第4話
「テメェ!!いい加減にしやがれ!!こっちは出すもんは出すつってんだ!!!」
周りのことなど気にせず叫ぶ男。
見た目はどう贔屓目に見ても柄が悪いとしか言いようがない風貌。
その後ろには仲間らしい男が五、六人居る。
それに絡まれている男は冒険者だろうか?
腰には剣があり酒を片手につまみを食べている。
その顔には焦りも緊張も無い。
「アンタらもしつこいねぇ。俺ぁ別に金が欲しいなんて言ってねぇのにイチイチ持ってきてよぉ。」
「つべこべ言わず金を受け取って付いてくればいいんだよ!!」
「はっはっは、断る。今んとこ金に困ってねぇし、何より自由を満喫してんだよ俺ぁよぉ~。」
そういいながら冒険者らしき男はジョッキを掲げ酒を飲み下す。
それに頭にきたのだろうガラの悪い男が殴りかかる。
一瞬だった。
冒険者らしき男が柄の悪い男に触れた所までは見えた。
気が付くと柄の悪い男は宙を舞い、頭から床に落ちていった。
ズドンッ、と大きな音を立て柄の悪い男は受け身も取れずに倒れる。
「人が酒飲んでんだ、邪魔すんなよ。」
「テメェ・・やりやがったな・・」
後ろに控えていた他の仲間達がいきり立つ。
腰から得物を取り出し冒険者らしき男を囲む。
辺りで食事をしている人達も不穏な空気に警戒している。
ある者は巻き添えを喰らっちゃ堪らないとそそくさと逃げだし、あるものは食事を邪魔されちゃたまらんと腰を上げる。
腕に自信のあるであろう冒険者の何人かが柄の悪い男たちに話しかける。
「ここは冒険者ギルドだ。勧誘か何かは知らんが外でやってくれ。」
「俺達を邪魔すんのか?ああ?」
話が拗れそうだ。
そう思い僕はアリスを見る。
僕は早く出たいと思うもののアリスはそうではないようだ。
アリスは目だけは男達を見ながら流麗な手の動きでパンケーキを口に運んでいる。
ああ、こりゃ食べ終わるまで動かないな。
僕は静かに腹を括る。
「だから言ってるだろ?ここは冒険者ギルドで・・暴れるのはご法度だ、理解したか?」
冒険者の一人がそう言う。
しかし、それに対して柄の悪い男達は関係ないとばかりに大声を上げる。
「だから俺達を邪魔すんのか!?俺達が誰の使いで来てるかしらねぇのか!?ああん!?」
「誰の使いとか関係なく冒険者ギルド内で暴力沙汰・刃傷沙汰は禁止されてる。それにこっちは飯食ってんだ邪魔すんな!!」
ああ、拗れそうだな。
というか現在進行形で拗れてんなぁ。
そう思い僕は手荷物に手を伸ばす。
流石に暴れ始めたらアリスを連れて逃げよう。
未だにアップルパイを頬張りながらレモンティーを飲むアリスに一瞥し男達の方へと視線を戻した。
バチーン、という音が鳴った気がした。
実際に音は鳴ってはいない。
しかしそんな擬音が入る程にバッチリとしっかりと合ってしまった。
そう合ってしまったのだ、両の目が。
話の術中にいる、勧誘されているのであろう冒険者らしき男と。
不思議そうな目で僕達を見ている。
なんでそんな不思議そうに見るんですか?
そして何でちょっと笑みを浮かべたんですか?
嫌な予感がする。
こういった時の嫌な予感は十中八九当たる。
それも最悪の形で・・。
「いやぁ~、忘れていた。そう言えば俺ぁ今既に契約をしているんだったぁー。」
険悪な雰囲気の中、調子っぱずれの声が辺りに響く。
そして静寂が訪れる。
柄の悪い男達もそれを諫め出ていけという冒険者たちも黙って見ている。
冒険者らしき男は立ち上がると僕の方へと真っすぐ歩いてくる。
ああ、来ないでくれ。
何となく展開は読める。
だが巻き込まないでくれ。
「なぁ、坊ちゃん。俺ぁ今アンタと契約してるからそれが終わるまでは他の依頼なんか聞けねぇよなぁ~?」
何故だ?
何故巻き込まれた?
いや、今否定するべきだ。
そうすればこの男が嘘を言ってる事を分かって貰える筈だ。
「誰ですk・・」
「誰だ小僧テメェ!!!その男は俺達が契約するように言われてきた男だぞコラぁ!!?」
「ですからしr・・」
「ゴタゴタ抜かしてると小僧でも容赦しねぇぞオイ!!!」
「あの・・」
「テメェ渡さねぇ気かこの野郎!!?」
おぅ・・ジーザス。
何で人の話を聞いてくれないんでしょうか?
きっと昔の偉い宗教家も話を聞かない人には苦労したんだろうなぁ、と思いながら現実逃避をしているとまた別の人がやってくる。
「何をやっているのですか?」
ああ、あれはギルド職員の人だ。
以前に窓口で働いてるのを見たことがあるぞ。
助かった。
僕はそう思った。
これで間違いは解ける筈だ。
「次から次へと何だテメェらはよぉ!!そこの男を連れて帰るのが俺達の仕事だ。邪魔すんならぶっ殺すぞ!!?」
「何だか分かりませんが刃傷沙汰を起こすと言うのでしたらお相手します。冒険者ギルド、サルべニア王国支部、副支部長ルべリアが粛清させて頂きます。」
あれ?
悪化してない?
悪化してるよね?
もう戦闘待ったなしですか?
というか僕達の席を挟んで会話しないでください。
そして僕達を巻き込むように戦闘を始めようとしないで下さい。
これ完全に巻き込まれるよね?
だって僕達を中心にして何で皆戦闘態勢なの?
僕は既に逃げる準備は万端だった。
手には荷物。
腰も中腰でさっきからスタンバイ済みだ、チクショー。
こうなったら速攻逃げてやる。
アリスの手も既に握っている。
アリス!!そんな目で僕を見るな!!
気持ち悪いのかもしれんが我慢しろ!!
お前が逃げずにパンケーキやらアップルパイやらを喰ってるのが悪いんだからな!!
そして爆弾が爆発する瞬間を待つように皆が張り詰めた空気に意識を集中させている時また更に別な声が響いた。
「そこまでです。お使いも碌に出来ないのですか!?貴方たちは!!」
僕は更に嫌な予感を感じながら声の主を確かめた。
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