第24話 タタラ盗賊団討伐クエスト2
「おっ、馬車が出るみたいだぞ、かなめ、師匠気をつけてな」
「うん」「ばいばいね~」
天志達に見送られて樹神とかなめの乗った朝一番の馬車が出発する、天志達はその後を距離をあけてついていく。
「あの馬車結構速いから見失わないようにしないとな」
「え!速いのか?」
菊之助が驚く、15人から20人を乗せ、一緒に荷物も運ぶ、それを二頭で引っ張て行く馬車だ、そこまで速くないと思っていたみたいだが、天志は一度乗っているから知っている、あいつのスピードを・・・
「樹神ちゃんこの馬車速いね」「うん、コダマンこの前も乗ったんだ」
かなめが馬車の速度に驚いていると、隣に乗っていた優しそうなお婆さんが声をかけてきた。
「お嬢ちゃん馬車は初めてかい?」
「はい、今日が初めてです」
「そうかい、ならこの速さには驚くわねぇ」
お婆さんは色々話してくれた、昔は冒険者だったことや、グリーフ以外の国の美味しい食べ物のこと、お婆さんには樹神やかなめくらいの孫がいることなど、今日はその一番下の孫の誕生日で、孫の好きなお菓子をセルタに買いに行くらしい、とても嬉しそうに孫の話をしていた。
「お婆ちゃん先生」
樹神がつぶやいた。
「何か言った樹神ちゃん」「えっ!ううん、何でもない」
お婆さんと話していたら何事もなく30分位でセルタに到着した、グリーフ城からセルタまでは歩くと6時間位かかるので物好きじゃない限り歩いて行き来する人はいない。
「お婆さんまたねっ」「ばいばいね~」
「ええ、かなめちゃん、樹神君また会いましょうね」
樹神達はお婆さんとわかれ天志達を待つ、しばらくすると天志が到着し、それに続いて咲と菊之助が到着した天志も息が上がっているが咲と菊之助ほどではない、菊之助に至ってはダース・ベ〇ダーのような呼吸をしている。
「これは、はぁはぁ、想定外ね」
咲が呼吸を整えながら話す、そう盗賊団が襲撃してこなかったのだ。
襲ってこないという選択肢を入れていなかった、切れ者の咲ですら考えていなかった想定外の出来事だ、だが少し考えれば納得のいく話である。
樹神達の乗った馬車は朝一番の馬車だ、8時過ぎにグリーフ城を出発し9時前にはセルタに到着する、普通と言えば普通だが相手は盗賊だ、朝7時前に起き、顔を洗って歯を磨き、行ってきますと、8時出勤、朝のミーティングをし、今日のノルマは馬車5台はいきたいですね、それでは皆さん今日も張り切っていきましょう、何て元気よく来るはずもなかった。
そしてもう一つの想定外は馬車のスピードだ、天志は一度経験しているが咲と菊之助は初めて見るから度肝を抜かれていた、グリーフ城からセルタまで片道25キロ位、それを30分程で移動するのだ、時速にすると50キロ近いスピードで走り続けることになる。
冒険者としてかなりのスピードで成長している天志達でもかなりきついマラソンだったようだ。
「みんな大丈夫?」
かなめが声をかける、樹神は初めて来る町で早くどこかに行きたそうだ。
「ああ、俺は大丈夫だ」「私は少し、はぁはぁ時間を頂戴」「コォーホー、コォーホー」
菊之助はダメそうだ、その場でしばらく休み、息が整ったところで作戦を立てる。
「大失敗ね、私も盗賊の活動時間まで計算していなかったわ」
「あの馬は、コォーホー、計算外だ、ハヤコォーホー」
何を言ってるかわからない為無視される。
「さすがに午後になれば盗賊も襲ってくるだろ」
天志が言う
「そう願うわ、この後は午後までここで情報も集めながら待機して、午後の馬車で再挑戦といきましょ」
全員が頷く、天志達は情報収集と干上がった喉を潤すため酒場に向かう、酒場では色々な情報が入った、盗賊は午後から出る馬車を全て、ここ一週間は毎日襲っているらしい、まだ死人は出ていないが怪我人の数はかなりいるようだ。
その為午後からの馬車には数日前から冒険者を護衛として二、三人クエストで雇っているらしい、後、盗賊は10人位で馬を使って襲ってくることがわかった、その情報をもとにもう一度全員で話し合う。
