ドラゴンクエスト5のこと
ドラゴンクエスト5が出るらしいぞ!
小学2年生のお正月、友達からの年賀状の束を眺めていたら、驚くべきものが入っていた。
当時ドラゴンクエストを開発していた、エニックスからの年賀状である。
そこには、なんかよくわからない、紫色のターバンを巻いた男と、なんかトラみたいなのが描いてあった。
あとは「DQV 制作開始!!」と書かれていた。
僕はまったく意味がわからなかった。
(先に説明してしまうと、このはがきには、こちらに向かって笑っているドラゴンクエスト5の青年主人公と、後ろでうずくまってこっちを見ている、キラーパンサーが描かれていた)
まず、書いてある文字の意味が分からなかった。
両親に「DQ」とは何か、と聞いた記憶がある。まさかドラクエをDQと略すなどとは、思いもよらなった小学2年生なのだ。
次いで、描かれている絵の意味がわからなかった。
こいつは一体なんなのだ? と、ものすごく困惑した記憶がある。
子供のころは、すでに知っている、数少ないモノサシでしか世界を測ることができないことで知られているが、当時の僕も多分に漏れず、そうだった。
だから、こんな風に悩んだのを、すごく鮮明に覚えている。
「こいつは、ドラクエ4でいうと、どいつなんだ?」と。
この、なんかよくわからない、奇妙な笑みを浮かべ、カッコ悪いターバンを巻いて、杖(そう、杖なのだ!! 剣ではなく杖!! 杖は魔法使いの装備で、決して勇者の装備のはずがない!)を持っている、この男。
こいつはクリフトみたいな役目の奴なのかな。
僕はそう思った。
もう当時の僕の中で、ドラクエといえば4しか頭の中になく、どんなに頑張って別のドラクエを思い浮かべてみても、それはドラクエ4になってしまうのだ。
さらに問題なのは、後ろに意味深にいるトラである。
ドラクエ1から4まで通してみても、トラはおろか、動物が仲間になるドラゴンクエストは存在しない。(4でドランというドラゴンが仲間になるが、ドラゴンは動物じゃないのだ。だから、まったくそこに発想がいかなかったと思う)
とてつもなく、意味がわからなかった。
どうして、4みたいなかっこいい剣を持った勇者ではなく、クリフトで、そしてその次に重要そうに書いてあるのがトラなのか。
果てしない謎が僕を襲ったのだ。
そして、ここがとても重要なのだが、年賀状をもらった僕は、そのドラゴンクエスト5の絵を、めちゃくちゃ未来のものであるように感じたのだ。
さっきから、ここの表現がうまくできなくてずいぶん悩んでいる。
当時の僕がその通り思ったわけではないのだが――
そこに描かれてあるイラストは、ドラゴンクエスト5のものではなく、
ドラゴンクエスト20くらいのイラスト
であるように感じた、というと、正解に近い気がする。
もう果てしなく意味がわからなかった。
ターバンで杖もったクリフトも、トラも、未来のドラゴンクエストも、すべてが想像の外側にあり、どれだけ考えても、想像もつかないのだ。
僕の中にあったドラゴンクエスト定規では全く測ることのできない、謎だらけのドラゴンクエストが、そこにあったのだ。
とにかく――
ドラゴンクエスト5が出るらしい。
たった一枚の年賀状がもたらしたその事実は、僕の心を激しく興奮させ、ワクワクさせ、頭の中をドラゴンクエスト5で一杯にさせた。
前情報を狂ったように収集しだす小学3年生の話は、次回、
【ドラゴンクエスト5はこうなるらしいぞ!!】
でしよう。
――ちなみに、このエニックスから届いた年賀状は、ドラゴンクエスト4についていたアンケートハガキを出した人全員に向けて送られたものだったようだ。とにかくとんでもないサプライズだった。
**********
ここまで書いてから、絵がすごく未来のものに感じた衝撃、に似ている衝撃を思い出した。
ドラゴンボールで、初めてトランクスが登場したときのことだ。
当時小学校3年生だった僕は、数週前まで悟空が死闘を繰り広げたフリーザが、滅茶苦茶パワーアップした挙句に、それよりも強そうで、しかもまだ第一形態の父親を連れて地球にやってきたという展開に、ほんとうに心底ビビったものだった。
しかし、そのあとにさらに衝撃の展開がやってくる。
なんかよくわからない髪型をしたキャラが、悟空がいくつもの苦闘を乗り越えた末にようやく到達したスーパーサイヤ人にあっさりなった上に、強化されたフリーザを一瞬にして倒してしまったのだ。
一体この謎の髪型の、謎のジャケットを着た、謎の剣を使うスーパーサイヤ人(そう、スーパーサイヤ人なのだ! サイヤ人は悟空とベジータと悟飯しかいないはずなのに!! おかしいじゃないか!!)に理解が追い付かず、滅茶苦茶に困惑したものだった。
この時のトランクスに対する感覚が、僕が年賀状でドラゴンクエスト5の青年主人公とキラーパンサーを見たときの感覚に、とても似ている。
こういう感覚は、ほんとうに小学校低学年の時にしか感じ得なかった、とても貴重な感覚であるように思える。
今こうして思い出して、なんだかとても懐かしい気持ちになる。
こういう感覚を、まだ辛うじて覚えているうちに、これを書いてよかったととても思う。
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