砂糖


なんだか最近は胃が重く居室に向かう前に喫煙所に向かう気すら起きない。散らかった部屋、次の契約更新でパーマネントになるかもしれないという口頭での説明があったとしても、ここに嫌気がさしてまた何処かを流離うかもしれないと積み重ねられた段ボールの山と緩衝材。狭い部屋に押し込めたサーバー群とすっかり書類の山の土台と化した存在意義のない長机が私のデスクへの道を阻む。最低限、配線が足に絡まなければいいと自分の心の中のような部屋をかき分け椅子に座る、高い割に妙に首と馴染まないオフィスチェア、ゆっくりと私の緩い衝撃を受け止める。今日やらないといけないことは何だったか、メールを見るがスパムのような事務からの全教員宛のものばかり、とりあえず仕方なく授業の例題のチェックをするか、と言うよりは内容を少しずつ簡単にしていかないと、そして投げやりな文章題で実行例の結果だけを見せていたり、結果すらも見せていないものを直さないとほんの数人以外誰もついてこれない状況になっている。書き写すことしかできない奴ら、私が学生の頃は―――ちょうど三十でこんな言葉を使い始めている、とため息をつく。古めかしい手続き型の言語、気づけば噂話のようなスーパーコンピュータでは固定形式のほうが実行速度が出るという証明されていないことを信じ始めているようで、そんなオカルト染みた言語のコードを書き始める。思い出してみれば件のK先生はかなり無茶苦茶で―――いや私は尊敬しているのだが、修士の頃に実験の傍らで数値計算を習い始めた時は、とりあえず適当に「これまでのモデルとか試してみて、ボクのプログラムになかったら自分で作って、どれも満足しなかったらそこらへんにある高精度の非経験的計算のやつも使いつつ納得が行くものを作って」と言ったくらいで、過去の論文を調べ学部生の頃の授業を思い出しながらSubroutineを書くところから始めたなっていうのが記憶に残ってる、冷房よりも計算機の排熱が上回っていたから記憶に残っていたのだろうか。地方大学、センセの後を追って博士課程をそこで送ることになる、が一年目はそれほど余裕があった訳では無かった―――というのも国際誌に論文があるにも関わらず学振のDCが取れずに親の脛を齧り続けていることは私の自信を失わせるのには十分だった。修士の頃の内容を論文にして、査読を通過しても無駄に高いプライドに少しだけ砂糖でコーティングするような感じで、自身の力で、それが税金から生まれる研究者見習いへの情けであっても私の心を罅を修繕してくれるはずのそのFellowshipを手に入れなければどうしようもないのではないかと思っていた、昔の話をされる、「ボクの頃はそんなのなくてバイトをして何とかしてたよ」と言われても今は多分そんなのんびりとしたものではないのだと言いたくもなった、ただセンセは別に上級国民という感じではなく魚の棚の魚屋の息子である種のシンパシーがあったから適当に笑ってごまかした、何より飲みに行くのに連れて行ってくれて全額出してくれたし―――これは学振をもらい始めてからも、ポスドクになってからも、だな。ロマンスグレーの髪でお腹も出ているおじいさん、とはいえ若い頃によくモテていたという話も信じられるほどの美青年だったころの残滓はある面持ち、実際に若かりし頃―――とは言っても三十代半ばころの写真を見ればそれは別に疑うようなことでもなかった。センセ好きッス!とまではいは無いがなんとなく尊敬はしていた、まぁだけどあの人がしたことは完全な放置、二回目の学振のチャンスで書類を書いたのは私、教員からの推薦状も私も書いたわけ。まぁ結局通るわけだし特に制度に文句を言うつもりもない、いわゆるボーダーラインに乗る感じの業績(査読付き論文)はあったわけで、それに最悪共働きの親で、兄が大学行ってないとかだったらDC2、つまり25から金をもらい始めても親からは喜ばれる訳で、でもやっぱ私はいろいろと親ガチャは成功してる存在なんだなと思った。逆にそれから後輩の 特別な少数派に当たるやつが私みたいに論文を書いているわけでも無く他の人から助けられながら書いたやつで文科省が射精で来たという事実が結構むかつくというのがあるわけ。学生で結婚する女が偉いのか?お?文科省はきっと全部ちんこに頭ついてんだよな、結婚できない性やポリアモリーを差別する、結婚できない性は可哀そうと口だけでなんかいってんの、それもムカつくんだよな、同性とセックスしてたらかわいそうなんか?お??????????????とか思う訳なのよ、でもそれ以上になんかむかつくのがあるの、Politicalに正しいといいながら私たちを警棒でたたくのよね、いやになるわ。恐らくああいうやつらって結局大ドイツ美術展の世界がしたいだけなんだなと、下半身の緩かった私、同性のこと、好きでいっぱいセックスしたと思う、でも異性が多分十倍くらいだったのかな……。なんとなーく、自分は社会に嫌われるんだなと思ったことは、ある、というか多分ずっとみんな私の事が嫌いだったんだと思う。でもね、なんとか博士号はとったよ、センセは最後に「え、指導してないんじゃなくて、君は最初から完成された研究者で、共同研究者だと思ってた」とか言うんだよね、ネグレクトしたことを誤魔化そうと、いや、でもKセンセは酒は飲ませてくれたし……。悪い人じゃないんだよ、顔は昔の面影があるイケメンだしね、でもね……。悪く言おうと思ったんだけどそれほど悪く言えないわ……。

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