第6話
2学期が始まった
何もなかったようにただ毎日が過ぎて行く
いつもの時間
「お母さん、来週、運動会だよ」
「わかってるって。おじいちゃんとおばあちゃんも観に行くからね」
「うん、ありがとう」
平井先生のことは、きっと、ちょっと淋しかっただけ。
そう、思ってた
思おうとしてた
秋晴れの運動会当日
久しぶりに先生の笑顔を見た
プログラムも順調に進み、教職員PTAの借り物競走
平井先生が出場するよう。
相変わらずの人気で生徒達から歓声が響く
1番で紙を取り、観客席に向かってくる
「“か”のつく名前の人ぉー!」
母が大声で叫ぶ
「薫じゃないの。はーい、ここにいます」
「やめてよ〜」
「何言ってるの、美香も喜ぶわ。走ってらっしゃい」
母に背中を押された時には先生は私の手を取ってた
ゴールに向かって手を繋いで走る
斜め前を走る先生に必死でついて行こう走った
テープを切ったのに止まらず走り続ける彼
「はぁ、はぁ、先生、どこまで…」
何も言わず校舎の裏まで走って行ったと思うと、急に止まったので先生の腕に顔と胸がドンと当たってしまった。
慌てて、離れようとすると握る手に力が入り指を絡められる
「先生、どうしたんですか?」
すると、先生はすっと息を吸って、微笑みながら、こちらに向き直した
「藤咲さんに…お礼を言わないと、と思いまして…。ありがとうございました」
(そっか。それだけ…か…)
馬鹿みたいに期待してしまった自分が恥ずかしかった
「いいえ。だって、あのまま、ほっとけませんよ。あのー、それより、手…」
「名前、薫さん、なんですね。
…薫さん…この手を離したくないって言ったら?」
一気に真顔になった先生は、また、先生じゃない顔になってた
.
.
.
.
泣きそうに見上げたあなたを、本当はさらっていきたかった。
ギュっともう一度握りしめて、細い指を解いた。
「嘘ですよ」
「もう〜、早く戻ってください。
こんなところにいたら、おかしいですよ」
「……ですね」
急いで歩き出したけど、何故か彼女が手を伸ばしているような不思議な感覚を背中に感じて振り返った
壊れそうな笑顔の彼女がたまらなかった
「俺…藤咲さんを抱きしめたこと、ちゃんと覚えてますから」
ほら…また、そんな顔する。
どうして、改めてそのことを告げたのか自分でもわからない
手を繋ぐと、
心が繋がる
そこから、伝わっていく愛しさに
あなたも気付いていたはず
始めようとしても
始まらない恋
どちらが先に心を開くのか…。
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