第5話
平井先生の熱は高く、夜遅くまで頭を冷やし、汗を拭き、看病した
残暑の厳しい寝苦しい夜、
エアコンを入れていても吹き出すような汗で彼のTシャツはぐっしょりになってしまった
(着替えた方がいいよね)
部屋のチェストボックスに衣類が入っているのを見つけ、先生の体をそっと起こした
「先生、汗かいてるし、着替えましょうね」
「え?藤咲さん…、どうして?」
「どうして?って、覚えてませんか?」
「あー、確か送ってもらって…
俺、変なこと言いませんでしたか?」
「変なこと?」
もう少しだけ…と言ったことは言わないでおこう。
言ってしまうと心が寄り添い始める気がしたから…。
「言ってませんよ。汗かいたから、熱下がったかな?これ、着替えた方がいいですよ」
Tシャツを差し出した
「着替えさせてくれようとしてたんじゃないんですか?」
いたずらっぽく笑う先生
「もう、そんなこと言えるようになったのなら、大丈夫ですね。私、帰りますよ」
真っ赤になって怒り気味に立ち上がった彼女。
慌てて手首を掴んだ
「ごめんなさい。大丈夫じゃないです」
「ほんと?」
彼女はベッド脇に立膝をついて心配そうに顔を覗き込んだ。
何かに吸い寄せられるように彼女を抱きしめてしまった
「せん…せい」
突然起きたことに抵抗する力もなく固まってしまっている彼女。
数秒して包んでいた、か細い身体がすり抜けていった
「やめてください」
「俺、何やってんだ。
熱でおかしくなったみたいですね」
「そ、そうですよ。熱があるから…」
「すみません。
今日はありがとうございました」
「いえ…。ゆっくり、休んで下さいね」
そそくさと帰っていく彼女の後ろ姿を見て愛しさがこみ上げてくる
俺、やっぱり、どうかしてるよ
.
.
.
.
.
車に乗って実家まで帰る少しの時間
動揺している自分を落ち着かせようと何度も大きく息を吐いた
静まり返った実家の玄関を音を立てないように開け、
もう、生ぬるくなってしまった美香へのお土産のプリンを冷蔵庫に入れようとした時、
何故か涙が溢れてきた
彼に抱きしめられた感触が腕に背中に残っている
私…
彼のこと、好きになってる
認めたくない感情に気付いてしまった夜
明日の朝になれば、夢が覚めるんだ
そう思い、スヤスヤと眠る娘の髪を撫で
静かに目を閉じた
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