ドラゴンクエスト5が出ます!!!!!

 小学校4年も数カ月が過ぎたころ、ドラゴンクエスト5は8月発売からさらに延期する。そうして、9月27日に発売日が決定した旨が発表される。これが確定した発売日であり、これ以降延期することはなかった。


 唐突ではあるが、僕の誕生日は8月よりは遅く、9月27日よりは早い。


 この瞬間、神様が奇跡を起こしてくれて、両親が誕生日に特別にスーパーファミコンとドラゴンクエスト5を買っていてくれて、それが僕に内緒でジャーン!!と出てくる可能性は完全に消えて失せた。

 ぶっちゃけて言えば、ガンガンの『100名様が発売日!』よりも遥かに期待値の高い奇跡として、心の奥の隅っこでこっそり育てていた夢は、この両親が唐突に誕生日に買っていてくれているパターンだった。


 それが潰えたのだ。

 僕の手元にオーシャンキングもイオラも、やってこないことが確定した。


 誕生日の後は、数カ月先にクリスマスやらお年玉やらのイベントはある。それらのイベントに希望を繋ぐことは出来るかもしれない。

 しかし、小学4年生にとって、数カ月――しかもそれが、学期をほぼまたぐレベルとなると、アラフォーの2年くらいの体感時間に感じられることは多くの人に知られている。しかも、この発売日が知らされた時点ではまだ6月ぐらいで、クリスマスなんていうのは半年先――2カ月も先の夏休みの先の3か月後なのだ。アラフォーの体感時間でいうと、5年に相当する。


 ――実際、小学校の時の半年先の感覚っていうのは、今の5年先に近いものがあると思う。今すごく楽しみにしているゲーム――たとえば、デビルメイクライ5の発売日が5年後だと言われたら、わりと小学生の時の1学期にクリスマスの時のことを想像するのに似た距離感を感じることができる気がする。

 この歳になると、1年はあまりにも短い。

 時間に関する体感速度が、0歳~20歳と21歳~80歳が同じだとかいう、嘘かほんとかわからない話も、なんだかそれらしく感じてしまえる。

 つまり我々アラフォーは、大体もうすぐ死ぬということになる。


 はい。

 

 とにかく自分の手元にドラゴンクエスト5がやってくるのは、遥か遠い未来のことになった。

 しかし、それは周囲の友人たちも似たような状況だった。

 スーパーファミコンを持っている友人は2人しかおらず、持たざる者である皆は、あの高級品を2つも買ってもらえる見込みもないまま、「絶対買ってもらえないし……」「いいなあ、スーファミ……」と、ため息をつきながら傷を舐め合っていた。


 やがて夏休みがやってくる。

 ドラゴンクエスト5発売まで、残すところ2カ月となった。

 夏休みの話は関係ないので、ここでは言及しない。

 いや、一つだけ、とても重要なアイテムの話があるので、やっぱり言及する。


 それは、である。

 

 これは、ドラゴンクエスト5発売日直前に出版された、いくつかの付録がセットされた、2,000円くらいの本である。

 セット内容は以下の通り。

 1.なんか発売前のインタビューとかが載ってる本

 2.仲間になるモンスターカード

 3.ミニサントラ

 4.地図

 他にもあったかもしれないけど、覚えているのはこの4つだ。

 この本を夏休みの間に、どういう経緯かは不明だが、手に入れることに成功する。


 これが、すごい本だった。

 なにはなくとも、仲間になるモンスター+αの50体近いモンスターが1枚1枚描かれたカード。これがとてつもなくすごかった。

 まずネタバレ。

 ネタバレである。今考えるとすごいネタバレである。

 これまで、登場モンスターにしても、たいして発表されていなかったのに、突然仲間になるモンスターはコレ!と、全部カードで公開されてしまったわけだ。

 そして、それを知るのはこの本を持っている人間だけなのである。(ちなみにこの仲間モンスターカードの中にオーシャンキングは居らず、少し悲しい思いをした)


 そして次にすごかったのが、ミニサントラ。

 これはシングルサイズのCDで、ドラゴンクエスト5のゲーム音源BGMが2曲、収録されていた。

 収録されていたのは、オープニング曲である『序曲』と、フィールド曲の『地平の彼方へ』である。

 フィールド曲は、時折テレビで流れるドラクエ5の映像の中で、ちょこっと聞けることはあったが、フルで聞けるのは、この本を買った人間だけだった。

 僕は、この曲をエンドレスリピートにして、ドラゴンクエスト4のフィールドをトヘロス(敵が出なくする魔法)を唱えた状態で歩き回り、セットになっていたドラゴンクエスト5の世界地図を眺めながら、ドラゴンクエスト5をやっている気分に浸って遊んだりしたものだった。


 夏休みの間、会う友人、会う友人にこのモンスターカードを見せびらかし、ミニサントラを聞かせ自慢した。

 自慢しまくった。

 夏休み前は、一緒に傷を舐め合った仲間たちに対して自慢しまくった。

 だって、誰も持っていなかったから!

 僕しか持ってなかったから!!


 もうなんていうか、僕はドラゴンクエスト5の発売前にして、ってくらい、自慢しまくった。

 西に友達の家があれば持って行き、

 東に友達の家があれば持って行った。


 ほらみろよ、ドラクエ5に出てくるモンスターを!

 すげえだろ!かっこいいよな!めっちゃ楽しみだよな!すげえよな僕!!


 ほら聞けよ、ドラクエ5の曲をさ!

 すげえだろ!ファミコンのピコピコ音とはわけが違うよな!めっちゃ楽しみだよな!すげえよな僕!!


 こんな具合だ。

 夏休みが終わっても、導きの書を持っているのは僕だけだった。

 それほど仲の良くない友達にそれとなく話してみても、「そんなのあるの!!!」みたいなリアクションで、そいつがスーパーファミコンを持ってるヤツだったので、まあああ、気持ちよくなったものだった。


 だけど僕は気づいていなかった。

 導きの書はドラゴンクエスト5のソフトではないし、


 そしてなにより、導きの書はスーパーファミコンではなかったのだ。


 ドラゴンクエスト5が出ちゃった!!!!!!

 へ続く。

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