第32話、Sな柳くん

「そうまでして何で俺の所に来たの?」


「術、覚えたい。あの人に……教えてるの、知ってる。…………私、も……行く………」


 あんれまあ。話がぶっ飛び過ぎてやしませんかね?


「南雲に術に関してアドバイスしてるの知ってたんだね……術覚えたいってことは南雲と一緒に特訓したいってことと捉えて良いのかな」


「嫌だ」


 おおう、ハッキリと………


「あの人のいない……とこで、柳と二人、練習………」


 なるほど。南雲のいないときにひっそり練習したいと。だがそのお願いはちょいと難しい。なんせ南雲は昼休みは絶対いるわ、放課後は寝るときまでべったりだわでなかなか一人になれる時間がない。


 休日もほぼ丸一日一緒にいるし、イオリちゃんと二人になれる時間は皆無だ。という訳でお断りしよう。


「悪いけど、南雲で手一杯なんだよね。あいつ、寝るまで付き合わせるから疲れるんだよー。イオリちゃんには悪いけど他当たって」


「……………むぅ……」


「頬膨らましても無駄だから。それとも妥協して南雲と一緒に特訓する?」


「嫌」


 南雲がだんだん可哀想に思えてきたな。


「でも、………強く、なりたい。……雪が怪我、したの………私のせい」


 奥ヶ咲が怪我したのがイオリちゃんのせい?


 その言葉の意味が理解できなくて首を傾げると、イオリちゃんは悲しそうに笑った。


「…………ごめん。……これ以上、言えない……」


 ……まあ、誰にも言いたくないことってあるしな。深くは追求しないでおこう。


 女の子に悲しい顔させるのは気が引けるし、俺も聞かれても言えないことはあるし、お互い様だ。


 悲しそうに笑うイオリちゃんの目前で両の手を差し出しパンッと叩くと、悲しく笑う顔から一変してびっくり顔に。俺はヘラッと笑い、ちょっと重くなってきた空気を変えようと話を戻した。


「イオリちゃんの選択肢はふたつ。南雲と一緒に特訓するか、特訓を諦めるか。俺も暇じゃないの!」


 選択肢を絞ったら、やっぱりというか、不服そうにこちらを睨むイオリちゃんの姿。可愛い容姿だからか怒っててもあんまり怖くない。


「暇、じゃない……って、何してる……?」


「そりゃあ、南雲の特訓とか神様達のこと考えてたりとか」


「かみ……さま?」


 ノオォォォォォォォォウ!!!!


 やっちまった。うっかり失言しちまった。神様とか何わけわからんこと言ってんだコイツって視線が痛いです。


 さあどう説明する。上手く誤魔化さないと後々面倒なことになるぞ。


 どうする。どうする。


「………俺、宗教家なんだ」


 あ、これ絶対駄目なパターンだ。


「そっか………諦める」


 あれぇ、イオリちゃんちょろくね?


 しょんぼりして立ち上がり、帰ろうとするイオリちゃんを呼び止めた。


「あ、待って!下まで一緒に行くよ。女の子一人じゃ危ないでしょ」


「…………だいじょうぶ。受付の、人……術で、眠ってる」


「うん、ちゃんと起こそうね」


「………怒られる」


「男子寮に入ったこと?」


「説教………キライ」


「うん、ちゃんと怒られようね」


「やぁだー……っ」


 怒られるのをめちゃくちゃ嫌がるイオリちゃんの腕を引っ張り、にこやかに歩いていく。


 説教なんて日常茶飯事だから朝飯前だぜ!とかぬかす南雲も厄介だけど、説教されたくないがためにわざわざ術を行使するイオリちゃんもアレだな。ちょっと問題だな。


 南雲といい学園長といい担任の先生といい、ここには問題のある人しかいないのか。類は友を呼ぶっていうけどこれがそうなのか。


 イオリちゃんが全体重をかけて必死で抵抗するもんだからなかなか前に進めないでいると、苦渋の顔をしていたイオリちゃんが怪しげに微笑んだ。


「術……私、解かない限り、覚めない」


「じゃあまずは南雲を起こしに行かないとなぁ」


「………っ!?」


「南雲ああ見えて低血圧だから、安眠妨害したら不機嫌MAXだぞ~」


 焦った様子で口をぱくぱくさせているイオリちゃん。


 いつもは俺が困ったり焦ったりするけど、たまにはこういうのもアリかな。


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