第9話




「ふむ・・一応の流れは分かったが事の整合性を考えてこの場に居た冒険者達にも話が聞きたい所ではあるな」


アリスも戻り三人で衛兵隊への説明は区切りが付いた。

だがまだ開放される訳では無くこれからこの場に居た面々に事実を確認していくとの事だ。

衛兵隊の隊長のポールさんは数人ずつ部下と共に冒険者と面談していくそうだ。

この空いた時間にやることをやらねばならない。


「ちょっと良いですかサヴォスさん」


「お?何だい坊主?」


サヴォスと呼ばれた男はそんな風に気軽に返す。

それこそ僕を貴族だと知った上でそんな口の利き方をする。


「貴族が怖くないんですか?」


「怖いねぇ・・面倒とは思うがねぇ、へっへ」


やはりこの人は貴族を怖いとか思わないし、不敬と言うのも理解はしてもそれを態度にすることは出来ない人だ。

であればこそ何処までこの人の心情を読み取れるかが鍵になるな。


「サヴォスさん・・貴方は自由に暮らしたいんですよね?」


「ああ、そうだなぁ。喰っていけるだけの金を稼いで自由に生きる予定さ。ああっとさっきは巻き添えにして悪かったが

 お前らと契約する気は無いぞ?」


「因みにですが・・先程僕たちが貴族であるのを【理解した】上で話を振ってきましたよね?何故僕たちが貴族であるのが分かったんですか?」


ほぅ・・と少し眼の奥に鈍い光が煌めく。

少々警戒度が上がったかと思う。

それでもこの男を僕は雇いたい。

そのために少しでもこの男を見極めなければならない。


「気付いてたか坊主・・?」


「いいえ、僕は気付かなかったですよ。気付いたのは私のメイドです」


サヴォスがアリスを一瞥する。

その目には明らかに好戦的な光が窺えた。


「それで提案なのですが僕の処で働きませんか?」


「おいおい、坊主さっき言っただろ?俺ぁ自由に暮らしたいってよ?」


「そうですか・・まあ提案の一つでしたから、しょうがないです」


「そうそう、俺みたいなのは誰かに仕えるのは性に合ってないんだよ」


ここまでは読んでいた。

恐らくこうなることもあると。

これで罷り間違って雇われてくれれば手間は無いがそこまで世の中甘くは無い。

なら計画通りに進めるだけだ。


「それでは別の方法で贖罪をして頂く他無いですね」


その言葉に表情は変わらないが空気が少し変わる。


「贖罪・・?俺が巻き込んだことか?」


「ええ、そうです。ポミワールさんには既に幾つか罰を受けて頂いています」


「ほぅ・・なら俺も巻き込まれた側ってことでポミワールから請求してくれ」


「僕はそれでも良いのですが・・」


と、アリスを見る。

サヴォスもその視線に引かれて彼女を見る。


「私のメイドは父上の側近です。ですので彼女は今回の事を事細かに話すでしょう」


「へぇ・・んでそれは脅しって事かい?」


「いえいえ、そんな物じゃないですよ。ただの事実。事実なんです」


そうこれは事実。

事実としてこういう流れがある。

それを盾にして僕は願いを聞いて貰う。


「それでお前の父ちゃんが怖いからお前のいう事を俺が聞くと思うのかい?」


「いえ・・ですが貴族として馬鹿にされたのも同然ですから。出しに使われ話に巻き込まれた。それこそ貴方も加害者側と言って差し支えないですよ」


「面倒事なら別にこの国から逃げても構わねぇんだぜ?」


「このままなら面倒事になります。それこそ貴族を馬鹿にして逃げたら指名手配でもおかしくはない・・。でもそれは僕の本意ではないんですよ」


此方を値踏みするような視線。

だが問題ない。

残念ながら僕には貴方が警戒するような策謀は練れません。

だから僕はお願いするだけなんですよ。


「だから適当に父にも分かりやすいような罰を与えるんです。それで終われば父も逆に何も言ってこないでしょう」


「ほぅ、罰ねぇ・・面倒だな・・」


「そうでしょうか?それも罰の内容に依るんじゃないでしょうか?」


「で?・・何を要求するんだ・・?」


よし。

来たこの感じ。

最悪僕をどうにかしてでも逃げようとしているのが分かる。


「サヴォスさん・・ポミワールさんから聞きましたよ。お強いんですよね?確かルーランス剣術の師範代だとか?」


ルーランス剣術はこの国より遠く離れたミラルーシ聖国にある剣術だ。

その強さは異常の一言で近年のドラゴン退治はルーランス剣術門下生が約半分を占める程だ。

そこの師範代とか正直凄すぎて想像も及ばないくらいだ。


「ちっ・・余計な事を・・。」


「ですからその強さを見込んでお願いしたい事があります」


「・・・・・・・」


無言で僕を見つめるサヴォス。

恐らく面倒事の匂いを嗅ぎつけたな。


だがここで目を外しちゃだめだ。

そうそして真剣に真面目に答えるのだ。



「ですので・・・」



僕の言葉にサヴォスが聞き入る。

アリスが芽を見張る。


「僕を鍛えてください!!」


「・・は・・?」


間の抜けた声が響いた。

サヴォスの素っ頓狂とも言える声に僕は内心ホッとした。

そして笑みが零れる。


「その・・お恥ずかしい話・・僕は剣の腕がからっきしでして・・」


「何だよ・・さっきから大層な口ぶりだがどんな難題吹っ掛けられるのかと思ったぜ?」


サヴォスが拍子抜けした顔で僕を見る。

僕もありのままを言うのに恥ずかしくなる。


「すみません・・こんな機会なんて二度とないと思ったらその・・興奮してしまって」


「だがよ・・具体的にどれくらい強くなりてぇんだ?」


やはり抜け目は無い。

だがそれくらいで丁度よい。

寧ろその方が此方としては都合が良い。


「その今日はハウンドドッグと戦ったのですが上手くいかず・・ハウンドドッグ五匹くらいを相手取れるくらいの強さ・・

 いえ【ハウンドドッグ五匹を倒せる強さ】になりたいんです」


「おいおい、ハウンドドッグを五匹って・・そんな簡単なことも出来ないのか?良く生きて帰ってこれたな今まで」


「ええ・・うちのメイドは強いんですよ。先程も言いましたが父の側近でして」


「そうか・・」


何かを考えているサヴォス。

そして出した結論が。


「分かった・・その程度で指名手配されないなら安いもんだ。ここの土地は暮らし良いし気に入ってたんだこのまま居られるなら坊主をちょっと強くすることくらい

 朝飯前だ。その代わり今までみたいに温い訓練じゃないぞ?付いてこれなければ置いていくからな」


「ええ、喰らいついて見せます」


これから僕の策略が始まろうとしていた。


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