第11話 能力試験② 魔力測定
全員の体力測定が終了して小休憩を取ること15分。メイサ教官のもと、学生たちは塔の訓練施設の一画である屋内の魔法射撃場に連れてこられていた。
ちょうどボーリング場のようにレーン分けされた無機質な銀色と灰色の頑丈そうな広大な部屋。ほとんど丸みの無いデザインは機能だけを重視して作られたからだろう。
そして、訓練生の列の前で腕を組んだメイサ教官がやたら反響する声で怒鳴る。
「いいかクズ共!今から行うのは魔力測定!さっきの腐れまな板みたいな鈍くさいノロマでも魔法が一級品なら評価も覆る!!逆に言えば、頭が筋肉の脳筋野郎も魔法の能力次第ではクソマヌケ呼ばわりだ!!気合い入れてやれ!!!」
メイサ教官はフェテレを名指しでバカにしながら魔法の重要性を説くと、ヒロたちのやることを説明していった。
一方フェテレは自尊心を傷つけられたのか、顔面を盛大に歪ませ、音が出そうなほど歯噛みをして怒り狂っている。
耐えろ、フェテレ。
しばらくして説明が終わると、
「よし!班でまとまって測定を受けろ!!」
「「「アイマァム!!!」」」
と何回もやった返事をして訓練生たちは散らばっていく。ヒロたちは一番端のレーンで測定だった。
最初の測定はニックで、このレーンに付いてくれた教官の一人が改めて丁寧に教えてくれる。
「まずはPMAをつけてからこの魔力球マジックボールに魔力を放ってくれ。カートリッジがしっかり装弾されてるか確認してからやるんだぞ」
「アイアイサー」
ニックがもたつきながらも、アームカバーをした腕の上に機械のついたガントレットを装着している。
それを眺めるヒロの横ではフェテレがシオンに尋ねごとをしていた。
「シオン、あの機械は何なんだ」
「あれはパーソナルマジックアンプ。略してPMA。ちゃんと聞いてた?」
シオンは迷い無く答えるとフェテレに質問を返す。
「全く」
と淡然に言うフェテレ。それにシオンは思わず
「まじかー……」と少し頭を抱えてから、
「それじゃあ、もう一回私が話すから聞いててね」
「おう、任せておけ」
フェテレの失礼な態度を見てヒロがサイレントでシオンに謝ると、彼女は”いいよいいよ”と軽く手を振ってフェテレに教え始めた。
「あの機械は私たちが備えている魔法の力を増幅して攻撃手段にするための装置よ。使い捨てのカートリッジを込めてから意識を集中させると、私たちでも魔法が使えるの」
「わざわざ無駄撃ちする必要もなかろう」
「……エネルギーは魔力球が吸収するから……無駄撃ちじゃない」
フェテレの後ろで口を噤んでいたミリエッタが簡単に論破すると、シオンも加えて助言をする。
「そうね。それと、カートリッジ一発でどれだけのエネルギー量を生み出せるか知っとかないと死にかけるよ?」
「塔エアプが何偉そうに言っている。」
「エアプ?」
いいとこ育ちっぽいしシオンの今までの生活には関係の無い単語だったかと思いながらヒロは補足した。
「知ったかぶりするなってことだよ」
「なるほどね」
そうこうしていると、前の方から教官の声が聞こえてきた。
「ニック・ディケンズ、53ディスチャージ。そのまま隣のレーンで試し打ちに行っていいぞ――次。」
「ニック君が終わったみたいね。ちょうどいいからそこで見ててよ」
シオンは板に付いた動作で訓練用のPMAを装備し、魔力球の前に立つと、教官が合図をする。
「よし……始め!」
開始を告げられると、シオンはカートリッジをPMAに装填してトリガーを引いた。
それから3秒も後には、彼女の左手に青く澄んだエネルギーが沸き上がっていた。
次々と溢れ出る水流のようなそのエネルギーは時間をかけて魔力球に吸収されていった。
「シオン・キサラギ、430ディスチャージ。
「ドヤ顔で行った癖に大したことなさそうな数字だな」
「よく考えろ。ニックの8倍の数撃てるんだぞ」
「……確かに、すごい」
感心したのはヒロとミリエッタだけでなかった。
興味深い目で品定めしていた教官もシオンを声をかけた。
「君、初心者じゃないな?」
「随伴でけっこう潜ってましたので」
「なるほどな……どうりで――――じゃあ次。」
「俺か……」
ヒロはガチャガチャと音を鳴らしてPMAを装備し、魔力球の前に進み出る。
「よし…始め!」
「ホールドモードだな、よし」
操作はすべて利き手。
カートリッジを装填すると
PMAが熱を帯びた。
まるで生きているかのように重量のある鳴動。
身体と一体になっていくガントレットは、自分の中にある全部をさらって行きそうなほど力強かった。
意識を左手に集中しろ!
