第12話


部屋をノックする音が聞こえる。

失礼しますと言う声で分かった。

僕のメイドのアリスだ。


「あら、もう目を覚まされたのですか?ミラン様」


「もうじゃねぇだろう!?三日だぞ?三日寝たきりだったんだぞ?」


そうか僕は三日間も寝たきりだったのか。

何だか申し訳ない事をしたな。


「すみません、サヴォスさん。」


その言葉にサヴォスはハトが豆鉄砲を喰らったような顔をする。

何だかちょっと面白い。

いや面白いなんていったら悪いが・・。


「いや・・何でお前さんが・・謝るんだ?」


本当に意味が分からないと言った顔のサヴォス。

それにアリスも首を傾げる。

いやアリス。

お前は分かっていなくちゃいけないだろう?


「いえ、三日前の事ですが・・騙すような真似をしまして申し訳ありません」


「・・いや・・まあ・・なあ・・・・」


サヴォスは何だか複雑そうな顔をしている。

そして頭を捻り始め何とも微妙な顔つきで何とか言葉を紡ぎ出す。


「その・・だな・・。三日前お前は顔面を強打し意識を失った。俺ぁ焦ってこの嬢ちゃんと一緒にこの家まで走ったよ。流石にヤバい出血の量だったからな・・。それで・・お前の親父さんやお袋さんにもあったよ・・」


会ったのか。

我が父上と母上に。


「そのあれだ・・・お前がどうしてあそこまでして力が欲しいのか何となくわかった気がするよ・・」


そう言うとサヴォスさんは俯いてしまった。

我が父上と母上は中々に個性の強い方だからな・・。

初めての人にはインパクトが強かったかもしれない。


「お前のお袋さん・・お前が大きい怪我したと言うのにずっと笑っててよぉ。それよりお前の師匠ならお茶でも飲んでくださいって医者を呼びに行く俺を止めるのよ・・」


そうですね。

我が母上はそういうお人です。

いつも緊張感が無くそしてそれが地であり中々に初めて会うと衝撃を受ける。


「それに親父さん・・・お前が怪我した事を謝ったらお前自身の事は全て自己責任だと言って普通に仕事に行っちまってよ・・」


はい。

我が父上もそういうお人です。

初めての方には良く勘違いされますが愛が無いわけではないんですよ。

そう・・その勘違いされやすいというかなんというか。


「俺ぁ・・お前の提案を呑むよ・・」


「えっ?」


え?

サヴォスさん・・?

そこまで気を使って貰わなくても・・。


「お前さんを最初見た時は・・貴族のボンボンの道楽だと思ったよ。」


おっとこれは。

まあ最初はそう見えますよね。

ええ、自分でも理解しているんです。

だからこそ少しでも生意気に見えないように敬語で冒険者の人にもギルドの人にも接してるんですけどね。


「次にお前を鍛えて才能が無いのを知った・・そしてこの三日で更にお前に対するイメージが変わったよ・・」


「その・・サヴォスさん・・」


「いや・・みなまで言うな。貴族っていうのも使える奴とそうでない奴だと対応が変わるなんて話は聞いたことがあった。それこそ使えない奴は仲間内でも爪はじきなんてのもなぁ。だけどそれが親子間でもあるとはな・・」


いや、別に爪はじきにされている訳では無くこういう家庭なんです。

母上は超が付く天然さんで、父上は超が付く合理主義者で軍人なんです。

でも二人とも優しいし愛も感じてます。

まぁ一般人には中々に理解されないし貴族の中でも変わっているとは思う。


「せめてお前が無事に独り立ちできるまでは俺が面倒みてやる・・だから安心しろ!!」


そう言うとサヴォスが改めて抱き着いてくる。

怪我をしているから優しく抱きしめてくれるが何処となく勘違いの匂いがする。

それを感じアリスに反応を求め顔を見るも・・。


「気持ち悪い。全く男同士で抱き合って・・女の子に縁が無いから男性に手を出すんですか?」


おう・・。

アリス・・お前はサヴォスさんの十分の一でも優しさというモノを持ってくれ。


だが一応これはめでたしめでたしなのだろうか?



それから二日間サヴォスさんは僕の看病だと付き添ってくれた。

その後に契約を行った。

サヴォスさん事態は雇われてもいいと言ってくれたがそれでもやはり何処となく僕としては後味が悪いので当面はやはり師匠という位置取りでいく事とした。


基本的に週給で週に二、三回修業と称して冒険に出てくれる事となった。

なので師匠であり、冒険者仲間である。


「サヴォスさん・・ちょっと質問なんですけどいいですか?」


「何だぁ?」


「その・・貴族と冒険者で・・何か良い金儲けの方法ってないですかね?」


「また直球だな。まあなぁ、それが出来れば貴族として生きていく一つの手だよなぁ・・」


「ええ、父と同じように王国軍に入ったとしてやっていけないでしょうね」


「ああ、お前は正直無理だろうな・・例えば参謀とかっていうのも無理なんだろ?」


「ええ、実戦があり実績があり運があり、そしてやはり軍人としてある程度は高水準でなければ無理ですね」


「だよなぁ・・」


「それに貴族のなる上級文官はほぼ血縁による縁故就職らしいですし・・下級文官は仕事がきつい上に収入は貴族としてみれば少なく同期はほぼ平民ですから・・柵が絶対面倒になりますしね・・」


「俺自身も武人としての経験はあっても冒険者としては駆け出しだ知識が足りねぇし・・貴族はそもそも経験がないしな・・」


「そうですよね・・」


「だけど貴族と冒険者・・ねぇ何処でそれらを利用しようと思いついたんだ」


「いえ、サヴォスさんと初めてあった日に冒険者の一人からちょっと意見がありまして・・」


「まあなにか利用できそうな感じはするがなぁ・・如何せんアイディアも知識も無いと厳しいな」


「そうですよね・・いえ初めから自分で考えないといけないんですから・・」


あの冒険者のお爺さんは足りないモノはある者が補うと言っていたけどな如何せんそんなうまくいく世の中では無いからな。


「逆に俺みたいな貴族の事を詳しく知らない奴よりも、貴族の友達とか居てくれれば相談できるのになぁ」


・・友達・・・。


その時天啓を受けたようだった。

居た。

確かに僕にも友達が居た。


「サヴォスさん・・週末は空いてますか?」



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