第18話 かなめに芽生える恋心

 不意に強い風がふく、ゴブリンの体が宙に浮き隣のゴブリンにぶつかる、二匹共霧にはならないが、その内の一匹を、咲の鞭が追い打ちで霧にした。

 全てのゴブリンの視線がそちらに向く、中にはその方向に駆け出す者もいる、天志達が計画を練った場所を六時だとすると、咲は九時の位置に場所を移し、ゴブリンに向かって孔雀(クジャク)を振るっていた、戦闘開始の合図だ。


 合図とともに天志が三時の方角から、菊之助が六時の方角から同時に飛び出す。

 ゴブリンは皆咲の方向に気を取られていたためカウンターの形になる、驚いたゴブリン達は持ち場を離れ各々一番近くの敵の方に走っていく、こうなるともうキングゴブリンが統率できる状態ではない、そうでなくても知能の低いゴブリンだ、細かい指示は理解できない。


「全部こっちに移動したぞ」


「ええ、よくやったわ菊」

 キングゴブリンを取り囲むように円状になっていた陣形が形を崩し、三時六時九時の方向に集中する。


「このままデブリンもやれそうじゃん」

 天志がゴブリンを霧にしながら、キングゴブリンに近づいていく。


「天志それ以上近づかないでッ」


「わかってるよ」


 キングゴブリンは菊之助の方を見ながら、大きな石でできた棒を持ち上げ立ち上がる。

 その時!ヒュオオオンッ!と音をさせて十二時の方角から先ほどかなめの放った矢の五倍はある大きな矢が、キングゴブリンの座っていた椅子をチリにし、キングゴブリンの背中に命中した!キングゴブリンは緑の血を吹き出しながら前のめりに吹っ飛んだ!


 かなめを見ると70cm程だった虚空(コクウ)が倍位の大きさになり、弓の下の部分・(モトハズ)が地面に突き刺さり固定され、そこから特大の矢を放っていた。


 だがキングゴブリンは霧にはなっていない、「あれでダメなの、最高出力なんですけど」かなめは驚きを隠せない。

 キングゴブリンは、のそぉ~と立ち上がり、「ギギャアアアァア」と雄たけびを上げた。

 次の瞬間!、かなめに向かって物凄いスピードで突っ込んでいき石棒を振り下ろす、動けるデブだ、いや動けすぎるデブだ、デブの中のデブだ。


「かなッ!」

 咲が叫ぶ


 天志がかなめを助けようと瞬時に動いていた「間に合わねぇ」天志はその場から風雅で攻撃しようとする。


「キャーー」

 かなめが叫んだその時、ガッキーーン!キングゴブリンの巨体から振り下ろされた石棒を樹神が受け止める。

 かなめは両手をクロスさせて防ごうとしていたが、直撃を喰らっていればひどいことになっていただろう。

 樹神は咲とかなめの間の位置で待機していた、咲が樹神をできるだけ、戦闘に参加させなくてもいいようにと、それと咲はかなめの一撃で終わると思っていた。


 だが樹神はかなめの一撃をキングゴブリンが受けた瞬間反応した、かなめに攻撃が来ると嗅覚で感じ、天志よりも早く動いた、「ボクすごいでしゅね~」の領域は遥かに超越している。


「コダマンの彼女に手を出すな」

 天志もかなめを助けようと駆け出していたが、樹神の方が速かった、そのセリフどこで覚えた樹神、でもカッコいいぜ樹神さん。


「コダマンが相手だ」

 そう言うと樹神はキングゴブリンの石棒を振り払う、石棒は弾き飛ばされ転がり、天志のすねにあたった。


「いってぇーー」

 天志が苦悶の表情でうずくまるが、皆大したことないとわかっている為気にしない、目の前の残り数体になったゴブリンを倒していく。


「コダマン行きまーすっ」

 樹神は美雷(ミカズチ)を振りかぶり飛ぶ、キングゴブリンの頭を狙うが、キングゴブリンも両手で受け止めようとする、だが樹神の攻撃にはガードも関係なかった、両手で受け止めた瞬間地雷が走る「ぎぃいぃいぃ」という声をあげキングゴブリンは霧となった。


「師匠スゲーぜ」

 菊之助がそう言った瞬間、菊之助達の回りに残っていた数体のゴブリンもバチッっと音がして霧になった。


「え!?」

 天志を除く三人が言葉もでない。


 天志がクエストカードを確認する、カードの回りが青に変わっていた、キングゴブリン討伐クエスト達成だ。

「なっ、言っただろ樹神はスゲーって、それと今のでクエスト達成したみたいだ」


「かな立てる?」

 樹神はかなめに手を差し出す、差し出した手は座り込んでいるかなめの目線より低い位置だ。

 かなめは手を取らずに樹神に抱き着いた。


「樹神ちゃんありがと、恐かったよ~」


「女の子は、男の子が守ってあげないといけないんだっ」

 この時かなめは樹神に恋をした、カワイイという感情から、好きという感情に変わっていた、年の差なんて関係ない。


「やっぱ師匠はスゲーぜ」「樹神すごいわね」

 菊之助が師匠と呼んでいるのが樹神だということを、この時みんな理解した。


「終わったみたいだな、思ってたよりは早かったな」

 ヒースとリンがタイミングよく表れた、どこかで天志達を見ていたのだろう。


「皆すごかったね、特にコダマンは良かったよ~」


「コダマンツエーからね、ふふふ」


「そうだな、樹神の反応速度と攻撃力は中々のものだ、咲は作戦参謀としての素質があるな、状況、地形をよく理解している、かなめは敵の察知能力に優れてるようだし、あのキングゴブリンへの一撃は良かったぞ、ただその後油断したな、終わりだと決めつけずに選択肢を二つか三つ考えるように、天志と菊之助は切込み役としてはかなりのものだが、選択肢が0だと言うのは考え物だな、イノシシか?まっ初めてのパーティー行動としては一応合格だ」


 ヒースは天志達の戦いを見て色々分析していたようだ、さすがに年を取っているだけの事はある。


「今日はコレで終わりか?」

 天志が訪ねる。


「結構疲れたぜ」「かなも」「そうね」


「お前ら最初に言っただろ疲れたなんて言わせねぇって、まだ終わりじゃないからな、帰って城の裏側にある国家直属冒険者、通称国冒の専用ダンジョン予約しといたから、今日はそこを地下三階まで行ったら終了な、予定より早くクエストが終わったから、頑張れば日付が変わる前に終わるぞ」


「マジかよおっちゃん」「かな死んじゃうよ」「シャワーを浴びて休みたいわ」

 三人はかなり参っていた。


「俺はまだまだやれるぜ」「コダマンも」


「テンテンとコダマンは元気だね、帰ればお昼過ぎだから、どこも空いてきてると思うし、お昼ご飯食べてもう一頑張りだね」


「とりあえず帰るか」

 天志の一言で三人は重い腰を上げる、天志達はこの後、グリーフ城に戻り昼食をとってから、国冒専用ダンジョンへと向かうのだった。



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