第5話
一人の裕福そうな・・もっと言えば成金趣味と言った風体のおじさんが立っていた。
着ている服には幾つもの宝石が付いており指にも幾つも指輪が嵌まっていた。
おじさんの横には理知的な眼差しの従者だろう若者が立っている。
「そこまでです。お使いも碌に出来ないのですか!?貴方たちは!!」
おじさんはそう叫ぶ。
するとみるみる内に柄の悪い男達の様子が変わっていく。
「す、すみません。ポミワールさん・・。」
おじさんの名前はポミワールと言うのか。
あの恰好からして相当な金持ちだろう。
だがそんな事はどうでも良い。
兎に角逃げられる状況になったらいち早く逃げねば。
「全く冒険者ギルドに喧嘩を売る必要なんて無いでしょうに・・・」
「も、申し訳ありません・・」
「全く私の秘書がいち早く教えてくれなければ大変なことになる所でしたよ。」
「貴方がこの方々の責任者ですか?」
ポミワールに話しかけるのは冒険者ギルドの副支部長ルべリアだ。
未だに警戒を怠っていない辺り流石副支部長と言った処なのだろうか?
「ええ、彼らは私の店の・・従業員です」
「随分と物騒な従業員をお持ちの様ですね」
「商いをしていると物騒なことに巻き込まれることもあるのですよ。彼らは私の護衛の仕事も請け負っているのです。」
「取り敢えずここから出て行って貰いたいのですが?」
「ええ勿論直ぐにでも・・ただその前に・・」
そう言ってポミワールはカウンター越しに従業員に金の入った袋を渡す。
そして周りの人達に深々と頭を下げる。
「皆様大変お騒がせ致しました。これは私からのささやかな謝意であります。どうぞ本日の代金は私が持ちますのでお好きにお食事をお続けください。」
その声に冒険者達も渋々と言った感じで引き下がる。
部屋の端で今にも逃げ出そうとしていた人なんかニコニコ顔で戻ってきて酒を注文している。
段々と皆が食事を注文し空気が戻っていく。
「お前達は表で待って居なさい。」
「ですがポミワールさん・・。」
「早くなさい。」
「はい・・。」
鶴の一声で柄の悪い護衛と言われていた男達が出て行く。
ポミワールも出て行くかと思いきやミラン達の席までやってくる。
そして事の発端である冒険者らしき男に近づくと大きくは無い声で話掛ける。
「それで・・サヴォスさん、何故私の商会に入ることをそんなに拒むんですか?」
「アンタもしつこいねぇ。俺ぁ今は自由で居たいっていただろ?それにコッチの坊主と契約中だから切れるまでは無理だねぇ~」
おい・・・。
おい!!
ふざけんな何巻き込んでくれてますかこのおっさんは!!
メッチャ見られてるよ。
金持ちの商売やってるらしいポミワールさんがメッチャ見てくるんですけどぉ!!
「おい子供、その契約の権利売りなさい。」
そう言ってポミワールが金の詰まった袋を投げてくる。
うへーやっぱり。
「あのですね、まず僕は・・」
「ミラン様に対してその口の利き方はなっていませんね下郎。」
瞬間アリスがその毒舌をぶっ放した。
ええええ、アリスさんんん!?
ちょっと・・・え・・・?
何で?
何が気に喰わなかったん?
「おい、ガキ・・私が優しくしている間にさっさと売れ。そうすればそのクソガキが言った事は忘れて・・」
「全く、ガキ呼ばわりとは頭に蛆が湧いていらっしゃるのでしょうか?それとも常識をご理解されていないのでしょうか?」
ポミワールは顔は笑っているが額に血管が浮きあがっている。
完全に怒っているのは明白だ。
「そこのガキ二人。お前達が口を聞いているこの方を何方と心得るか?フェレット商会会頭のポミワール準男爵様であるぞ!?」
ポミワールの後ろに控えていた秘書の男がミラン達に向かって言う。
それに対しアリスは依然として表情を変えずミランは微妙な顔つきとなる。
「ポミワール様は貴族である。貴様達の言動は不敬罪に当たり処罰することも可能だ。如何する!?」
「これこれ・・まあだがそう言う訳だ子供よ。今ならその金で契約を破棄し此方にその男を譲ると言うのであれば考えてやらんでもないぞ?」
勝ち誇った顔でポミワールは此方を見てくる。
それでも上った血はまだ下がって内容で額の血管はぴくぴくしている。
ただこれで色々分かった事がある。
まず準男爵というのは別名を名誉貴族という。
その他にも準子爵や準伯爵などがあるがそれらも同じである。
元々貴族でない者がある功績を為し、国に貢献した場合に与えられる称号である。
恐らくフェレット商会の会頭として国に金を納めたかそれとも商品を優遇したかだろう。
因みに準男爵も法律で言えば貴族であり不敬罪というのもあながち間違っていない。
勿論取り調べをしその結果が黒であれば不敬罪で罰金や禁固刑もあり得る。
だがそれは僕には在り得ない。
何故なら端くれとは言え男爵家の一員。
しかも長男であり跡継ぎ候補だ。
だからあのアリスの態度も納得だ。
アリスは僕に対しても父に対してもあの性格は変えない。
でも与えられた任務はキッチリとこなす人間だ。
貴族の子息の僕を護衛するとはそう言った貴族社会の常識にも則って護衛しろという事だ。
だからこそ僕は嫌な予感がして堪らなかった。
「いい加減にしては如何ですか?貴方のやっている事が如何に愚かであるかまだ理解していないのですか?愚か者は愚か者という事ですね。」
「貴様!!衛兵を呼べ!!此奴らをひったてろ!!!!」
「あ、あのすみません、実はぼk・・」
「もう許さんぞ!!此方が金を出してやってるうちにいう事を聞けばよいものを!!」
そして事はどんどん僕の意図しないところで進んでいく。
見事に僕を巻き込みながら。
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