ドラゴンクエスト5が出ちゃった!!!!!!

 1992年9月27日。満を持してドラゴンクエスト5が発売される。

 当時、一般的なゲームソフトは大体金曜日に発売していた。

 しかし、ドラゴンクエストは3の発売日を平日にしたせいで、全国の学生が学校をサボってゲーム屋や電気屋に並ぶという騒ぎを起こしたため、配慮から日曜日の発売となった。


 この時点でスーパーファミコンもなければ、両親から発売日に買ってもらえる約束もとりつけていない僕は、ただ指を咥えてニュースでドラゴンクエスト5が発売になった旨の報道を眺めていた。

 導きの書のモンスターカードを無闇に並べてみたりはするものの、結局それが動き出したりすることは当然なく、カードはただのカードでしかなく、ゲームではなかった。


 少し時間を遡るが、僕はその年の誕生日プレゼントを我慢することにしていた。

 僕が狂ったようにドラゴンクエスト5を楽しみにしているのを見て、さすがに両親の良心も痛んだのだろう。

 誕生日のプレゼントを我慢したら、クリスマスにスーパーファミコンとドラゴンクエスト5を買ってあげようじゃないかと、そういう約束が交わされていた。

 当時の僕は、誕生日の時点で欲しいものなんかスーパーファミコンとドラゴンクエスト5以外になかったから、単純にその時点でそれらが手に入らないという苦しみの他に、辛さはなかったように思う。

 2学期を乗り越えれば、クリスマスにはスーパーファミコンとドラゴンクエスト5が手に入るのだ。今は手元になくとも、将来確実に手に入ることが確約されたわけである。これは偉大な一歩であった。

 ――よく考えると、1回誕生日を我慢しただけで、クリスマスにスーファミとドラクエの両方を買って貰えるというのは、ずいぶんと計算が合わない話なのだが、まあ、結局我が家の両親は子供に甘かったということなのだろう。


 さて、そうしてドラゴンクエスト5の発売日の翌日である月曜日になった。

 登校しながら僕は、誰かからドラゴンクエスト5の話を聞けるかな、と、わりと平和なことを考えていた

 まだ手には入らないけれども、話を聞いて想像を膨らませよう!くらいアホポジティブだった。


 が。


 登校すると、友人たちはみな、楽しそうに会話をしていた。

 僕も会話に加わった。その中には、あまり仲良くないけどスーファミを持っているヤツが居て、そいつがドラクエ5を買ってもらうことは知っていたから、そいつに聞いた。

「ドラクエ5買った? 面白い? どんな話なの?」

 ――まあ、具体的に何を聞いたかなんて覚えているはずがない。とにかく、ドラクエ5のことが聞きたくて、問いかけた。


「ドラクエ5、超すごいぞ!」

 と、目を輝かせて答えたのは、仲良くないけどスーファミを持っているヤツ、比較的僕と仲が良く、そしてファミコンを持っていなかった友達だった。

 彼はその後も、出てくるモンスターが強いだの、主人公は子供だから弱いだの、仲間がいないだの、冷めやらぬ興奮を呼気でもって冷ますかのように、すさまじい勢いで喋った。


「仲間は次の町に行くと出来るんだよ」

 横からそう言ったのは、スーファミは高いから絶対買ってもらえないと思うと、一緒に残念がったりした、仲の良い友達だった。

 彼は、その先にあるお化け屋敷みたいなところが怖くて、ぜんぜん先に進めないんだと、これまた興奮しながら言った。


 さらに横合いから、まったくゲームなんかやらない雰囲気を出していたはずの女子が出てきて、「お化け屋敷怖いよね」とか言い出す始末だ。


「すげーよな!」「怖いよね!」「ビアンカが」「なんとかかんとか!」


 以前からスーファミを持っていたヤツは、当然のようにドラゴンクエスト5を手に入れていて、その会話の中心で楽しそうにしていた。


 いつのまにか、僕は自分の目が燃えるように熱くなっているのを感じた。

 あ、、と自分で気付いたときには、堪えるよりも早く涙が出ていた。

 僕は声を押し殺して泣いた。

 声は出さなかったが、涙は馬鹿みたいに出た。


 別にこれは、悲しいシーンでも、同情するシーンでもない。

 ただただ、クラスの中が、、という話だ。どちらかというと、同情すべきは僕以外のクラスメートだろう。

 なにせ、折角楽しくドラクエ5の話で盛り上がっていたのに、突然なんか最近まで自慢しててウザかったやつが泣き出したのだ。


 しかし、当時の僕はもうそんなこともお構いなしに、泣きまくった。

 だってみんなドラクエ5の話してるんだもん!!!

 なんだこれ!

 どういうことだよ!!

 あああああああ!!

 ンンンンンンンンン!!!


 ドラクエ5!!!!

 ドラクエ5いいなあああああああ!!!!!

 ドラクエ5いいなあああああああああああああああああああああああ!!!!!!


 朝の会にやってきた先生は、怪我でもなく、喧嘩でもないのに、朝っぱらから号泣していた僕をみて、さぞ困惑したことだろう。

 きっと面倒くさかったはずだ。

 僕はわりと五月蝿いお調子者タイプの問題児だったので、うんざりしただろう。

 でも僕は、「あの時は先生、ごめんね」だとか、改めて謝ったりはしません!!!


 僕は僕を慰めるよ!!

 ああ、あのときの僕、可愛そうだなあ!

 

 ドラゴンクエスト5はもう出た。

 へ続く。

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