第7話
藤咲さんへの思いは日に日に増していく
抱きしめた時のふんわりとした柔らかい香りと細く折れそうな身体の感覚がしっかりと残っている
許されることのない人。
世の中に星の数ほどいる男と女が偶然出会い、進んではいけない恋なんてものがあったなんて、
初めて知った
運動会が終わり、季節は秋から冬へ
風が冷たくなった12月
学期末は仕事が忙しくなり、残業し、夜遅くに学校を出た
駅前の繁華街は忘年会をする会社員で賑わいでいた
(腹減ったなぁ)
足早に改札を入ろうとすると、聞き覚えのある声
酔っ払った上司らしき人に誘われてる様子の藤咲さん。
明らかに迷惑そうな顔をしてる
(相手も気付けよな)
「藤咲さん?」
「先生!?」
少し安堵した表情になった彼女
(立場もあるし、揉めない方がいいな)
俺は軽く頭を下げて彼女の手を握って走った
「え?先生?何処へ…」
このまま続く道が何処かに繋がっているような気がした
ただ、走った
何も考えずに。
雑踏をかきわけ、気付くと静かな住宅街の公園にいた
「はっ、はぁっ、先生、早い」
「サッカーやってたんで、これぐらい余裕です。
……手を繋いで走ったの2回目ですね」
「ほんとですねぇ。運動会の時にも。
あっ、ありがとうございます。助けてくれたんだすよね?」
「あー、いえ、藤咲さんが困った顔してたから。相手の方大丈夫ですか?俺、余計なことしませんでしたか?」
「大丈夫です。あの上司、酒癖が悪くて」
真冬の夜空の下
ジャングルジムにもたれて、いろんな話をした
先生の学生時代のこと
私の仕事のこと
…
吐く息が白くなる寒い夜だったけど
心の奥があったかかった
「私、もう帰らないと…」
もたれていた身体を真っ直ぐにして彼の方を向き直した
帰りましょうか…そう言うだろうと思ってた彼が何も言わず、私の両手首をグイっと引っ張って引き寄せた
ジャングルジムにもたれたままの彼と私の膝がピタリと触れ、顔が同じぐらいの高さになった。
思わず俯いた
「俺……藤咲さんのこと………好きなんです」
先生の低い声が耳に心に響いた
「でも…」
本当は1番聞きたかった言葉なのに…。
「わかってます。こんなこと言ったらダメなことは…」
.
.
.
.
彼女は伏せていた顔をしっかり上げて
悲しそうに大きな瞳で俺を真っ直ぐに見つめた
何か言おうとしてる彼女の唇が動き始めるのが…
怖かった
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