オーシャンキングはいます!!!!!!!!
そういうわけで、僕はドラゴンクエスト5の大体全部を、友人の隣でみた。
実際は、僕がいない夜の時間などでも友人はプレイしていたので、僕が見たのは全体の6割か7割くらいだったかもしれない。でも大体全部みたのだ。
さて僕が、まだオーシャンキング見てなかったな、と、ごく自然に思った瞬間へと進もう。
――念のため改めて言っておくが、オーシャンキングというモンスターは確かに発売前の雑誌でドット絵まで発表されたが、結局没になった、存在しないお蔵入りモンスターである。
僕はモンスターを仲間にするために執拗に狩をしていた友人へ、こう言った。
「オーシャンキングみして」
と。
ドラゴンクエスト5は、船のあるドラゴンクエストの中で、もっとも船の使用頻度が低いドラクエである。これはドラクエ5がそれ以外のドラクエに比べて、かなりシナリオが
そういうわけだから、僕は友人が海で戦っているところをほとんど見た記憶がなかったので、純粋に見そびれたのだな、と思ったのだ。
しかし、友人はそう言われてもピンとこない様子だった。
僕が、海のモンスターだよ。クジラの。というと、首をひねりながらも、こいつかな、といって見せてくれたのは、ドラゴンとオットセイを足した感じのモンスター『しんかいりゅう』だった。
こいつではない。
ちがうよちがうよ、クジラだってば。
僕にはまだ余裕があった。
友人にも余裕があった。
海は敵と遭遇する領域がさまざまあるため、友人は海のいろんなところに行って敵と戦ってくれたのだが、しかし、オーシャンキングは現れない。
このあたりで、すでに結構な時間が過ぎていた。
海はモンスターとの遭遇率が低く、また海のモンスターは経験値がそれほど多くなく、さらに仲間になる種類も少ないため、友人は徐々にこの非効率的な行動に苛立ちを覚え始めていた。
「本当にいるの?」
「いるんだって」
「どこで見たの?」
「ガンガンだって」
「ガンガンってなに?」
「マンガだって」
「でも出てこないし、いないんじゃない?」
「いるんだって」
「でも出てこないじゃん!」
「ガンガンで見たんだって!! ちゃんとゲームの絵になってるやつを見たの!!!」
僕は友人にガンガンを見せ付けてやりたかったが、小3と小4の間で引越ししたため雑誌は1冊も残っていなかった。
友人はもう、まったく姿を見せないオーシャンキングを探すことには飽き、元の作業に戻ろうとしていた。
しかし、僕はどうしてもオーシャンキングが居るのだということを証明したかった。
探せば絶対に出てくるに決まっているのだ。
探し方が圧倒的に足らないのだ。
そんな風に考えていた僕は、ふと狩りにいそしむ友人のプレイ画面を見て、気がついてしまった。
――ドラゴンクエスト5には、大きく分けて2つの世界がある。
1つは人間が住む、表の世界。そしてもうひとつは、ラスボスが潜んでいる、魔界である。
表の世界は、船や魔法の絨毯で自由にいろんなところを冒険できるのだが、魔界ではそうはいかず、船も魔法の絨毯もつかえず、ただ陸地を歩くことしかできない。
友人が黙々と狩をしていたのは、その魔界だった。
そして魔界の陸地の周囲には、暗い色をした海が広がっていた。
僕の頭に、鋭く明晰な閃きがひとつ、降りてきた。
ははーん。
なるほどね。そういうことね。
そりゃあ、表の世界の海を探しても見つからないはずである。
この魔界の海こそが、オーシャンキングの縄張りなのだ。
魔界に船はないから、海には出られないとか言ってたけど、どこかに船が隠してあって、それで行けるのだ。
この当時、友人は既にエンディング後に行ける隠しダンジョンもクリアしていた。そして、その隠しダンジョンと隠しボスの話を、僕も当然見ていた。
隠しダンジョンと隠しボスが居るのなら、隠し船があったっていいはずである。
僕は友人へ言った。
オーシャンキングは魔界の海にいるのだ。
だから、まずは隠し船を探さなければならない、と。
友人はしぶしぶ、僕に言われるがまま、魔界のマップを隅々まで歩いて回った。
まあ今考えてみれば、どうせ魔界で仲間集めしてたんだから、嫌な顔しないで仲間集めの一環だと思ってやればいいじゃん!!とか――なんでもないです。
しかし、皆さんご存知ないかもしれないが、魔界のマップはすべてのマスを1マス1マスくまなく歩いても、隠し船は出てこないのである。
だってそんなもの、ないからね!!!
しかし小4の僕は納得がいかない。
だってオーシャンキングはいるに決まっているし、表の世界の海では出てこないんだから、魔界の海にいるに決まっているのだ。
その後も僕は、
面倒くさい、
絶対居ない、
もう帰れ、
といった友人の抵抗にあいながらも、魔界に唯一ある町であるジャハンナを1マス1マス全部歩かせ、ラストダンジョンと隠しダンジョンを1マス1マスくまなく歩かせた。
その作業に数日を要した。
友人が自分のプレイに飽きた隙間などに、隠し船探しをさせた。
しかし、結局すべてのマスを歩いても、隠し船は見つからなかった。
僕は、それじゃあ魔界以外のダンジョンや町も調べる必要があるな、と次なる手を提案した。
そして友人は言った。
彼も、連日の無為な作業にイライラが募っていたのだろう。
「買ってもらって、自分でやれよ!!!」
と。
正論である。
これ以上ない正論である。
きっと数日間、彼の心の中ではずっとくすぶっていた思いだったのだろう。
買ってもらって自分でやれ。
その言葉は僕の心に減衰無しで勢いよくブッ刺さった。
そんな風に言われてしまったら、僕にはもう返す言葉なんてないのだ。
そして、返す言葉がなくなった僕は、小学校4年生の、二分の一成人式を終えたばかりの僕は、どうしたかといえば、声を出して泣いた。
呼吸困難になって何度もしゃくりあげる感じのやつで、泣いた。
かつてドラゴンクエスト5というゲームが出た。
へ続く。
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