごめんね。

美香がケーキを作るって張り切ってて」


「だよな。わかった。じゃ、別の日に」


「ありがとう。ほんとにごめんね」


「いいって。じゃ、また連絡する」




2月の私の誕生日

美香はおばあちゃんと一緒にケーキやたくさんのご馳走を作ってくれた


「お母さん、おめでとう!」


「ありがとう」


これ以上の幸せを求めるのは欲張りなのかもしれない。

でも、今の私は彼のいない生活なんて考えられなかった



夜遅くに帰宅

美香は疲れたのか、すぐに眠ってしまった


日付が変わろうとした頃、裕太から電話があった


「薫、誕生日おめでとう」


「ありがとう。裕太」


「なぁ、玄関のドア開けて」


「え?う、うん」


美香を起こさないように静かに階段を下りて、ドアを開けた


「おめでとう、薫」


「裕太ー」


大好きな笑顔を見るとたまらなくなって

彼の首に手を回すと、抱きとめてくれる


外の冷たい空気が一気に入ってくるとともに、裕太の優しい温もりが感じられた


「会いたかったぁ」


「私も」


「顔、見せてよ」


「ぅん」


「また、泣くー」


「だって、今日は会えないと思ってたから」


「誕生日なんだから、何が何でも会おうって思ってたよ。これ、プレゼント」


「えー、ほんとにー!」


小さな箱を開けると、

2月の誕生石アメジストのピンキーリング


「薫、薬指には…結婚指輪してるから、遠慮したよ。

幸せは右手の小指から入って、左手の小指に逃げるって言われてるんだって。

だから…薫の幸せが逃げないように」


そう言って私の左小指に指輪をはめてくれた


「裕太、どうしよう、涙が止まらないよ」


「ほんっと、よく泣くよなぁ、薫は」


「嬉し涙だから、いいでしょ」


「そうだな、ハハ、許す」


「裕太、もう一回、ギュッてして」


「ギュッてするだけ?」


「ん?」


「薫、相変わらず、鈍過ぎ」


顎をくいっと上げられて唇をに吸い付くような深く蕩けるようなキス。

立っていられなくなってふらつくと、腰を支えてくれた


「今日は、無理だよ」


「俺、別に何も言ってないよ?薫、したかった?」


「もうー、ひどい」


「嘘だよ。俺もすっげぇ、薫を抱きたい。

でも、今日は我慢するよ」


穏やかに微笑み、頭をポンポンとして身体を離した


「そんななぁ、辛そうな顔するなよー。

俺だって帰りたくないよ」


こくんと頷いた


「また、すぐに会えるって」


「すぐに?会えるかな?」


「会えるよ。会えなくても、好きな気持ちは全然減らない。何なら倍増するな」


彼に飛びついた


「やめろって。また、帰らなくなるから」


私の腕を掴んで離す


「もう、遅いから。…おやすみ」


髪に触れるだけの口づけをするとすぐに外に出て行った


決心が鈍るといけないから、そう思ったのか、足早に歩き出し、1つ目の街灯のところで振り返って手を振った


私は『ありがとう』『愛してる』と声を出さずに口を動かした


照れ臭そうにもう一度、手を振ると駆けていく背中があっという間に見えなくなってしまった




彼がくれた指輪

紫色のアメジストが月の光に照らされて光ってた


私は右手でそれをそっと撫で

薬指のリングを外した




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