第31話、恐怖する理由
―――――――――ピンポーン
再び思考の渦に入った俺を現実に呼び戻すようにインターホンが鳴った。
南雲かな?忘れ物か?
ベッドから起き上がり、自室から出て真っ直ぐ伸びるそれほど長くない廊下を歩く。そして俺は扉の穴を覗いて誰かを確かめずに扉を開けたため、想定外の事態に狼狽を隠せなかった。
「南雲、忘れ物か?」
「………残念……違う」
腰まで長く伸びた艶のある漆黒の髪に見てるだけでまるで全てを見透かしているかのように思ってしまうほどの澄んだ紫紺の瞳の少女。
今は制服ではなくデニム生地のスラッとしたズボンに二の腕のとこがヒラヒラしてて涼やかな白を基調とした清楚な服を着ている少女の名は。
「いぃいいイオリちゃあん!?」
まさかのイオリちゃんでした。
ちょ、え、待って!男子寮に女子が入ったら駄目的な校則なかったっけ?てか何用で参った!?
「………びっくり……」
「え?びっくりしたのは俺の方だけど」
「………違う……柳、びっくり……」
「え?あー、俺がびっくりしてるって言いたいんだね」
食堂でも滅多に会わないから久しぶりだなあ。辿々しい話し方は相変わらず。
「とりあえず、中入ったら?」
今夜は肌寒いから外で話すのは女の子にとってつらいかもだしね。
「………………お邪魔……します」
自室にイオリちゃんを招き入れて座布団に座ってもらった。お客用のお茶を出そうと共同スペースのリビングに向かおうとしたらイオリちゃんが服の裾を掴んできた。
「……すぐ………済む」
えーっと……話がすぐ済むってこと、だよな。この手はいったい何?
「………いらない」
いらない?何が?
「………飲み物……」
ああ、飲み物いらないってことね!
イオリちゃんの話し方だと分かりづらいときが多いから理解するのに僅かばかり時間を要するんだよな。
イオリちゃんの横に座布団なしで座り、ちょこんと正座しているイオリちゃんに向き合った。
「で、いきなりどうしたの?確か男子寮に女子が入るのは校則違反だったと思うけど」
その逆も然り。
「しかも、こんな時間に」
こんな夜遅くに突然来るなんて、イオリちゃんらしくない。一瞬、南雲と同じ校則違反なんて屁でもねぇ発言すんのかと………
「違反………くそくらえ」
いぃいイオリさあぁぁぁん!!?セリフがキャラと一致してませんよぉぉ!?
「……………雪……いない……」
奥ヶ咲の部屋をじっと眺めるイオリちゃん。その瞳は僅かに悲しく歪んでいるよう。
………そっか。もう二週間以上奥ヶ咲がいないんだもんな。心配にもなるはずだ。俺も寂しいし。
あのときイオリちゃんは討伐援助の学園代表にはなっておらず、学園に残っていた。怪我人が奥ヶ咲だと知って、ひどく動揺したに違いない。
食堂でたまに見かけるけど、イオリちゃんいっつも奥ヶ咲のそばにいるんだよな。だからこれは俺の予想だけど、イオリちゃんと奥ヶ咲はお互いに大切な存在なのかも。
雰囲気がそんな感じだから余計にそう思う。
「奥ヶ咲の怪我、そんなに酷かったのかな……」
イオリちゃんが奥ヶ咲の話題を持ち出したため、うっかり溢してしまった言葉。そのせいかイオリちゃんの顔色が段々暗くなってしまった。
「と、ところで!さっきから言ってるけどなんでイオリちゃん男子寮に来たの?」
話題転換、無理矢理すぎたかな。こんなときはどう空気を変えれば良いのか分からなくなるんだよなあ、いつも。
「…………柳に……会いに」
「それは現状を見れば分かるけど………あ、もしかして暇だから遊びに来たの?だったら明日でも良かったんじゃない?」
「………いつも、あの人………いる」
「いつも………ああ、南雲のこと?確かに昼休みと放課後はくっつき虫並みにべったりして離れないけど、別に南雲はイオリちゃんがいようがいまいが気にしないと思うよ。クラスメートがいても平然としてるし」
「……………でも……」
不安を抱えたような何かに恐怖したようなイオリちゃんの瞳。……もしかして、イオリちゃんまで南雲にビビってる?
「何?アレってそんなに恐怖の対象になるの?」
南雲のことアレって言っちゃった。
俺の言葉に俯き暫しの間考え込んで、ようやく俺の瞳を見据えて口を開いた。
「人殺し、だから………」
イオリちゃんの言葉が耳に届いた瞬間、驚愕してしまった。
南雲が……人殺し?
妖怪討伐じゃなくて人殺し?
聞き間違いか?イオリちゃん嘘ついてるのか?
……………いや、きっと違う。
イオリちゃんは相手の瞳を射抜かんばかりにじっと見つめている。嘘ではないと物語っている。
……南雲が人殺しというのは真なのか?
「あの人………3年前、人……殺してる。私も、皆も、恐い………近づけない」
「………とりあえず、南雲が人殺しって話は置いとこうか。イオリちゃんは俺が一人になるのを見計らってたってこと?」
静かに首を縦に振る。
俺も多分、考えたくなかったからかな。また話を戻しちゃった。
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