山の主達
母屋に帰って来た俺たちを、
……っちゅーのは
ほんまは
「……余りまだ話は……。一気にあれこれ問い質しても逆効果やと思いますので」
そらー、「何かおかしい」とか「隠し事してます」なんて不安を煽るような事、言える訳ないねんけどな。
そんなんしたら、間違いなく良庵さんは伊織を問い詰めるし、伊織は益々意固地になる。
「そらそうやね。まーこう言う問題は父娘で解決しなあかんから……。龍彦君も利伽ちゃんも、あんまり気にせんでえーよ。当初の目的だけ果たしてくれればえーから」
何か期待してたんか、もっともな事ゆーてる良庵さんやけど若干意気消沈してる。
当初の目的っちゅーたら言うまでもなく、此所に襲い来る化身の討伐や。
まー、ばあちゃんからは更に突っ込んだとこまで面倒見ろ的な事言われてるけどな。
「その事で色々と聞きたいことがあるんですけど……良いですか?」
話の流れがうまい具合になって、利伽がそう尋ねた。
化身のおりそうなとこ……棲み処的な場所を教えてもらって、そこに調べに行くんが今の俺等の目的や。
「ああ、えーよ。それやったら中で話そうか」
俺等は良庵さんのあとに続いて、母屋の中へと入っていった。
「化身のいそうな所? そんなん教えたるけど……伊織は何も言わんかったんか?」
居間に腰を落ち着けて出された茶を啜りながら、利伽が質問したことに良庵さんが軽く疑問を持ったような声で返してきた。
「いえ……でも、この山の事やったら私より良庵さんの方が詳しいって伊織ちゃんが……」
―――嘘や。
けどま―、嘘も方便。
良庵さんに不安を抱かせたって、事態がややこしゅうなるだけで何の解決にもならん。
「そらそーか……。分かった、教えたるわ」
そんな利伽の思惑に気づきもせんと、良庵さんは若干嬉しそうな声音でそう快諾して立ち上がり、隣の部屋に向かった。
「……チョロいニャ……ギニャッ!」
小声でそうゆーたビャクの太股を、隣に座ってる
年齢は蓬の方が上。
そやけどビャクの方が人の社会には精通してる。
それでもこう言った気遣いなんかは、蓬の方がよー心得てるみたいや。
ビャクが強い視線で蓬を睨むも、当の蓬は素知らぬふりを決め込んでる。
そんなやり取りをしてる間に、隣の部屋から良庵さんが戻ってきた。
「これはこの近辺の地図や」
そうゆーてテーブルの上に広げたんは、A2用紙サイズに描かれた東雲神社周辺の地図やった。
……っちゅーても随分と大雑把やし、なんや墨で書かれた水彩画みたいになってる。
どうにも年代を感じる代物なんは分かるけど……見にくい。
「ざっくりな説明になるけど、それはあんまり気にせんでえー。近くまで行けば、人間やったら歓迎されること間違いなしやからな」
そうゆーた良庵さんの顔が、なんや子供みたいな笑みを浮かべてる。
……悪戯っ子の顔や。
歓迎……ゆーたらま―……そーゆー事やろな。
「まー、そうは言っても縄張りの確認みたいなもんやから、怪我することは無いよ。こことここには、古くから住んでる……ゆーたら山の主みたいな化身がおるんや。
そうゆうて良庵さんは、東雲神社が記してある場所から二山ばかり離れた北と東の山頂を指し示した。
成る程……地図云々は兎も角として、頂上目指しとけば出会えるんやから細かい道は記す必要ないわな。
それにしても、熊と兎やて?
まー、熊は分からんでもないけど、兎ってのはイメージに合わんなー。
「この山で活動するんやったら、この二人には挨拶しとった方がええな。それで、この南の山やねんけど……」
そこで良庵さんが言い淀んだ。
その表情はさっきと違って、言おうかどーしょうか迷ってる見たいやった。
……ああ……危険なんか……。
俺だけやなくて利伽も、蓬も僅かに緊張感を出した。
もっともビャクは、欠伸でもしそうなほど感心無さそうやけどな。
「……話の通じん化身が大量に居ついとるんや。こいつらがここの霊穴狙ってちょっかい出してる。力は大したことないけど、なんせ数が多い山鳥の化身や」
伊織のゆーてた「
「特徴は一目見たら分かるけど……4枚の羽に4つの目を持ってる、大きさはカラスほどや。それが数百……いや、千はおるかも知れん」
「千やてっ!?」
俺は思わず、大声出してもうた。
多いとは聞いとったけど、千は多すぎるやろ。
そんなんに一斉攻撃されたら、流石に対処のしょうがない。
「他の化身も活性化しとるけど、基本的には単独行動や。熊禅と睦兎が化身を率いるって事はない。不干渉を貫いてるから、協力もしてくれんやろーけどな―」
ここまで聞いて、これから何をすればえーんかが分かった。
まずはその山の主に挨拶して、次に南の山へ行く。
戦闘になるんか話し合いで済むんかは出たとこ勝負……ってやつやな。
「ありがとうございました。私達はまず、二人の化身に挨拶してきますね。それで一回帰ってきますから」
丁寧にお礼をゆーた利伽は、立ち上がりながら今後のスケジュールを良庵さんに告げた。
俺等も、利伽に続いて立ち上がる。
「それはかまへんけど……二人に会ってから一回帰ってくるやって? そんなん、何日掛かるか分からんで?」
確かに、山を幾つも登ったり下ったりしたら、それだけで時間は掛かるは疲れるは……。
疲労回復も考えたら、1週間は猶予を見なあかんところや。
「大丈夫です。私達は……
微笑んで答える利伽に、良庵さんは絶句してた。
……そや。
俺等は接続師。
しかも規格外の、どの霊穴にも接続出来る能力があるんや。
この力を使えば、登山下山の10や20は楽勝や。
……いや、それは言い過ぎか。
「そ……そうやったな―……。けど、そんなに凄いんか? コネクターの力ってのは?」
良庵さんの家系に、接続師はおらんっちゅー話やったな。
代々、封印師の家柄やっちゅー事やから、接続師を見るんは久しぶりかも知れん。
それに良庵さんの口振りやと、接続師が
「はい。これからすぐに出発しますから、良庵さんも見はりますか?」
利伽の言葉に良庵さんも頷いて、俺等は今を出て境内に向かった。
いや、もうちょっとゆっくりしてもえーのに……。
「
俺と利伽は、同時に接続を開始した。
目映い光に包まれて、俺等の姿が瞬時に変わる。
「おおっ!」
それを見た良庵さんの驚きは、どっちかっちゅーたら目を輝かせた子供のようやった。
「それでは、行ってきます」
「うん、気をつけてな」
利伽が挨拶して、良庵さんが答える。
利伽は笑みを浮かべて頷いた。
俺は僅かに頭を下げただけで、二人同時に跳躍した。
俺等の後を、ビャクと蓬も付いてくる。
一っ飛びで山蔭に姿を消した俺等を、良庵さんがニコニコとした笑顔で見送ってくれてた。
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