第7話


今日の僕はおかしくなっていたのだろう。


ハウンドドッグに襲われ。

メイドにビンタされ。

荷物運びで満身創痍になり。

メイドに罵倒され。

なんか訳の分からない金持ちとその手下に絡まれ。

メイドに気持ち悪いと蔑みの視線を向けられ。


なんか半分はメイドのアリスが悪いような気がしてきた。


「・・・という事です。」


「・・・そうか。」


僕は自分の家が武門の家で在ること。

自分が様々な武術道場やトレーニング、鍛錬の類をしても才能の欠片も見えてこない事。

それでも何とかしようと実戦で魔物相手に特訓をしている事を手短に伝えた。

先程と打って変わって冒険者の人達は案外真面目に聞いてくれる。


「貴族ってのも大変なんだな・・・。」


「はは・・才能の無い自分が悪いんですよ。」


冒険者のおっさんが慰めてくれる。

他の冒険者も頷いている。


「貴族ってのは美味いもん食って、綺麗な服着て、毎日遊んでいればいいと思ったがそうじゃないんだな。」


「当たり前だろ。まあそれで金にがめつい貴族ってのも多いが・・って別にミランさんのことじゃねぇぜ?ほらさっきのポミワースとかいうのみたいなのの事さ。」


ポミワースか。

それでもあの人も商会の会頭とか言ってたしな。

自力で金を稼いでそれを上納金として納めたかして貴族になったんだよな・・。

その点自分には何もない。

父のような強さも。

ポミワールのような商いの知識も。


「そんなしょげなさんなって。冒険者だって程度の違いはあれ一緒さ。」


そんな言葉に僕は顔を上げる。

知らない内に凹んで頭まで下げていたようだ。


「一緒ですか?」


「そうさ、一人でクエストを完遂しようとしたって土台無理な話さ。それで皆パーティを組んで自分の持っているモノを合わせてクリアする。」


「持っているモノ・・」


「ああ、それが腕力なのか魔力なのか道具なのか。人それぞれ違う訳だが、貴族だってなんかさっきも聞いてたら軍属だの財務系だのなんか種類が色々あんだろ?

 お前さんの親父さんは如何か知らんが一人でやることには限界がある。だからアンタも出せるモノがあれば仲間を探してみるってのもアリなんじゃないか?」


「出せるモノ・・」


「おい、ビリディ爺さん。貴族様にそんなフランクな喋り方していいのか?」


「はっは、儂だって若い頃には貴族様の依頼を何回も受けたことがある。普通の依頼も無理難題もな。でもこの坊主はそういう無理難題を吹っ掛ける貴族とは違うよ。儂にゃ分かる。だからこの程度の喋りで儂達をどうのこうのしようなんてしないさ。」


「ええ、そんな事しませんし・・それにありがどうございます。えと・・ビリディさん」


すると目を丸くするビリディ爺さん。


「そんな御礼をされるようなことなんてしとらんが・・?」


「いえ、今の言葉で元気が出ましたし・・なんか少し自分の中でヒントというか。思いつきそうなんです。ありがとうございました。」


そしてミランは立ち上がると未だ話をしているアリスや衛兵隊長の元へと歩いていく。

冒険者達も良い酒の肴になったと皆話ながら酒のお替りを頼んでいる。


「ああいう貴族様ってのもいるもんなんだな。」


「ああ、それにこんな儂にありがとうと言ってくれる貴族は初めてじゃったなぁ。」


「あれ?でも昔は何回も貴族に会ったって言って無かったか?」


「貴族ってのはな。面子の生き物じゃ。人様に・・それこそ儂みたいな冒険者に礼など言わぬわ。精々が報酬に色が付く程度だったしの。」


「それじゃあ珍しい貴族様って事か」


それに対しビリディ爺さんは黙って頷き、どこか優しい目でミランの背中を見送る。



ミランはまだ事の顛末を話している三人に近づく。

そしてアリスに話しかける。


「アリスちょっと良いか?」


「何でしょうか?」


そう言うと一旦アリスと共に場所を移す。

少し離れた冒険者のロビーで話をする。


「実は聞きたい事が・・」


パンッ!!!


え?なんで僕またビンタされたの?

僕は訳が分からないままアリスを見る。


「どうしようもない頭ですね。もう忘れたんですか?名前で呼ばないでくださいと再三言った筈ですが?」


「はい・・ごめんなさい・・。」


僕は本日二回目のビンタと謝罪を済ませた。

やはり僕はいつも恰好が付かない星の元に生まれたんだろうな。


「それでなんですか?」


「今の現状を教えて欲しいんだが・・ポミワースに何処まで要求できると思う?」


その言葉にアリスが目を丸くする。

ミランはこんな顔が見れるなら偶には過激発言も良いものだと思う。


「これは驚きました。今まで貴族らしいことなど何一つしてこなかったミラン様がとうとう悪に染まるという事ですね?」


貴族らしいことなど何一つって・・そこまで酷かったのだろうか?

でもその結果が悪に染まるのならやはりやってこなくて良かったと思う。

いやそんなことはどうでも良い。


「何を考えているか分からないけどアリ・・・・リングスティン。君の考えているような事は何もしないよ。」


「では・・何のために?」


「それはね・・。」


と、僕はアリスに耳打ちをする。

聞こえないとは思うが用心のためだ。

嫌な顔をしているアリスは無視する。


「と、いう事を考えてね。」


「ふむ、ミラン様にしては考えたと言う所ですかね。ですが未だ甘いですね。そのためには二つ懸念がありますし私もご助力致します。」


思った以上にアリスは手伝ってくれるようだ。

それは有り難い。


「ですので・・」


と何やら言いたそうなアリスを見る。

これは何やら


あれを私は所望致します。」


アリスの指さす先を見ると、

【ビッグストロベリー!!入荷予定!!予約は金貨二枚より!!】

と、あった。


僕は手持ちのお金を確認してなんとか首を縦に振った。


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