第12話 先輩による座学
全員の能力試験が終了し、いよいよ午後から座学が始まるという時間。ヒロたち十三班は昼食を終え、訓練施設内の教室に来ていた。
魔力測定の結果からか、訓練生の中でフェテレはちょっとした有名人になっていた。
しかし、フェテレは明らかにキチガイ。
話しかける奴など皆無だったが、珍しく、一人の
「フェテレちゃん、すごかったね!どうやってあんな数値出したの?」
引き寄せられるような笑みを浮かべた彼女はずいぶんと好意的だ。
だが、フェテレは彼女の態度なんてお構いなしに、
「そんなところに突っ立ってると邪魔だ。
と突き放すように言ってみせた。
他人は自分の鏡だというが、その言葉は神様には当てはまらないらしい。
「ごめんなさい。この子、人と話すのに慣れていないの」
シオンがフォローを入れるも、女の子クライマーはバツが悪そうにしている。
「そ……そっか……こちらこそごめんなさい。それじゃあ私は席に戻るね」
「おう、わざわざありがとう」
女の子はしょんぼりと力ない背中で去って行ってしまった。
本当に申し訳ない。
「フェテレちゃん、もう少し仲良くしたら?」
もうニックもフェテレのコミュニケーション能力が著しく低いと察しているのだろう。善意でフェテレに助言していた。
「何を言う。どうせ半年後には別々になる奴だぞ。ここで馴れ合ったところで利などない」
「うーん…………そうかもね!」
ニック投げやがったな。
五人が席に着くと、もう午後の授業の時間だった。
しばらく生徒達ががやがや騒いでいるとドアが開いた。
彼女を見るやいなや、あちらこちらで生徒達がどよめく。
入ってきたのは、若さを留めつつも大人びた麗人。切れ長の目は知性を感じさせ、白いインナー、紺のアウターやボトムがそれにぴったりと似合っている。
「すげー!イレーネだ!!」と単純にテンションを上げて喜ぶ猿みたいな奴もいれば、感動のあまり泣き出す奴までいる。
動物園のように収まりのつかない教室。
しかし、騒ぎをもたらしたのが彼女なら、静まりかえらせるのもまた本人だった。
「――――すまない、静かにしてくれ。後でメイサ教官にあんまり怒られたくないだろ?」
訓練期間中というのを思い出したのか、訓練生達は冷や水をぶっかけられたようにさっきまでの空気が萎縮していった。
「朝からの訓練ご苦労だった。午後からはジグラットとPMAについての基礎を学んでいく。私は座学担当のイレーネ・オリオールだ。本当はここの講師ではないんだが、今回は100周年のサプライズで特別に講師をやらせて頂く。よろしく頼む」
特別講師のイレーネを後ろの席から眺めるヒロはニックに尋ねた。
「おいニック、誰だか知ってるか?」
「イレーネ・オリオールだぞ。知らないのか?」
ニックはこちらを見返すと、怪訝そうな顔をする。
「悪いが興味がなくてな」
「……私も知らない」
ミリエッタもヒロと同じだった。エルフの里にはあまり情報が入ってこないのだろうか。
周囲の反応から浮いた二人にシオンが言う。
「有名なクライマーズチームの一員よ」
「そう、あの人はトップの中でもさらにトップのクライマーズチーム、『セブンアーク』の司令塔イレーネ・オリオールさ」
「最近の新階層開拓はもっぱらイレーネさん達がやってるし、今最も勢いのあるチームっていったら、間違いなくセブンアークでしょうね。それくらいすごいチームの指揮官よ」
シオンとニックがイレーネの凄さを伝えると、フェテレが余裕をぶっこいて
「どうせあいつもディスチャージはワタシ以下なんだろ」
と調子をこいた発言をする
「詳しくは知らないけど、一級のトップなら6000~7000くらいはあるんじゃないかしら。それに、ディスチャージ=強さでもないから、フェテレちゃんより下のディスチャージだろうとあんまり舐めてかからない方がいいわよ」
「なんだ、ワタシへの負け惜しみかシオン?」
「違います!」
「そこ、お喋りもほどほどにな」
少々声を荒げすぎたシオンにイレーネが注意をすると、シオンは立ち上がって深々と頭を下げた。
「申し訳ございません!」
「私の時はそこまで謝らなくてもいいよ。座って」
「は、はい……」
シオンは顔を赤らめ、恥ずかしそうに着席した。
フェテレはシオンが怒られてご満悦な様子だ。
「プークスクス。怒られてやんの」
「ちょっと今のムカついたかも」
「もうやめとけ、座学始まってるぞ」