「想像以上に暴れているようね、最近になって暴れだしたと言うのが気になるけど」
「かな達はまた馬車に乗っていけばいいの?」
「護衛の方も大変そうだけどそうして頂戴」
「わかった任せて」「コダマン了解」
「さっき走った感じからして私達はもう少し距離をとった方がよさそうね、思いのほか見通しがよかったから、相手からも私達が見られる可能性があるわ」
「そうだな、でも今来た道で盗賊が隠れそうな場所って言ったら、この前のキングゴブリン倒しに行った森くらいだよな」
「そうね天志、私もあの森が怪しいと思っているのよ」
天志達は今集めた情報と、一度通った道の感じを照らし合わせ、作戦を詰める
時間は過ぎ午後の馬車の出発だ、樹神とかなめが乗り込む、朝一の馬車に比べて乗っていく人は大分少ない、最近の盗賊騒ぎで皆早い馬車に乗るか、移動自体を控えているようだ、それでも荷物は載せているので、盗賊の獲物としての価値は十分ある、むしろ人より荷物の方が盗賊からすれば価値が高い。
「あら、こんなにすぐに再開しちゃったわねぇ」
さっきのお婆さんが乗っていた
「お婆さんもう帰るの?」
「ええ、早く帰って誕生日の用意をしなくちゃいけないからね」
かなめは盗賊が出ているから危険だと言ったが、お婆さんからしたら孫の為の買い物だ、そして誕生日は今日なのだ、今日帰らなくては意味がない、大事そうに、そして嬉しそうに抱えているバックの中には、孫へのプレゼントが入っているに違いない。
「おばあちゃん、ワルモンきたら、コダマンが守ってあげるからね」
「あら、優しいのね樹神君は、頼りにしてるわよ」
「うん、まかせて」
樹神はお婆さんと居る時はいつもより何か嬉しそうだ、そして時折普段見せたことのない、寂しそうな顔をしていた。
そんな時だ、天志の言っていた森の横を通り過ぎようとした辺りで、かなめが「樹神ちゃん来るよ」と声をかける、その後護衛で一緒に乗っていた冒険者の一人が声を上げる「出たぞぉ、盗賊だ」十人程の馬に乗った盗賊が森の中から次々現れた、樹神達も立ち上がり武器を出す。
盗賊が矢を撃ってくる、数本が馬車のキャビンに突き刺さる。
キャビンと言っても女王様が乗っているような豪華に装飾され、ドアの着いたボックスタイプではなく、椅子の背もたれに使われる位の柵と、上からの雨がしのげるだけの布が貼ってあるだけで、回りはがら空きだ、護衛についている冒険者の数は三人、そのうちの二人が弓で応戦し、一人は近づいてきた敵を撃退するために剣を抜く。
かなめも虚空(コクウ)で敵を撃つ、しかし揺れる馬車でなかなか狙いが定まらない、「駄目当たらない」
それでも何度も撃ち続ける、盗賊の何人かは馬から落ちたり、落馬しないにしても矢が刺さりスピードが落ちる者がでてきた、馬車の方は何本も矢が刺さっているが怪我人は出ていない、そして流石に普通の馬より速くて大きいだけあり、徐々に盗賊との距離が開いていく、その時、何かを踏んだのか馬車が跳ね大きく揺れた。
お婆さんの持っていたバックが宙に舞う、それを必死に掴もうとお婆さんが立ち上がった時、もう一度馬車が揺れた。
樹神はお婆さんに矢が当たらないように、お婆さんを背に盗賊と向き合っていた、その為気づくのが少しおくれた「おばあちゃん」樹神が手を伸ばすが、樹神の短い腕は届かない、お婆さんがバックと一緒に外に放り出された、馬車は停まることなく走り続ける。
「糞っ、昨日より護衛が増えてやがる」
「今落ちたババアの荷物だけ取って一度戻るぞ」
「失敗かっ、ああああムカつくぜ」
「あのババアはヤっちまっていいよな、イラついてしかたねぇ」
「俺もだ」
「じゃ全員で矢で串刺しにしちまうか」
「落っこちてもう死んでるかもしれねぇけどな」
無傷で追いかけてきていた盗賊が六人でお婆さんに近づき、少し離れた場所から全員で矢を放つ!
キンキンキンキンキンッザク
「おばあちゃんに近づくなっ」
そこには、お婆さんの前に小さく立つ、樹神の姿があった。
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