Garden/食用少女たち
@sakasakurage
食肉育成施設に関するレポート①
§序
酪農に関する施設全般は牧場と称されるのが一般的であるが、昨今増えつつある食肉用の育成施設については俗にガーデン、「庭」と呼ばれることが多い。肉の仕様上、育成と同時に教育を施すことが必須であり、施設はほとんどが専門の教育機関を有し、またそれに携わる数多の人員を抱えることになるため、育成施設とその周辺はあたかも古来見られた学園都市の様相を呈する。あくまで出荷されるまでの限られた期間ではあるが、肉たちはそこで食肉としての正しい教育を受け、同期と友愛を育み、女学生さながらの日々を過ごす。それはまさしく彼女たちにとっての箱庭なのである。
§教育
・すべての根幹は「美味しい肉を作ること」
そのために肉は心身共に健康でなければならない。衛生面はもとより、できる限りストレスのない環境を用意し、また適切なケアを心がけること
・食べる側食べられる側双方が互いに感謝と尊厳を持つこと
肉側の教育においてこれはほぼ成功していると言える。「食べられることへの感謝」と「美味しい肉になること」は彼女たちの最も重要なこととして認識されている。
対して、人間側の周知は未だ十分とは言えず、さらなる啓蒙が求められる状態であるがここでは言及を避ける。
・主(人間)には尊敬と畏怖をもたせること
肉と人間に絶対的な差異があることを絶えず意識させる。そのため肉は衣服の着用を認められていない。装飾品・嗜好品のたぐいの情報を持たせないこともこの一因であり、これはコスト増リスクの軽減にも繋がる。
また、教育課程において躾と目される体罰が時に許容されるのはこの目的のためである。ただし、程度の甚だしいもの、明確に肉を傷付ける恐れがあるものについては刑事罰となり得る場合もある。
・同種(肉)間では友愛をもって接すること
個体間の諍いは無用なストレスの原因となり、肉の味を損なう恐れがあるため避けるべきである。互いを思い合い、いたわりを持つよう教育する。淘汰の結果、肉は概ね穏やかで慈しみ深い個体がほとんどのため、これについて問題となることは多くない。
・同種間、あるいは人との関係において特別な情愛を持たせてはならない
肉に度の過ぎた執着を持たせることは、その別離を意味する出荷にマイナスのイメージを抱かせることに繋がる。また、人間側の節度を保った飼育体制も求められる。
・性的な接触の禁止
(そもそも獣姦と同様極めて特殊な趣味とみなされる。)
商品価値を自ら下げることとなる、経営者として許してはいけない事態。肉の外見は人間(女性)とほぼ同等であるため、思春期の少年などとの接触はとくに避けるべきである。
§出荷関連
・出荷時期は12齢~18齢が最も多く、妊娠・出産経験のない個体が最上とされる。
12齢頃までの個体は未成熟で肉の味が薄いと言われるが、その淡白な味わいと肉の柔らかさを好む層は多い。調理前の熟成(エイジング)が推奨される。契約農場で専用の予約をするのが一般的で、通常の流通には乗らないことがほとんど。
20齢以上になると脂が増すため純粋な肉の旨味を損なうとする意見もあるが、脂のせいで口溶けがよくなり旨味が増す、という声も多々ある。しかし、育成コストがかさむので20齢以上まで育てることは稀である。
25齢以上になると肉としては卸されず、大部分は母体や乳産に回される。経産婦となると肉自体の味が落ちるため、一定数の妊娠・出産を繰り返したあとは廃棄される。この廃棄寸前の肉を好みわざわざ引き取る好事家もいるという噂もある。母体の廃棄年数は平均40齢ほど。
§繁殖
種付けは専用の器具で行われるため、通常オスとの接触は不要。出産時は希望者には麻酔が使用されるが、リスクがあるため申し出るものは少ない。肉全体の傾向として、苦痛に強く多少の痛みは我慢してしまう。これは繁殖の過程で穏やかで辛抱強い個体を選り分けていった結果と思われる。常態でも怪我などをした場合に発覚が遅れることがあるので注意が必要である。
メスが生まれる確率は約六割であり、そのまま肉として育成される。
オスが生まれた場合、育てるメソッドを持たない小さな施設などでは即廃棄される。子・乳を生産できない、メスとの隔離化=施設の増強が必要、性欲のコントロールが難しい、場合によっては去勢のコストなど、オスを育成するメリットはほぼない。一応肉としてメスにない部位もあることはあるが、需要は多くない。
その意味で肉≒メス肉とする世間一般の認識は正しい。オス用の育成スペースを持つ施設ではメスと同様に育てられる場合もあるが、メスよりも早く概ね8~12齢頃までに出荷される。稀に種牡として利用される場合もあるが、自然交配によるリスクが重要視された結果、現在はほとんどの施設で選択肢から外れている。また、その場合でも30齢ほどでほぼすべてが廃棄となる。精子は凍結保存され、それぞれ繁殖用として使用される。
§社会科見学
小中学校の見学ツアーが時々催されている。前述のとおり、近距離での接触は避けるべきである。また、同じ形をしているからと女子が好奇の目に晒されたり、あるいは差別意識を持たれたりすることがないよう十分配慮しなければならない。
ごく稀ではあるが、見学者から肉希望者が名乗り出たという記録がある。中途からの再教育となるため実現は困難で、また肉の質自体も品種改良を繰り返されてきた肉たちに劣る。最低ランクの肉は売れ残りから母体にもなれず廃棄される可能性もある。よほどのことがなければ推奨されない。
§まとめ
現状肉は一般に普及しているとは言えず、まだまだ高級な嗜好品としてのイメージが強い。しかし日々の努力研鑽により、育成コストは驚異的な下げ率を見せており、何より肉自身が広く自分たちを食べてもらう機会を求めている。彼女たちが家庭の食卓に上り、ご馳走として一般的に食される日もそう遠い未来ではないだろう。
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