第4話

1学期が終わり、夏休みに入った

私は仕事があったので、娘は毎日、おばあちゃん家で過ごした


職場と実家、自宅を行き来する変わらない日々

もちろん、平井先生と会う機会もなく、長い夏休みも終わろうとしていた



いつもの帰り道

美香の好きなプリンを買って家路を急いでた。



信号待ちをしたその先に先生の姿を目にした。

かなり、具合が悪そうな様子でふらりふらりと歩いてる。

私は車を路肩に停めて声をかけた



「平井先生!」


振り向いた顔は真っ青

慌てて駆け寄った


「どうしました?顔色が…」


「いや、ちょっと風邪ひいたみたいで病院へ行ってたんです。大丈夫です。家はもうすぐそこですから」


「乗ってください。送ります」


「いえ…」


「そんな状態で放っておけません。遠慮せずにどうぞ」


背中に手を回して車に乗せた。

助手席に座った先生は苦しそうに小さな声で何か言おうとしたが、声にならず目を瞑った


「先生、お家の場所は?」


「あっ、ふぅ、そこを…」


どうにか聞き出して、部屋まで連れて行った


「本当に1人で大丈夫ですか?」


「はい、お世話になりました」


頭を下げてそのまま、私の方へ倒れかかってきた先生をしっかりと抱きとめた


「熱い、やっぱり大丈夫じゃないですよ」


覆いかぶさった先生を引きずるようにして、ベッドに寝かせた



「もしもし、お母さん、あのね…職場の後輩が具合悪くなって…。遅くなるから、美香のことお願いします」


母に嘘をついた


辛そうに浅い息をする平井先生の顔を見つめながら、嘘をついたことの罪悪感と彼の側にいたいという初恋にも似たような小さな思いが複雑に心の中で入り交じってた


汗で光る額を拭うとうっすら目を開けた彼が私の手を握りしめた



「もう、少しだけ…ここに…いてください」




夕陽を並んで眺めた時

私が願ったこと


もう少しだけ…


私達が幾度も願ったその思いが点々と繋がって、1本の糸になったのかもしれない


私は熱い手を握り返してた



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