第8話
「ポミワールさん、お話があります。」
先程まで錯乱していたポミワールも少し落ち着いたようだ。
その顔には少々の嫌悪感とそしてご機嫌取りをしようという意思が感じられた。
それを慣れない貴族然とした余裕のある顔でミランは受け止めた。
「先程は申し訳ありませんでしたミラン様。男爵家様のご子息であったならばそれ相応の対応をしたというのに御不快な思いを・・」
「いえ、此方にも落ち度がありましたので」
その言葉に何処か安堵するポミワール。
きっとポミワールは心の中で必死に助かろうと沢山の計算をしているのだろう。
その計算を僕が予想することは恐らく無理だろう。
新参者の貴族とは言え、実際には長い年月商人として生き延びてきた古狸だ。
騙し煽てそして今日まで成功してきた曲者だ。
此方にあるカードは上位者としての優位とそれに先程の失態だろう。
その二つでコイツから奪えるものは奪わなければならない。
「ですが・・一応ケジメは付けないといけません。」
「ケジメ・・ですか?」
「ええ、私は許したいのですがそれでもこの話が父に行くと考えると面倒ですから・・」
そう言ってアリスを見る僕。
それに合わせてポミワールもアリスへと視線を向ける。
「彼女は私付きのメイドではありますが、それを手配したのは父上です」
「はぁ・・」
余りピンと来ていないポミワール。
僕は更に曖昧な言い方する。
「ですから僕にできるのは最低限状況の確認と、貴方への適切な謝罪の示唆くらいです」
そこで僕は言葉を切る。
一瞬の静寂が生まれる。
ポミワールは今の言葉から状況を理解しようとするが無理だろう。
それに相槌を打つか迷ったポミワールは先程の失敗を鑑みて言葉を選び質問へと会話を切り替える。
「ええと・・そのそれはつまりお父様への報告と私からの謝罪に便宜を図って下さるということですか?」
「大凡そうですが、認識の違いがあることは理解しました」
「認識の違い・・?」
「ええ・・まず貴方の今回の理不尽は全て父上に上がります」
「ええと・・それは・・」
「先ず手下は大凡町のチンピラ然とした者を使い、しかも掌握しきれず冒険者ギルドで問題を起こした事」
「そ・・それは・・」
反論をしたい所だがここで言っても焼け石に水と言うのは理解しているのだろう。
ポミワースは口を何とか紡ぐ。
それに実際には手を出していなくとも口論になり問題という点では間違っていないからだ。
「更には男爵家の子息を平民扱い、しかも子供に対する礼儀など無く横柄な態度をとる人物」
ポミワースは苦虫を噛み潰したような顔をする。
内心は穏やかでないのは一目瞭然である。
「それを彼女が事細かに伝えるでしょう」
そこで今一度視線がアリスに注がれる。
それを冷ややかな目で見返してくるアリス。
しょうがないだろう!!
これくらいやらなくちゃポミワースだって納得しないんだからさ!!
と、心の中で絶叫する。
「いいですか?彼女は私付きのメイドでありますがそれはあくまで父上が直々に私につくように命令したものです。
私自身も父上には自分の使用人を自分の意思で雇う事は禁止されています」
嘘です。
そんな事禁止されてません。
まあ、ただ単にヘタレでそんな近くに人を置けない性分なんです。
まあアリスは父上に安全も含め必ず私につくように命令しているのは本当ですし、僕にもそれを拒否しない程度には言われていますが。
「今一ご理解されていないようなのでもう少し分かりやすく言いますと、彼女は父上の側近の一人で今は私付きのメイドになっています。」
「側近・・?」
「ええ、そうです父上は軍人であり必然的に家にも武力の或る者を雇う傾向があります。その一人がコンバットメイドの彼女です」
「コンバットメイド・・」
「そうです。そもそも貴族とは言えまだ16、7の子どもが二人で冒険者ギルドに居るんです。仲間を雇っている訳でなければ相応の力があるか
バカかのどちらかです。そして我々もバカでは無い」
「は、はぁ・・」
「それで今回の件は父上の部下である彼女の口から父上に伝わることでしょう」
ゴクリッと唾を呑み込むポミワール。
そう、兎に角焦って貰わなくては困る。
「父上は軍属ではありますが要職についております。故に国の根幹を為す家が貶められたと言うのが噂になるだけでも貴家・・いえ貴方と貴方の商会には
相応の痛手となります」
段々とポミワールの顔色が変わってくる。
何だか悪い気がするがそれでも其方がやったことだし、僕も嘘ばかり言っている訳では無い。
それこそ噂が広まりそれに拍車が掛かれば在り得る未来の事を言っている。
「勿論それで済めば良いですが・・噂でなく父上が腰を上げればその結果は想像するに難くないでしょう」
これで完全に青褪めるポミワール。
これは実の処言い過ぎだがポミワールにをそれを確認する方法は無い。
それに父上の性格を考えるにこの程度で直訴や言いふらすことはあり得ない。
だが取りあえずこの場さえ騙せれば何とかなる。
「それで物は相談なのですが今回の件を詳しく話して頂けませんか?」
「こここ・・今回の件とは?」
「あの男。サヴォスとは何者で何に使おうとしていたのか?」
「そ・・それは護衛として・・」
「一応言っておきますが嘘は止めてくださいね。後で貴方が身辺調査をして新たな事実が出てきた場合私は貴方を救えません」
その僕の後ろで目を光らせるアリス。
若干の殺気が出ているのは先程ちょっと悪者に仕立て上げたことがイライラしたのかな?
ねぇ僕の背中を抓らないでくれるかな?
スゲェ痛ぇんだけど・・?
これ大丈夫!?血ィ出て無い?
なんて事を死角でやっているのをポミワールは勝手に勘違いして自分に殺気が向けられていると思っている様だ。
僕は背中の激痛に耐えながらポミワールと質問を交わす。
その結果面白い事を聞きだすことが出来た。
だが代償に僕の背中は大変なことになっているであろう。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
ミラン「ねぇアリ・・リングスティン背中凄い痛いんだけどコレ・・」
アリス「ええ痛くしましたから」
ミラン「お前握力どれくらい?」
アリス「測った事はありませんが少なくとも指の力で自分の体重くらいは支えられます」
ミラン「ロッククライマーか!!そんな力で抓ったのか!?」
アリス「本気を出してたら・・千切れますよ?」
ミラン「・・・・・」
何をとは聞かないミランであった。
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