第13話、鍛えられた神経
突如背後から降り注ぐ声にバッと後ろを振り向くと、見た目20代くらいの若い女性が約2メートル離れた所に立っていた。
いつの間に背後に……!?
「うふふ、人間って面白いことを言うのね。守るだなんて……」
可笑しそうに不敵な笑みを見せる女性。
「力は、壊すためのものだわ。守るなんて滑稽なこと、してどうするんだか。守られるくらい弱ければ殺されるだけでしょうに」
妖艶なその雰囲気に似合う台詞を言い放たれた瞬間、どこからともなく怒りが噴出した。
「大切なやつを守る力のどこが滑稽なんだ!?大切なものを命懸けで守ってる人達に謝れ!!」
普段人間のことを蔑み、罵倒し、だけど常に守ってきた神様達に向けられた言葉に聞こえて、つい怒鳴ってしまった。怒声が辺りに木霊したからか、姿を捉えられなくなった南雲が勢いよく「なんだ柳!?」と叫ぶと同時に転がり込んできた。
「誰だその女……いや、妖怪は」
眉間にシワを寄せ、瞬時に見抜く南雲。
妖怪らしき姿をしていないのに瞬時に見抜くなんて……なんか、初めて南雲のこと凄いって思ったな。
「あらあら、もうバレちゃった。そこに転がってる人間も思ったけど、どうして異形の者だと分かったの?力を垂れ流してる訳でもないのに」
「雰囲気が人間のそれと異なるからな」
「まあ……やっぱり私達のレベルともなると隠しきれない部分があるわねぇやっぱり。ねえ、あなた?」
南雲が服のポケットから素早く呪符を取り出し、構える。瞬きするだけの僅かな時間で即行動に出た南雲に続いて木々の中から異様な空気を纏う一人の男が出てきて、女の側に向かって歩いていく。
「……そうだな。強者を目前にすれば弱者は畏縮するのが当然だ。……例外もいるがな」
女の側で足を止め、南雲と俺を一瞬見やる。
待って!南雲は分かるけどなんで俺まで見るの!?
俺に視線を合わせたままゆっくり口を開く。
「少々特殊な力を持ってるみたいだが察するに、貴様は陰陽師ではないな。何故俺達に畏縮しない?」
無言の威圧にビクリとするが、それだけだ。
何故畏縮しないのか。
それは、今までずっと神界という神聖な場所で生きてて、幼い頃から神様達の威圧を充てられていたからなんだと思う。
やっぱり神様と人間ってのは違うんだろうなー。今はもうすっかり慣れたから良いけど、昔は嵐武様の威圧に充てられただけでしょっちゅう熱出してたし。
神様ってのは何もしてなくても人間や妖怪に威圧感を感じさせちゃうんだーとか言ってたし、仕方ないことだけど。
「こ、恐いとは思ってるよ」
だがしかし。畏縮しない理由は言えない。
嵐武様直々に口止めされてるかんね!
ついでに言うと最上の神様からも釘刺されてるからね!
「……まあ良い。それよりも」
男は俺から視線を外す。追求されなくて良かったと思った次の瞬間、驚きの声をあげてしまう。
「ソウという男を探してる。心当たりがあれば大人しく吐け」
「…………え?なんで俺のこと知ってるの?」
驚きのあまり思ったことを口にしたもんだから、南雲も男も女も俺に注目する。
「あ、いやぁ、その……人違いの可能性大なんだけど、俺の名前もソウだからびっくりして……」
口が勝手に言い訳を唱える。
本当にびっくりした。
一瞬俺のことを言ってるのかと思ったけど、妖怪に探されるようなことした記憶ないし、そもそもソウって名前もたいして珍しくないし、同姓同名の俺じゃない誰かだろうと思い至った。……のだが。
思い至ったのが僅かに遅かった。
女が男に目配せして合図をしたとき男は少し考えこんだ後、首を横に振った。それは二人だけの会話で、俺と南雲には何を会話しているのか分からない。
しばらく見つめあう二人。ようやく首を動かして俺の方を向く女の顔は静かに悲しみに呉れていた。
「……あなたもソウっていう名前なのねぇ。でも残念だわ。私達が探してるのはあなたじゃない。もっと特別な強力な力を持つ子なの」
「妖怪に特別も何もあるか。俺の知る限りは柳 爽以外のソウという人物は知らない。知ってても教える気はないがな」
呪符を持つ手に力が入ってるのが遠目でも分かる。南雲の眼光は、戦に身を投じる戦神を思わせる鋭いものだった。
その鋭い瞳には憎しみが込められているようにも感じた。
「うふふ……やっぱり、青臭いと言えど陰陽師ね。私達に隙を見せない、与えない。その心得は年齢にしてはよくできてるわ。けどね」
女は言い終わるのと同時に穏やかな表情はそのままに南雲を見据えたまま一歩前に進む。
たったそれだけの動作で一歩進んだだけのはずがいつの間にか南雲の目の前に接近していて。
次の瞬間、怒気を含めた真顔が南雲の瞳に映った。
「そんなちっぽけな警戒体勢で、私達を退けられるとでも思って?」
勢いよく回し蹴りを放たれ、南雲の身体は思いっきり吹っ飛ばされた。後ろに聳え立っている木々が南雲の身体がぶち当たると倒れていく。
急な展開に目を白黒させている俺をよそに、女は南雲に微笑みかけた。その微笑みは妖しく、それでいて美しいものだった。
「人間ごときが私達を退けようなんて、無理な話なのにねぇ。実に滑稽で面白いわ」
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