ドラゴンクエスト5はもう出た。
ドラゴンクエスト5が発売されてからというもの、友達の家に遊びに行けない日の僕は決まって、近所のゲーム屋でガラスのショウケースの向こうに置かれた、ドラゴンクエスト5の箱を眺めて過ごした。
ショウウィンドウの向こうにあるトランペットを眺める少年のように、とか書くとうそ臭くなるから、そういう表現は用いないこととする。これはこの思い出し日記を少しでも面白く惨めな雰囲気でデコレーションするために言っているのではなく、小学生が野山を駆けずり回りもせずに、ショウケースの前に立って長方形の箱をじっと見つめていた、というただの薄気味悪い事実を淡々と綴ろうとしているだけなのだ。
僕はドラクエ5の後も、ブレスオブファイア、ファイナルファンタジー6、フロントミッション、ブレスオブファイア2と、欲しいゲームが出るたびに、何度となく自転車を漕いではゲーム屋へ行き、ショウケースの向こうにあるほぼ1万円する長方形の箱を眺めて、かなりの時間を過ごしたものだった。
当時の僕はあの、『僕の手元には存在していない』『既に発売されている』『雑誌とかでみたのと同じ絵が描かれた』『長方形の箱の実体』が堪らなく好きだったのだ。
いま思い出してみても、スーパーファミコンのあの長方形の箱の神々しさはすごい。特に繰り返し眺めに行ったのは、この2年後に発売されるファイナルファンタジー6なのだが、ショウケースの中に、横向きで、おごそかに置かれているあの白い箱は、本当に夢でいっぱいだった。
数年後に出たプレイステーションのソフトのパッケージでは、そういう感情を抱いた記憶がない。
まあ、これはあくまで、まだ幼かった人間の認識能力が見せた幻想のようなものなのだろう。きっと今のちびっ子もSwitchのパッケージで同じような思いをしているのだろうと思う。スーパーファミコンは特別だったんだよ!!!とか言うつもりはない。
――さて、ここからドラゴンクエスト5の各種ネタバレが、なんの情緒もなく羅列される。
主人公は勇者じゃないのかよ!!知らなかった!!責任取れ!!
だとか、26年も前(!!!!!)のゲームのことで怒られても困るのだが、まあ一応警告はしよう。
はい。
小学生だった頃の僕には、ネタバレという概念はなかった。
ネタバレが嫌だな、と思うようになったのは、中学でドラゴンクエスト6が出たあたりからで、それまでは具体的なストーリーだろうがラスボスだろうが、見ても聞いても、なんとも思わなかった。
というか、子供のころはゲームのストーリーはほとんどオマケみたいなモノで、『この海の向こうには新しい冒険がまってるぞ!』
『洞窟の奥に強い装備があるぞ!』
『最後の敵がかっこいいぞ!』
みたいなことのほうが大切だったように思う。
そして、それらを先に知ってしまったからといって、その後に僕がプレイして、体験が損なわれた、というような事もなかった。実際にコントローラーを握ってプレイすることと、前もって見たり聞いたりすることは、全く別のものだった。
と、いうわけで、僕は可能なだけドラゴンクエスト5を買った友達の家に行っては、横でずっと友達がドラゴンクエスト5で遊んでいるのを見ていた。
パパスが死ぬところも、
キラーパンサーをビアンカのリボンを使って仲間にするところも、
ルーラをイベントで習得するところも、
結婚するところも、
自分の子供が勇者なところも、
ラスボスのミルドラースが両手を広げて仲間を呼ぶところも、
もちろんエンディングも、
全部見た。
横でジャンプを読んだりお菓子を食べたりしながら「さっきのところ、右だったんじゃない?」とかいいながら、全部見た。
そういうわけで、友人はドラゴンクエスト5をクリアしたのだ。
小学生のころは、ずっとゲームをしていたつもりでも、結局親に止められたり、急に外で遊びたくなったりするため、なかなか先に進まないもので、友達がクリアしたのは11月頃だったのではないだろうか。
――クリアはもう少し早くて、このあとの騒動が11月だったかもしれない。
とにかく、友人はドラゴンクエスト5をクリアしていて、
そして肌寒くなり始めた頃だ。
僕は気づいてしまったのだ。
そういえば、オーシャンキングに遭ってなくね?
ということに。
オーシャンキングはいます!!!!!!!!
へ続く。
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