第6話




「失礼致します。衛兵隊第十三班隊長ポールと申します。」


「よく来てくれた。さあこの物知らずの子供を連れて行ってくれ。流石に貴族の私に対して余りの暴言の多さに看過できず・・」


そう言ってまたも勝ち誇った顔のポミワール。

だがそうはならないんですよ、残念ながら。

そこアリスさん暗い笑みを浮かべないでください。

それに先程から黙っている冒険者ギルド副支部長ルべリアも何処か傍観に回っている。

恐らくこのルべリアさん俺達の素性に気が付いているのだろう。

だからこそ大人しくギルド内に衛兵も入れた。

それこそ冒険者ギルド内で起きた事件は冒険者ギルドで解決する権利があると言うのにだ。

まったく何故貴方がたはそんな黒いのですか?


「では来て頂きますよ?」


「お待ちください。」


慇懃無礼な口調で衛兵に対しアリスが口を挟む。


「何だお前は?此奴の連れか?」


「此奴とは些か言葉遣いが乱暴ですね。私はアリス・リングスティン。此方におわしますリヒター男爵家、次期当主ミラン・リヒター様にお仕えしております一介のメイドでございます。」


本日何回目だろうか。

空気が凍り付く。

そして今気が付いた。

先程から傍観を決め込んでいた冒険者ギルド副支部長ルべリアの狙い。


辺りを見渡すと先程一悶着あった時に腰を上げた冒険者達が驚きながらこっちを見ている。

そしてその驚愕は段々と喜々とした表情に変わっていく。

酒を片手に良い酒の肴を手に入れたと言わんばかりに皆が此方に集中する。

冒険者としても飯を奢られたかと言って満足してはい終わりとは行かなかっただろう。

先程も渋々といった感じで引き下がっていたようだし。

それのガス抜きだろうか?

いやでも僕達を利用しないでほしいと切に思う。


「リヒター・・男爵家?・・・そそそんな名前の貴族など聞いたことが無い!!嘘を付くなこのガキが!!」


ポミワールがそう叫ぶが脂汗が止まっていない。

まったくこのおっさんどうしてそう墓穴を掘っていくかな?


「ほう、嘘だとおっしゃいますか?」


「貴族と言うのはだな、ローラン子爵様やピーグリッツ男爵様の様な方々の事を・・」


「其方の方々は財務系の貴族様でいらっしゃいますが、リヒター家は軍務系の貴族であります。まあだからと言って知らなくて許される話ではございませんが。」


「そそそ、それは・・貴族なんてのは山ほどいる・・・知らなかっただけの話だ・・私はその・・」


最早支離滅裂になってきた。

というか本当なんなんだろうなぁ。

僕ミラン・リヒターは中心人物だろうに僕を中心に周りが騒いでるよなこれ。


「無知は罪でございます。ポミワール・グロス準男爵様。貴方が知らず行った事は名誉貴族による従来貴族への冒涜。また自身より上位者への罵倒。引いては貴族制や現王政への叛意と捉えられても可笑しくはないのですよ?」


ほれぼれするような毒舌というか論理的説明。

というかアリスの奴知ってたな、このポミワールの素性を。

だから逃げなかったのか?

しかも此方が身分を言わずにいたことへは全く触れず、或いは触れられたとしても先に無知は罪と予防線を張っている。

そして此方は其方の身分を知っていると来た。

もうこの人に逃げ場は無いな。

全く恐ろしいメイドだ。


「ちょ・・ちょっと待ってくれ。話に付いていけない。どういう事なのか説明を頂いて宜しいか?」


衛兵の隊長のポールが代表で聞いてくる。

後ろには彼が率いる部下が六名ほど居るが彼らもどうしてよいか分からず固まっている。

恐らく最初の伝達では貴族に絡む子供が二人とかそんな感じだったのだろう。

それがあれよあれよ言う間に、貴族の家と家同士の争いに発展している。

そこに衛兵が下手に口を挟めば今度は自分達が不敬罪でしょっ引かれる。


「私は・・・知らない・・何も知らなかった・・男爵・・だと?」


「ポミワース様は少々お疲れの様です。リヒター家専属メイドの私と・・後其方の冒険者ギルドの副支部長様とそこのポミワース様に勧誘を受けていた

男性の三人で説明を致しましょう。」


あのー、僕は置いてきぼりですか?

そうですか・・。

何だかスゲー勢いで嵐が飛んできて去っていったような感覚だ。


衛兵隊の人達は人が逃げ出さないように見張りを立てている。

そして少し離れた処で三人で何やら話をしている様だ。

巻き込まれた僕は蚊帳の外で。

いや確かに立ち回りというか話をしたのはアリスだけど・・。

なんか本当情けないな。

魔物も狩れず、女の子に助けて貰い、こんなことに巻き込まれ、そして当事者なのに蚊帳の外。

僕が凹んでいると周りの冒険者が集まってきた。


「なあ・・えと・・・坊主・・いやミラン・・様だっけ?」


「いえ、ミランで結構ですよ。冒険者としては皆さまの方が先輩で力もありますし呼び捨てで構いません。」


「あいや、そんなわけには・・・・じゃあミランさんと呼ばせてくれ。」


「ええ、それでも少しむず痒いですが。」


「ミランさん、アンタ本当に貴族なんかい?」


「ええ、本当ですよ。と言っても偉いのは私じゃなく私の父ですが。」


それを聞き盛り上がる冒険者達。

いつの間にか他でも話を聞いていた冒険者が集まってきた。

ジョッキを片手に此方に話を聞きにくる。


「じゃあ、ミランさんもでっかいお屋敷に住んでんのかい?」


「大きいと言われば大きいですかね。庭園もありますし小さいですが裏山も当家の所有ですので。」


「当家の所有だってよ~。俺も山買ってみてぇなぁ。」


「バーカ。お前はまず自分の家を買えってんだ。」


笑いが木霊する。

冒険者達の笑い声は快活で何だか羨ましい。


「それで聞きてぇんだがそんな貴族様が何で冒険者なんかやってんだ?」


「ええと・・それはですね・・。」


そして僕は話し出す。

まるで懺悔をするかのように。

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