ヒロたちはイレーネへと視線を移した。
「さて、今日はダンジョンの基礎を学んでいく。と言っても、測定で疲れてるだろうから、今日はできるだけ触りの部分だけ話しておく。導入の話だと思ってくれ。ます成り立ちから話すけど、途中でPMAについても軽く触れておこうか」
イレーネは
「君たちのよく知るジグラットだが……このダンジョンの始まりは200年前。空から降ってきてこの地に突き刺さった。それから
イレーネが教室を見渡すと、訓練生の一人がはきはきと告げる。
「急激に広まっていったモンスターたちの死骸が土地を肥やすことに気づきました!」
「そうだ。このことが当たり前に知られると、地上にいたモンスターたちが狩り尽くされることになった。モンスターを確保していればその土地の収穫は
フェテレが追放されたのはこの一件が原因だろう。
「お前がゲーム感覚で遊んでたせいじゃねえか」
「仕方ないだろ。そこまで想像つかなかったのだ」
フェテレがぐちぐち言い訳を述べる中、イレーネは講義を続けていた。
「災害で地上のモンスターもいなくなってしまうと、エネルギーを確保できるのはこの街のジグラットだけ。各地からは人々が宝の山目当てにやってきてアトラポリスはさらに繁栄した。この世界の全てが集まる街アトラポリスは技術も
パーティーごとに話し合いが始まり教室がざわつく。
ヒロたちのパーティーで最初に口を開いたのはシオンだった。
「ここ百年って言うと、やっぱり魔法かしら」
「……本来エルフだけのものだったが、人間も……魔力の弱い私でも使えるようになったしな」
「じゃあやっぱりPMAかな。僕が引きこもっていられたのも、凄まじい規模のPMA市場のおかげだし」
「俺もPMAが一番に思いついた」
結論を出した頃には話し合いの時間も終わり、様子を伺っていたイレーネが再び話を始めた。
「灯りや製鋼技術もあるようだが……だいたいがPMAみたいだな。これがなかったら10階層、いや、5階層までしか登れないだろうな。80年前にPMAが生まれたことで……上の階層まで開拓が進んでいったんだ。本来、人間は魔法を使うことができない。しかし、モンスターから抽出された魔力をエネルギー源とすることで人間もエルフたちのような魔法を行使できるんだ。今日も魔力測定で軽く触ったと思うが、カートリッジがエネルギーの源となっていて……それをPMA本体内部の
「……はい、質問です」
ミリエッタが手を挙げた。
「後ろのエルフの子、どうぞ」
ミリエッタは立ち上がり、イレーネに声を飛ばす。
「……先ほど魔力測定でディスチャージ量を計測したのですが、ディスチャージとは具体的に何の数値でしょうか?……加えて、ディスチャージに関する能力は
「よく勘違いする子もいるし説明しておこうか。質問ありがとう。座っててくれて大丈夫だ」
「……はい」
「始めに言うと、これは君ら自身の持っているエネルギー量のではない。カートリッジ一発分の全魔力、その何%を一点に集められるかという能力だ。さっき数値が低くてがっかりした生徒もいるかもしれないが、使い込むことで力は伸びていく。それに、
「「「はい!」」」
まじめな訓練生たちが返事をする。
「私は45%くらいでディスチャージが6900前後だ。逆に言えば、カートリッジ一発分のエネルギー量は1万5000ということだな。さて、ダンジョンの話に戻ろうか。ジグラットはまず開拓層と未開拓層の二つに区分され、開拓層が現在四つに分けられている。フェイズ1、フェイズ2、フェイズ3、フェイズ4だ。フェイズ1は1階からは8階。PMAなしの時代でも歴戦の戦士ならぎりぎり登ることのできた階層で……」
彼女が時間かけて丁寧に講義を済ませると『詳しい説明はまた後日、今日は早めに終了するからゆっくりしてくれ』と言い残して座学を終えた。
そうしてイレーネ・オリオールは教室を出て行った。
今にして思えば、授業も久しぶりだったな。
仲間とこうやって受けるのも案外いいかもしれないと思いながら、ヒロは自室へと帰るのだった。
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序盤に戦闘もなくてつまんないかなと
4.5話としてシオンの戦闘を挟みました
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