翌日


「聞いたぜシュガー! あの高飛車女に勝ったんだってな!」


 廊下の向こうから駆けよってくるシャーリーを見て、シュガーはとっさに身構えた。

 全身にカミソリを仕込んだ相手にハグされてはたまらない。両者にらみ合い、一定の距離を保ったまま、しばしその場でぐるぐると回る。


「なんだよぉ。ちょっとぐらいいいじゃねーか」

「痛いのやだもん」

「ちっ、しゃーねーなぁ」


 シャーリーが構えを解いたので、シュガーもほっと息をついた。毎回コレをやるのだろうか。だとすると、ちょっと面倒くさい。


「メシ食いいくのか?」


 当たり前のような顔でシャーリーは食堂に同行し、シュガーの向かいの席に着いた。

 セットメニューでは代り映えがしないので、今日は一品料理をいくつかセレクトしてみた。

 照り焼きチキンにモツの煮込み。メインはミートソース・パスタ。トッピングにハンバーグも追加する。


「うわ。見事に肉と脂ばっかだな」

「いいじゃん。あたし肉食獣だし」

「健康には気ィ遣えよなー。再生怪人なんだから」

「関係ある?」

「そんなことより、どんなだったんだよ? あの女との勝負はっ!」


 シャーリーは目をキラキラさせた。

 よほどその話を聞きたかったのだろう。

 まあ、なんとなくわかる。ミルシュのようなタイプとシャーリーとでは相性悪そうだし、実際、顔を合わせるたびに喧嘩をしていると聞く。


「どうって言われてもなあ。勝つには勝ったけど、ほとんどこっちが一方的にやられてる感じだったんですけど」

「あー……アイツならやりそう。一気に勝負を決められるのに、ねちねちいたぶるやり方な! まったくヤな女だぜ。けど、今回はそれで逆転されちまったってワケか。ざまーみろだな!」


 テーブルをばんばん叩いてシャーリーは大笑いした。

 悪態をつく舌の滑らかさたるや、ちょっと感心してしまうほどだ。


「あー、くそ。見たかったなあ。アイツの吠え面かくとこ」

「うん。それは、あの場にいても見らんなかったと思うよ」

「なんで?」

「気絶しちゃったから」

「うは、いい気味だぜ。当分そのネタでおちょくれるな」

「うん……けど、ちょっと心配なんだよね」

「ん? どうかしたのか?」


 シャーリーが怪訝そうな顔をする。


「目、覚まさないんだ」

「え……マジか。もう丸一日は経ってるだろ」

「うん。何度か見にいってるんだけど、眠ったままで」

「そりゃあ、その……なんだな。はやく気がつくといいな」


 シャーリーが、シュガーの手をにぎった。

 たぶん、心の底から元気づけようとしてくれているし、彼女自身も本気で心配している。

 なんだかほっとしたような気持ちになって、シュガーは彼女に礼を言った。

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