伊織の庵
今日は土曜日や。
昔のゆとり教育下では休みやったかもしれんけど、今は普通に授業がある。
けど俺と
勿論……っちゅーんやろか、ビャクと
朝食を終えた俺等は、早速
伊織は結局、朝食の場には姿を現さんかったからな。
それは何も、俺等に会いたくないとか、良庵さん達と顔を合わせにくいだとか、利伽が嫌いやっちゅー訳やない。
当然、俺が嫌いや……苦手やって事もない……筈や。
「伊織ちゃんがお務めしてるとこって……ここ?」
兎に角、当の伊織と話さん事には、何をどうすればえーんか見当もつかん。
そして何より……俺等には時間がない。
今日は休んだとして、明日は日曜日。
そこまでは、「家の用事」って事で休んどってもおかしくない。
そんな奴は結構おるからな。
けど流石に、月曜日以降も休んだとなったらいらん噂を呼び兼ねへん。
―――しかも、利伽と一緒に……や。
火の無いところに煙はたたん。
あらぬ噂が噂を呼んで、二人は学校公認の中に……どひゃ―――っ!
「タッちゃん、ニャにを赤い顔してんニョ?」
……うむ。
どうやら時も場合すらわきまえんと、俺は妄想に浸りすぎとったみたいや。
「な……何もないで」
俺は努めて平静を装ってビャクに答えた……けど。
「とりあえず伊織ちゃんに会おうか。早く解決の糸口を見つけ出さんと、月曜日以降も休まなあかんようになるからな」
利伽が冷静な声音で、振り替えることなくそう呟いた。
なんや俺の考えを見透かされたみたいで、俺はどうにも居心地が悪かった。
伊織のお務め場所……は、神社から10分位歩いた所にある
年代を感じさせるその建物は、一目見ただけやったら今にも朽ちそうなボロ屋……。
けど見る者が見たら、霊験あらたかな風情を醸し出してた。
「伊織ちゃん……ちょっとえーかな?」
純和風の建物にノックっちゅーのもへんな感じやけど、利伽はそうして声を掛けた。
「は……はいっ! しょ……少々お待ちを!」
その直後、中からは如何にも慌てていますと言う風なドタンバタンとした音が聞こえ、明らかに焦ってる伊織の声がした。
ま―……考えてみたらそうやわな。
こんな山奥に、友達が訪ねてくることなんかまず無いやろ。
当然、外から声を掛けられる経験も無かった筈や。
しばらくしたら庵の扉が開いて、中からは巫女服で正装した伊織が、恐る恐るって感じで顔を出してきた。
利伽はにこやかに、ビャクは元気良く、蓬は礼儀正しく伊織に挨拶した。
俺も片手を軽く上げて、簡単な挨拶を送った。
年上の人間に、先に挨拶された伊織は慌てて扉から飛び出し、深々と頭を下げた。
学校に行かんほどここに入り浸ってるんやったら、友達も少ないんやろな―……。
俺等かて、家のお務めゆー名目でクラブ活動は勿論、友達と放課後遊びに行くっちゅーのも出来へんからなー。
「おはよう、伊織ちゃん」
「お……おはようございます、利伽さん! ……皆さん!」
利伽の挨拶に、大きな声で返す伊織は何や初々しいな―……。
「ちょっと話したいんやけど……えーかな?」
利伽はまず、伊織の都合を聞いた。
お務め中やって事で、気ー使ったんやろな―。
「は……はい。かまいません。……中に入ってください」
了承した伊織は、俺等を庵の中に案内してくれた。
「おじゃしま―……おおっ!?」
扉を潜った俺は、思わず声を出して驚いてもーた。
外見のボロさからは考えられへんくらい、中は綺麗で整頓されてる。
中は6畳程で広いとは言えん。
俺と利伽、ビャクと蓬が入ったら、途端に窮屈になるくらいや。
「……しょーがないニャ―……」
ビャクはそう呟くと、瞬時に白い子猫へと変化した。
それに合わせる様に、蓬も小鳥の姿になる。
そのお陰で、随分と広くなった様に感じた。
「……す……凄いですね―……。化身が変化するとこなんて、私……初めて見ました……」
その光景を、伊織はこれ以上ないっちゅー位の驚き顔で見入っとった。
俺等がその場に座ると、ビャクは俺の膝に寝そべり、蓬は利伽の方に止まって羽を休めた。
その仕草を、伊織は興味深そうに見つめてた。
「早速、今の現状についてやねんけど」
利伽がそう切り出すと、伊織はハッとなって姿勢をただし、聞く姿勢をとった。
「なんや、この辺の化身が活発になって、ここの霊穴を狙ってくるって話やねんけど?」
利伽は、伊織の考えやら今後の事やなく、今、この霊穴が狙われてる状況を聞いた。
そら―、いきなり身の上話っちゅー訳にもいかんわな。
大体、伊織の気持ちを聞いたところで、本人を説得できるだけの話を出来るかどうかわからんし。
「え……はい、そうです。丁度お父さんが倒れた時期を見計らうように、この辺りの化身が何度もここに侵入を試みだしたんです」
……ん? なんや、妙に慌ててる感じの話し方やな……?
そんなん聞かれるんは分かってたやろうに、そんなにアタフタするような質問やったか?
俺は伊織の挙動に、何となく不自然を感じた。……んやけど……。
「そうなんや……。化身にも、結界の力が弱まったって分かるんかな?」
利伽は別に何も感じんかったみたいや。
まー確かに、伊織は俺等がここに来てずーっと緊張してるみたいや。
友達飛び越えて、お兄さんお姉さんがやって来たら、そら緊張も慌てもするわな―……。
俺でもそうなるわ。
「化身の数は多いん? 強さはどんなもん?」
少し考えとった利伽が、次の質問をした。
「手ー出してくるんは昔からこの辺りに居る、
伊織は考えをまとめながら、ゆっくりとそう答えた。
鳥の化身か―……。
数が多いっちゅーのも厄介やけど、飛ぶっちゅーのも難儀やな―。
「ああ―……あいつ等か―……」
俺の膝の上で気持ち良さそうに寝そべってたビャクが、くだらなさそうに言葉を挟んだ。
「なんやビャク、知ってるんか?」
「知ってんで―。全然大したことニャい、おもろニャい奴らニャ―……」
いや、おもろいとかそ―ゆ―話やなくてやな……。
「以前、
戦った事がありそうな言い方やし、俺はズバリと聞いてみた。
「あんで―。けど、向こうから威嚇しておいて、こっちが近付いたら逃げおるんニャ。何匹か殺ったけど、あいつ等何百羽もおって、それで1つの個体って感じやったニャ―……。結局逃げられたニャ」
猫の姿をしたビャクが、やれやれと言った風に脱力する姿は、どうにもコミカルや。
「それは……厄介な相手やな―……」
ビャクの話を聞いた利伽は、逆に深刻な表情を強めたんやった。
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