「ここだ!」
カートリッジに蓄えられたエネルギーがヒロの魔力に従って変容し、曖昧な緑色をしたエネルギーが左手に固定された。
「よっしゃ!」
「気を抜くなよ。そのまま意識を集中し続けろ」
「イェスサー」
次々と産み出される力が魔力球に吸収されていく。
それから10秒ほどすると、カートリッジのエネルギーが底を尽いてエネルギーが出てこなくなった。
教官が魔力球を確認する。
「よし、76ディスチャージだ。中々じゃないか」
「感謝します、サー」
ヒロはカートリッジを抜くと、隣のレーンへ移動した。
◇
測定を終わらせたヒロは、隣のレーンのニック、シオンと一緒に試し撃ちをしていた。
モンスターと戦うわけだから、ホールドモードでずっと手元に固定しても永遠に倒せない。そのため、さっきのホールドモードからバーストモードに切り替えて魔法の発射を行うのである。
しかし。
「くっそ……こんなの当たるわけないじゃんか」
そう言いつつ、ニックは空のカートリッジを回収箱に捨てていた。
ニックとヒロの二人は魔法をレーンの前方に飛ばすものの、的には全く当たってくれないのだ。これで魔法射撃の試験なんかあろうものなら結果は惨憺たるものだろう。
「これ、難しすぎないか」
男二人がぼやいていると、今まで見守っていたシオンが口を開いた。
「たぶん後でやると思うけど、魔法を撃つ前には予行魔力ってのが出てて、弾道を強くイメージして撃たないとまとまった方向に飛ばないの。私も最初はできてなかったから大丈夫よ。」
「フム……一日目だしそれもそうか」
「けど、最終的には動く的を狙えるようになんないとね」
「だってさニック。できそうか?」
「あんまり舐めるなよヒロ。そんなの到底無理に決まってる」
「だよな」
「――――お疲れさま」
いつの間にかヒロの背後にいたミリエッタは平坦な口調でそう言った。
「エッたんおつかれ」
疲労のせいで中途半端ににへらあ、と締まりのない笑みで出迎えるニック。
「なんだそのキモいあだ名」
「いいだろ?なんかミリエッタちゃんも馴れ馴れしいし」
「たんの方は馴れ馴れしいどころじゃないと思うぞ」
そんなとりとめのない話が始まろうとしてしまったとき、タイミング良くシオンが話題を変えてくれた。
「ミリエッタさん、測定どうだった?」
「……38ディスチャージだった。微妙だな」
「普通くらいの数値だろ?」
見る限りで他の訓練生の数値は30~60、決して悪い数値ではない。
「そうね。変換効率は伸びていくものだから今の数字を気にする必要ないわ」
「ふむ、そうだろうか…………それより、次はフェテレだぞ」
ミリエッタが元いた方向を指差す。やはり全員気になるのか、揃いも揃ってフェテレの方に顔を向けるのがヒロはなんだか滑稽だった。
フェテレはPMAの装着を終えて、今から測定のようだ。
「よし……始め!」
フェテレがカートリッジを込めればPMAが鈍く唸りを上げ、左手には揺らめく紅色のエネルギーが姿を表す。それはみるみると魔力球に吸い込まれていく。
時間が経つにつれ魔力球にエネルギーが溜まる。
しかし、フェテレのPMAの勢いは一向に止まらない。
「はぁっ!?」
教官の顔に、明らかに驚きの色が見える。
どうかしたのだろうか。
「どうなってるか分かるかシオン?」
「もう私よりディスチャージ出てるよ…………フェテレちゃん」
「嘘だろ?」
「本当よ」
開始から15秒後
「よ……4280、ディスチャージ!」
教官は、そう宣言した。
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